夢のような現実
魔法といいつつ魔法がさっぱり出てきません。
ジャンルはコメディーになりますので、ファンタジーと思われた方は申し訳ありません。
は?何言ってるの?
あまりにも突然の告白に一瞬頭がついていかない。
唖然とする俺を置いてけぼりにして、父さんの説明が始まる。
「魔法使い、と言う言葉の意味はわかるな?
魔法を使う人の事で、こういう場合は血統とでもいうのかな、我が家は先祖代々魔法使いを輩出してきた。」
「そして今日お前に渡した物が変身用のアイテムだ。今まで私が使ってきた物だが、お前に譲り渡そう。」
真面目な顔で良い事言ってるっぽいんだが、渡されるのは魔法少女の変身ステッキ。
これは何の冗談だろうか。
「我々魔法使いはこの世の夢を守る為に日々戦っていてな、
それを使って今度から変身して戦ってほしい。」
ちょっと待ってほしい。この世の夢?は?今見て聞いてるこれこそが夢では?
父さんの話にまだ頭がついていっていない。
そうしていると急に父さんが自分の腕時計を気にし始めた。
「どうやら論より証拠と言うことになりそうだな。いくぞ!圭一!」
「はー・・・ほんっとあいつらこりねーなー。いい加減あきらめれば良いのに。」
「言って通じる相手なら戦ってなどいないぞ!」
父さんのノリについて行っている兄さんにも驚くが、
事態についていけないことを良い事に、
二人に両脇から腕を絡まれ、強制的に連れ出される。
「ちょっ!なに?母さん、笑ってないで助けて!」
唯一動きの無い母さんに助けを求めると、
「気をつけて言ってくるのよー。」
と笑顔で送り出されてしまった。母さんもかよっ!!
父さんの車の運転で移動すること20分。
最近できた新興住宅地の中にあるスーパーに着く。
「陸、論より証拠を見せようじゃないか。その変身アイテムを貸してくれ。」
いや、そもそも受け取ってしまったけどこれは俺のだとまだ了解したわけでは・・・
そう思いつつ父さんにステッキを渡す。
「これが私の最後の変身だ!」
何気に格好良いセリフとともに決めポーズとともに光り輝く父さん。
その後に現れたのはどこかの戦隊物ですか?と聞きたくなる青いスーツに身を包んだ父さんだった。
ぇー・・・魔法はどこに言ったんだ!と突っ込みを入れたくなる俺の後ろから声がかかる。
「あれが明日からのお前の姿だからな。」
拒絶したくなる発言に振り返ると、そこには黒いスーツに身を包んだ兄さんが立っていた。
兄さん!あなたもですか!?
「え?いや・・・ちょっとまって、ぇ?圭一兄さんだよね?」
「お前この声とこの流れでわかれよ!弟だろ?つめてえなぁ。」
そのヘルメットの様なマスクからは表情は読み取れないが、
拗ねた様な声はどう聞いても兄さんの声だった。
二人とも大の大人なのに・・・すごく残念な気持ちになったのは間違ってないと思う。
これは夢だ、夢に違いない・・・。起きたら自分の部屋の布団で目を覚ますんだ・・・。
現実を逃避しようとしていると、どこからか車の音が近づいてくる。
「すまん、遅くなった。」
「ごめん、おまた!」
「悪いな、道が混んでいてな。」
現れたのは赤いスーツに白いスーツの、これまた目の前の肉親とそっくりな二人と、
勇吾おじさんだった。
おじさんは父さんの兄で、どこぞの企業の役員までしている。
そんなおじさんが後部座席に赤と白のスーツを載せてきたのかと思うと、
おじさん!あなたもか!て言うかまともな人はいないのか!と突っ込みたくなるのはしょうがないと思う。
「あれ?陸君じゃないか。」
今目の前で起きている事に対処しきれずにいる俺におじさんが声をかけてくる。
「と言うことは聡は引退か。今日までお疲れ様。」
「何を言ってるんだ兄さん、今日はまだ終わってないんだ。まだ早いさ!」
「そうだったな、でも少し早いが言わせてくれ。お疲れ様。」
そう言って熱い握手をする二人。
「父さんも聡おじさんも今はそれどころじゃないでしょ?」
「まったくだ。親父、相手は待ってくれないんだぜ?」
薄々予想していた声で二人が声をかけてくる。
そう、従兄弟の真兄さんと和弘兄さんだった。
認めたくない事実だがご近所と言うこともあり、
よく家族ぐるみで付き合っているだけに、その声に聞き間違いは無い。
「二人とも・・・何やってるの・・・」
力なく二人に尋ねると、
「魔法使いだが?」
「魔法使いだよね?」
あっけらかんと話す二人にとうとう味方はいないのだと悟る。
「まあ陸には今日始めて姿を見せたし、説明もまだだから驚いているんだろ?」
気持ちを汲んでくれたかのように話す圭一兄さんに、
ええ!驚いたよ!驚きましたとも!ていうか早く俺を現実に返して!!
「みんなそこまでだ。そろそろお客さんの登場のようだ。」
青いスーツの父さんが身構えると、駐車場の暗闇で何か動くものがあった。