なぜ、ライバルキャラと交流しなければならないのか 2
図書部の活動というのは、至ってシンプルである。学生が借りたい書籍のリファレンスと、返却された本を元の書架に戻すということだ。至ってシンプルだけど、コンピューターもなく、蔵書70万冊を管理するのって半端ではない。まぁ、図書館長を始めとした専属のスタッフや多数の写字生がいるので、図書部の活動の大半は、読書をするということに尽きる。
「ここからが分類番号200の棚で、文法についての本が秩序を持って並べられています」
「ここが、天文学で……」「ここが、歴史書で…」と、先輩が延々と図書館の中の本棚を説明してくれ、新入生はそれに黙ってついていくだけっていう感じだ。唱歌部と比べると、あまり工夫のないクラブ紹介だと思うけれど、まぁ、それ以外にやりようがないのだろう。
とりあえず、図書館の中は広い。それに、書籍が日焼けしないような間接照明を採用しているので、蝋燭が灯されている学校の校舎よりは薄暗い。
だが、私は間接照明の仕組みに感動をしてしまった。電気も電球もない時代での間接照明の工夫、設計者と職人芸だと感動した。図書館の建物自体に窓はあり、そこから太陽の光が差し込み、それを鏡で反射させ、白く塗られた天井の特定の位置に太陽の光を映し出すという構造で間接照明を実現している。天井の白色が、図書館館内を仄かに明るくしている。本を日焼けさせないことと、図書館内で本を読めることを両立したのはすごいと思う。
「太陽の差し込む角度は、季節によって、時間によって変わりませんか?」と、一緒に回っていたキアラン・バータルが、天井の特定の場所に太陽の光を反射させるようにしているということに関して質問をした。へぇ、地軸の傾きとかそんな知識も広く知られているんだ、中世やるじゃん、と少し感心した。でも、そういえば、上級生になると天文学って科目も加わると、幾何入門の先生が仰っていたような気がする。中世だからって舐めていると、平均点を取れず、キアラン・バータルとのイベントが進んでしまうかもしれない……。
「まず、冬至と夏至の南中高度を計算をしていて、どの季節でも図書館内に光が取り込めるような窓枠を半円形にしています。そして、季節によってと時間によっては、この調整表で鏡の角度を調整しているのです」と、図書部員の先輩であろう人が言った。
「なるほど」と、ゴウィンやチューティアは感心しているようだった。オリヴィアは、理解したのかしてないのか、優しく微笑んでいる感じだった。
ちなみに私は、何の説明をしているのかさっぱり分からなかった……。
「ちょうど質問が出ましたので説明をしますが、この図書館の丁度中央、南向きの、あの天井のところから少し光っているのが分かりますか?」と図書部員の先輩が言う。私たちは、天井を見上げる。たしかに、丸っこいアーチ状の天井に太陽の光らしきものが見える。
「あれは、この図書館内に正午を知らせるために作られた穴です。この図書館の中央の通路の床には、南北に線が引いてあります。そして、あの天井から差し込んだ光が、南北の線にあたるタイミングが、正午です。それに、差し込む場所によって、季節までわかるのですよ」と、図書部員の先輩が説明した。
ああ、この線か、言われないと気付かないわよ、なんて私は思ったが、どうやら他の人はとても感動しているようだ。確かに、建物の設計の段階から考えて造らないと、そんな仕掛けは出来ないだろう……。
「皆さんも、天文学の授業を履修すると、2年生の夏頃には、各自で日時計を作成することができるようになりますので、楽しみにしていてくださいね」と図書部員の先輩は小難しい話を締めくくった。
そして、図書部の見学会の最後に、図書部のお仕事体験大会というのが待っていた。返却された本を正しい書架に戻そうというものだ。図書部の先輩が何の気なしに班を分けていく。オリヴィア、ゴウィン、チューティアという3人の班ができた。え? 私は? なんて思っていたら、キアラン・バータルとデイジー・エステバンとの3人で1つの班になり、修辞学に関する本を書架に戻すという役割を与えられる。
「僕が、この本は運ばせてもらうよ」と、返却するように指定された本を、両手で抱え込んで持ち上げる。さすが、このブルスプの攻略キャラの中で唯一の眼鏡キャラだ。早速、騎士道精神を発揮して、女性に重い物を持たせまいとしている。
「キアラン、修辞学の本棚はあっちだったわ」と言って、キアランを誘導し始める。どうやら、すでにキアラン・バータルとデイジー・エステバンは知り合いのようだ。まぁ、同じクラスだしね……。って、私も同じクラスなのですが……。
どうやら二人は私に興味がないようで、さっさと図書館の書架の間を通って先に進んでいく。侯爵家であるデイジー・エステバンと、伯爵家であるキアラン・バータルにとって、ホリー・ヴァレンティノのような子爵家の人間は眼中にないのだろうか。身分の低い私が自己紹介を切り出すことはできないので、私は黙って二人の後を追うことにした。このまま上手くやり過ごせたらいいなという淡い期待に胸を高鳴らせながら……。




