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転生社畜のスローライフできない異世界TS王女生活〜タスクを処理しても処理しても無限に湧き出す特大案件! 俺を国難解決マシーンにしないでくれ!!〜  作者: RCAS
ガレリア動乱

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第二十七話:理外の理と、空転する狂信


 大河を挟んだ決戦の地。

 俺たちエルネア軍は、岸辺に整然とした『密集陣形の槍兵部隊』を展開し、対岸の敵を待ち構えていた。


「我らは戦列への突撃を恐れておらんぞ!」

「押し潰せ! 人民の怒りを思い知らせてやれ!」


 狂信に駆られた『赤き暁』の軍勢は、俺たちの防衛線を視認するなり歓声を上げ、濁流をものともせずに次々と対岸へと押し寄せてくる。

 彼らはあの屈強なガレリアの正規軍を正面から打ち破っているのだ。当然、今回も数と勢いで押し切れると信じ切っている。


 だが、彼らが川の半ばまで差し掛かった、その時だった。

 整然と構えられていたエルネアの槍兵部隊が、突如として陣形を崩し始めたのだ。


「ひぃぃっ! ダ、ダメだーっ! 敵の数が多すぎる!」

「お終いだー! 逃げろぉぉぉっ!!」

「ガレリア軍の二の舞はごめんだー!」


 兵士たちは口々に大げさな悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすように背を向けて敗走を始めた。

 かつてのアムール峡谷の戦いにおいて、ガルド将軍が披露した『三文芝居(偽装退却)』の完全なる再演である。

 しかも今回は、逃げ惑う兵士たちが持っていた長槍パイクを、次々とその場に投げ捨てていくという念の入れようだった。


「ははは! 見ろ、貴族の犬どもが武器を捨てて逃げていくぞ!」

「追え! 一人も逃がすな!」


 対岸に上陸した反乱軍は調子に乗り、歓喜の声を上げながら追撃に移る。

 だが、冷たい川を渡り切って疲労した体と、ただひたすらに身軽になって逃げるだけの兵では、その距離は開く一方だ。

 さらに、ここで俺たちの『本命の罠』が牙を剥く。


 逃げ遅れた敵を討とうと焦る反乱軍の一部が、足元に捨てられていたエルネア軍の長槍パイクを「上等な武器だ」とばかりに拾い上げ始めたのだ。

 長槍というものは、密集陣形で運用して初めて真価を発揮する兵器であり、単体ではただの『重くて使い辛い鉄が先端に付いた棒』に過ぎない。

 結果として何が起きたか。

 長槍を拾って体力を奪われ、極端に足が遅くなった者たち。そして、身軽なまま奇声を上げて前へと突出していく者たち。

 彼らの最大の武器であった『一塊の群衆による突撃(衝撃力)』は、この重さの罠によって完全に分散し、前後に間延びした無惨な烏合の衆へと成り下がってしまったのである。


「お見事。ガルド将軍の指揮により、敵は自ら崩れましたな」


 丘の上から戦況を見下ろすクラウスが、冷徹な双眸を細めて満足げに頷いた。

 敵が戦術級魔法を使用できた場合に被害を局限化するために、あえて陣形を捨てて散兵となる。通常の国家軍相手なら散兵戦術なんてただ蹴散らされて終わるだけ。しかし、貴族という騎士を抱えた組織を解体し追放したことで、有力な騎兵戦力を失った反乱軍にはセオリー外しこそが優位を取れる。

 それがクラウスの導き出した『理外の理』だったが、俺はそこに兵站局長として、さらなるリソースの最適化を組み込んでいた。


「ええ。では、次の工程タスクに移行しますわよ」


 俺の号令と共に、平原に散開していた『二人乗り乗馬弓兵部隊』が機動を開始した。

 前回の敗残兵狩りでかき集めた、農耕・商用の駄馬。速度こそ出ないが積載量に優れるその背に、我がエルネア軍が誇る弓兵を同乗させた即席の部隊だ。

 彼らは完全に足並みが乱れた反乱軍に対し、引き撃ち(遅滞戦闘)を開始する。近づけば正確な矢の雨を降らせ、敵が怒り狂って距離を詰めようとすれば、小走りでスッと後退する。


「おのれ、卑怯な! まともにぶつかってこい!」


 反乱軍が血走った目で喚きながら追いかけてくるが、彼らの振り下ろす農具や粗末な剣は虚しく空を切るばかりだ。

 苛立ちと疲労が敵陣に蔓延し始めた、その時だった。


「人民の光よ、我に力を!!」


 熱に浮かされた敵の魔法使いの一人が、なんと後衛から抜け出し、クソ度胸で最前線まで突出してきたのだ。

 彼は走りながら無理やり詠唱を完了させ、自爆覚悟で戦術級の爆発魔法を炸裂させた。


 大気が悲鳴を上げるような轟音と共に平原の黒土が大きく抉り取られ、目を開けていられないほどの凄まじい爆炎と衝撃波が周囲を蹂躙した。

 引き撃ちをしていた我が軍の軽騎兵部隊の一部が、その理不尽な破壊力に巻き込まれ、人と馬ごと宙へと吹き飛ばされる。

 ――だが。


「……被害は、たったの数騎ですか」


 俺は極めて冷徹に呟いた。

 密集陣形を組んでいれば小隊――下手したら中隊規模で消し飛ばされていた威力だが、部隊が散兵としてバラバラに散開しているため、どれほど強力な範囲魔法を撃ち込まれようとも、致命傷にはならないのだ。


「完璧なダメージコントロールですわね」


 切り札であるはずの魔法使いが自爆同然に果て、それでも突撃を敢行する反乱軍。

 その勇気と戦意は天晴れと言ってもいい。しかし、魔法も通じず、白兵戦にも持ち込めない。ただ矢を射掛けられながら大河を背にして無駄に平原を走らされた反乱軍は、完全に体力を消耗し、ついにその足が止まり始めた。


「……息が上がりましたな。最高の好機です」

「ええ。フィニッシュを入れなさい!」


 俺が右手を振り下ろした、その瞬間。

 戦場の死角となっていた東側の深い窪地くぼちから、地鳴りのような轟音が響き渡った。


「帝国皇子エドワードの名において命ずる! 魔狼騎士団、突撃ぃぃぃっ!!」


 窪地に身を伏せ、ずっと息を潜めていた最強の鉾――ギュンター団長とエドワードに率いられた帝国の重装騎兵部隊が、ついにその牙を剥いた。

 漆黒の鎧を纏った騎兵のうねりが狙うのは、長槍を拾って後方でモタモタしている連中ではない。完全に疲れ果て、最前線で足が止まり、無防備となった敵の主力部隊の横っ腹(側面)だ。

 圧倒的な質量と速度を伴った帝国の蹂躙が、今、空転した狂信を完全に粉砕すべく突き刺さっていくのだった。

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