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俺、また馬に生まれました

俺、また馬に生まれました――閑話 ダンシャクの物語

掲載日:2026/08/26

「俺、また馬に生まれました」の続編にあたります。

本編はこちら↓

【俺、また馬に生まれましたシリーズ】

https://ncode.syosetu.com/s7414k/

子どもふたりが自立し、妻とふたりだけの生活に戻る。

銀婚式を控えた妻との共通の話題は子供たちのことばかりだった。

仲が悪いわけではない。朝か晩はどちらかは一緒に食事をとる。テレビのニュースを見てはあれこれ話し、週に1度は外食をする。

ただ一緒に熱中する趣味がないことがさみしく思えた。

妻にそう伝えると、妻も同じように感じていてくれたらしく、つくづく家族に恵まれていると私は感じた。

私の家は代々資産家というか小金持ちで、先代から数頭の競走馬を引き継いでおり、私も自身で選んだ競走馬を所持している。

妻は、次に買う馬を選んでみたいとねだってきた。

「銀婚式のプレゼントに欲しいわ。あなたと一緒にその馬を応援してみるのは楽しそうだから」

「予算内で頼む……。」

億単位の馬をねだられたらどうしようとちょっとだけ恐怖した。


妻と一緒に牧場を巡る。今までは付き合いや、勧められて買うことが多かったのでとても新鮮に感じる。

4件目の牧場で、妻がある一頭の仔馬に目を輝かせた。

「この子、紳士って感じ。素敵だわ。」

私の目には、どのあたりが紳士かわからなかったが賢そうな馬には見えた。

「私できればこの子がいい」

牧場主に相談すると、期待されている馬ではないらしい。

競走馬としては、かなりリーズナブルな価格で譲ってもらえることになった。

価格にほっとしたのは妻には内緒だ。

妻は大はしゃぎで

「この子の名前は貴族だから、男爵にする!!」

子爵とか侯爵とかじゃないのかと思ったが、ダンシャクだけだと馬名が通りそうになかったので「ハシルダンシャク」と名付けた。


それからはダンシャクが出走するレースは妻と一緒に応援に行った。

ダンシャクは、勝ち負けを繰り返しながらオープン馬になった。

オープン入りしたときは孫と一緒にウイナーズサークルで記念撮影もした。

妻だけじゃなく子供も孫もダンシャクを応援してくれた。

ダンシャクは7歳になった。オープンレースでもいくつか勝利を重ねたが、いまだ重賞はとれていなかった。

そろそろ引退の時期かと思っていたが、調教師の「元気なので、引退はまだ先でよいのでは」という言葉に現役を続行した。

ピークを過ぎたダンシャクだったが、勝ちはなくても毎回賞金をとってきてくれた。

妻とふたりで、ときには息子家族と一緒にダンシャクの応援にいった。

ダンシャクは9歳になった。相変わらず着実に走ってくれる。

大きなレースでの勝ちはなくても賞金ランキングに入っていた。そのため斤量が重くなってしまっていたのだが。

ダンシャクはケガもなく元気に走ってくれる。自身より5歳も若い馬に先着する。

ダンシャクは12歳になった。調教師はまだやれるという。

どのレースにでても最高年齢といわれる。ダンシャクはタフだった。自分の食費は自分で稼ぐといわんばかりに賞金を稼いでくる。

馬主にとって理想の馬かもしれない。

ウイナーズサークルでダンシャクと記念撮影をした孫が中学生になった。

ダンシャクの引退を決意した。

「お疲れ様。がんばったね、ダンシャク」

妻は息子の卒業式のときより泣いた。


私はダンシャクを個人所有の種牡馬にすることを決意した。

預託種牡馬を引き受けてくれる牧場を探した。それと一緒にダンシャクのお嫁さんも探す。

妻にはダンシャクにいつでも会いにいけるとだけ伝えた。

有力な牝馬はどこの牧場でも断られる。そんな中、8歳まで現役で1勝クラスだった牝馬で良ければという話がきた。

ダンシャクが産まれた牧場だった。

スイートハニー号、かわいらしいお嬢さんだ。

血統にはそこまで詳しくないが、牧場の方がいうには丈夫な仔が産まれそうとのこと。

条件として、生まれた仔を買い取ることを約束することになった。

私にとっては願ってもない話だった。

妻には内緒でこっそりと生まれた仔馬を見に行った。

後日、このことで妻から3日間、口をきいてもらえなかった。


生まれた仔馬は、ダンシャクに似ていると思った。

ダンシャクとスイートハニー号の仔に、私は安直に「スイートポテト」と名付けた。

これも後日、さらに妻の怒りを買うことになったが。

入厩先を探すのにも苦労した。

勝てそうにないと思われたのだ。厩舎の人たちの生活が懸かっている。当然だと思った。

そんな中、ずっと懇意にしていた荒川先生が預かってくれるという。

先生も苦悩されたようだった。ありがたかった。

後日、新人騎手を乗せてもよいかという相談があったときに、即座に快諾した。


スイートポテトのデビュー戦に妻を誘った。

この日だけは絶対に一緒に行きたいと、頼み込んだ。

出馬表で気づかれると思ったが、妻は気づいていなかった。

「このレースに気になる馬がいるの?」

妻はまったく気づいていない。これは失敗かもしれない。

私の不安とは裏腹にスイートポテトは新馬戦を勝ち抜いた。

正直、レース中のあの変顔には度肝を抜かれた。妻は爆笑していた。

心の中でガッツポーズをしながら妻をウイナーズサークルへいざなった。

「えっ?勝った馬ってうちの馬だったの?」

妻は思ったより鈍かった。

「ダンシャクの仔だよ。」

「!!!!」

妻は大声を出しそうになって、手で押さえてこらえる。

撮影の時の妻はうれしそうだった。

帰りはずっと説教だったが。


あれからスイートポテトは5回のレースを走った。

妻と毎回見に行っている。

勝ちはないけれど、ダンシャクの仔が走っているだけで妻も私も嬉しかった。

調教師から障害への転向の打診があった。

そんなに見込みがないのかと思ったが、先方は「勝つためには障害に行くべきだと思う」と前向きだった。

妻に相談した。

「スーちゃんが元気に走ってくれるならいいんじゃない?障害ってあのジャンプするレースだよね?」

あっさりしていた。

私も異論はなかった。調教師に任せるとだけ伝えた。


6回目の出走レースには、高校生になった孫がついてきた。

最近は小遣いをせびるときくらいしか顔を見せない。

「じいちゃん。最新のスマホ買ってー。」

それが目的か。私は言ってやった。

「スイートポテト号が勝ったらいいぞ!」

……

こういうときだけ勝つんだな。

喜ぶ孫と妻と、2度目のウイナーズサークルに立った。

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