授業初日、放課後でございます 1
「よかったら、放課後のクラブ見学もご一緒させていただけないかしら?」とチューティアが私に声を掛けてきてくれた。
「喜んで」と私は答える。放課後のクラブ活動も、お昼休みと同様に、攻略対象キャラとのルートを進めるにあたり、重要な要素となる。所属するクラブ活動によって、攻略の難易度が変わってきたりする。まぁ、同じクラブで毎日顔を合わせていたら、仲良くなるし、何某かのイベントが発生しやすくなるよねっていう単純な話ではあるのだけれど、フラグを立てたくない私にしたら、クラブ活動の選択に慎重にならざるを得ない。
ファーガス・ボルドに生徒会の見学にも来るように冬の園で言われたけれど、チューティアが生徒会には見学に行きくないというような感じだった。空気を読んで、私からは生徒会に見学に行こうなんて言わないようにする。貴族らしく空気を読むってやつ? まぁ、虎子を得たくないのに、虎穴に入るのは、無謀な人がやることでしょう。
私とチューティアは、音芸部にまず出かけた。
貴族の夜会での必須のスキルである唱歌を練習するクラブであると、3年生のクラブの部長から説明を受ける。
貴族の夜会では、突然の指名を受けて歌ったりしなければならない。また、夜会の主賓となった場合は、夜会の席で、ダンスも踊らなければならないが、唱歌も歌わなければならない。主賓が歌う場合は、夫婦で歌うことが多いため、貴族の男女ともに必須のスキルとなるのだ。また、男性と女性の2人組で歌うこともあり、高貴な身分のお方ともお近づきになりやすいクラブである。よって。新入生の音芸部の見学は、男女ともに多い。舞踏部と並んで人気のあるクラブでもある。
私が気になるのは、ライバルキャラの一人である、オリヴィア・フロストも音芸部の見学をしている新入生の群れの中にいるということである。ブルスプでは、彼女は音芸部に所属している。また、攻略キャラであるゴウィン・ニールも、やはり見学の群れの中にいる。彼も音芸部に所属する。
オリヴィア・フロストは、ゴウィン・ニールに恋をするというのがブルスプ上の設定だ。オリヴィアもゴウィンも、私と同じクラスではないから、2人は同じクラスとなっているのであろう。
主人公が音芸部に所属し、ゴウィン・ニールとのイベントが進むと、ゴウィン・ニールが「オリヴィアは確かに、技巧も高く、申し分のない歌姫だと思う。だけどね、ホリー。君の歌声には不思議と人の心を惹きつける何かがある。君が歌っているときには、つい耳を傾けてしまうんだ。僕も君の歌声に惹かれている一人だよ」と発言をするイベントが発生する。しかも、その台詞を偶然、オリヴィアも聞いてしまう、という最悪の設定……。
それから、同じクラブの仲間として親しくしていたオリヴィアの主人公への態度が硬化していく。まぁ、唱歌でも恋愛でも、ライバル認定されてしまう、ということだ。
そして、そのままゴウィン・ニールとの恋愛ルートを主人公が突き進んでいくと、陸に上がったセイレーンだとか、舞台上の華姫と謳われたオリヴィアが、主人公に対してだけ、鬼のような悪魔の仕打ちをしてくるのだ。ブルスプの中盤以降、主人公の歌う順番が来る直前にオリヴィアから差し入れられる飲み物だけは絶対に飲んではいけない……。ゲームだったら、その毒盃を仰ぐことにより、ゴウィンとのイベントがさらに進むのだけどね……。ゲームの中だったらいいのだけど、喉が詰まって途中で歌えなくなる毒薬とか、後遺症とかあるかも知れないし、怖いっす。実際に飲むとか、嫌っす。
それに、私はあまり歌って好きじゃないのよね。カラオケとかにあまり行かないし。私が、ブルスプの主人公であるホリー・ヴァレンティノに憑依したのか、転生したのかは知らないけれど、元々の私は歌は下手である。はっきり言ってしまえば、音痴である。歌うことも好きじゃないし。いや…… 逆に、歌が下手だから、ゴウィン・ニールとの恋愛ルートとの恋愛ルートに入る余地がない可能性がある? それならばこのクラブに所属していた方が安全ではないだろうか?
音楽部で、3年生の先輩が、見学に来た1年生の人に一曲披露してくれるということになった。見学に来た一年生は、拍手をして、歌を歌って下さる3年生を迎える。
「止まらない 衝動
揺れる心は 花のよう
高鳴る胸の この鼓動
咲き乱れた 心模様
Blue spring age
blue spring age
焦がれてしまえ 愛の炎に
燃え尽きよ 蝋燭の如く
Blue spring age
blue spring age
虹色に輝く 愛の形に
悪魔がそっと 甘く囁く」
歌い終えた音芸部の先輩が淑女の礼を取った後、部屋の中は万雷の拍手喝采となる。チューティアも、ゴウィン・ニールもオリヴィア・フロストも拍手をしている。私も形上は拍手をしているけれど、私の心の中には嵐が吹いている。
これって、ブルスプのテーマソングじゃん! なんで普通に歌われてるの! みんな、なんで普通に感動しているのよ! なんて思う。ちなみに、ブルスプのテーマソングは、オリヴィア・フロストの声優を担当した人が歌っている。つまり、ライバルキャラ目線の歌であるのだ。この歌は、初恋に動揺する初心な女の子を歌ったものではなく、嫉妬に狂ったライバルキャラを讃える歌なのだ。
「ねぇチューティア。どのような活動をされるのか分かったし、次のクラブへ行くのはどう?」と私はチューティアに言った。久しぶりにブルスプのテーマソングを聴いて、ちょっと心にトラウマが甦ってしまった……。




