学園祭一日目・後編
「はあぁーーーーー…」
バニーガールの少女―――火刀美斬は、盛大に溜め息をついた
恐らく、彼女の周りでは幸せを運ぶ妖精が大量に死亡しただろう
「んな溜め息つくな。客がこねぇぞ?………気持ちは分かるがな」
「涼…、上着貸してぇ」
「この上着着たら逆に変だぞ?」
彼女を優しくたしなめたのは鬼龍涼悟
燕尾服を着用し、『2年A組 喫茶店』と書かれた看板を担いでいる
二人は、クラスのコスプレ喫茶店の宣伝係として校内をねり歩いていた
美斬にとってはかなりの羞恥プレイである
「ま、このまま色んなところ回ってみようぜ?」
涼悟の提案に美斬はそうだね、と呟き、手を繋いで歩き出した
―――
龍騎士学園正面玄関で、二人の少年少女が立ち尽くしていた
「ねぇ、ユート」
「なに?レイリ」
「まず、何をする?」
「まず、何か食べよう。お腹空いた」
ユートの回答にレイリは頷き、スリッパを足につっかけ、歩き出した
―――
3年A組教室では、おばけ屋敷をやっていた
しかも、学園祭が開催されてから少ししか経ってないはずなのに、すでに15人以上の人が並んでいる
名かからは、時折悲鳴が聞こえる
美斬と涼悟が近づくと、受付をしていた雪原徹もそちらに気づき、手招きしてきた
「徹先輩、お疲れ様です。賑わってますね」
「やあ、涼悟君。おかげさまでね…。………美斬君は、どうしたんだい?」
「ああ、後ろにいますよ…」
「ち、ちょっと!」
涼悟がそう言い、体をずらすと美斬が出てきた
手に持った看板で必死で隠そうとするが、いかんせん小さい看板なので、全く隠せていない
「…これはまた、刺激的な格好をしているね。クラスの出し物はコスプレ喫茶か何かかい?」
「全くそのとおりですよ。しかも、宣伝係です」
徹は半ば冗談で言ったが、涼悟が呆れ気味に肯定したので、それは災難だったね、と苦笑いした
会話をしながらも、徹は的確に受付業務をこなし、確実に客を捌いている
「……です。コースは、ノーマルとスペシャルがありますが、どちらにいたしますか?」
『じゃあ、ノーマルで』
この何度聞いたかわからない問答に、涼悟は疑問を覚えた
「スペシャル…?」
「ああ、ウチはコースが2つあってね。ノーマルの方は懐中電灯渡すけど、スペシャルの方はわたさないんだ」
徹の回答に二人はへえー、と言うのと同時に、スペシャルコースの出口から悲鳴をあげながら女性が三人出てきて、一目散に走って行った
「……今調度空いてるから、入ってみる?」
二人は丁重に断って、その場を後にした
―――
レイリとユートは、休憩用に解放されていた教室で、たこ焼と焼きそばを食べていた
周りにも、食事をしたり、雑談をしている人々が座っている
「ねぇ、ユート」
「あつ、あっつ…。あ、なに?」
ユートは、たこ焼をふーふーと冷ましながらレイリを見た
レイリも、焼きそばを丁寧に一本ずつ食べながらユートに聞く
「そろそろ、ターゲットを探す?」
「んー…あち、今日はいいんじゃないかなぁ?はふ、なんか、このお祭りの三日目に『八岐大蛇決定戦』て言うのがあるから、あっち!…そのときの報告さえ忘れなきゃ、あつつ」
「わかった…あむ。ユートがそうするなら、私もそうする」
ユートとレイリは笑顔で頷き合い、食事を再開した
―――
涼悟と美斬は、自分のクラスの教室に戻っていた
「もうやだ………」
「おつかれーみっさん!………なんやえろう疲れとるな?」
「…九割おまえのせいだろ」
美斬はテーブルに伏し、涼悟はイスの背凭れに思い切り凭れ、茉理はその姿に労いの言葉をかけた
喫茶店はピークを過ぎたらしく、客も少ない
クラスメイトも大部分が出ているらしく、いるのは美斬と涼悟、茉理、あとは二、三人しかいない
「そろそろメニューも切れそうやし、閉めようかね………と、いらっしゃいませー!」
―――
「いらっしゃいませー!」
ユートとレイリは2年A組の教室の前にいた
「喫茶店…何かたべるの?ユート」
「…レイリ、あそこでテーブルに伏してる人………ターゲットじゃない?」
「あ…!」
レイリは驚いて、ターゲット――美斬の姿をまじまじと見た
絹糸のような美しい白髪
黒いレオタードに包まれた肢体
指令書に添付されていた写真に写っていた少女と酷似している
「2年A組…このクラスか」
「そうね。これで探しやすくなったわね」
二人は笑顔で頷き合った
「じゃ、お茶でも飲んでいこうか」
―――
美斬は、教室に入って来た少年と少女に違和感を覚えた
赤い髪と青い髪、それ自体は特に変ではない
しかし、二人の纏う雰囲気がどこか異質だと思ったのだ
「なあ、美斬。…あの二人、お前に似てるな」
「え…!?」
『確かに、美斬様によく似た気を纏っている』
涼悟と炎花の言葉に美斬は衝撃を受けた
二人の雰囲気、自分と同じ人間と《魔物》の気が混じっている
「そ…んな……!」
自分と同じ禁断の存在との邂逅
これが、少女の人生を大きく狂わせる―――
続く
あー…
やっと1日目終った…
今回、私にしては長かったですね
次回、たぶん告白大会になると思います!