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転生社畜のスローライフできない異世界TS王女生活〜タスクを処理しても処理しても無限に湧き出す特大案件! 俺を国難解決マシーンにしないでくれ!!〜  作者: RCAS
ガレリア動乱

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第二十一話:『赤き暁』の正体と、ブチギレる王女

 東の隣国・ガレリア王国の陥落。

 その凶報を受けた俺たちは、予定を前倒しして急ぎエルネア王国へと帰還することになった。


「ルシエル姉! 俺も父上を説き伏せて、必ずエルネアに向かう! だから、本国で待っていてくれ!」


 馬車に乗り込む際、見送りに来たエドワードが力強くそう約束してくれた。ただの剣術バカだった頃の彼なら「俺も今すぐ行く!」と後先考えずに飛び乗っていただろう。だが、今の彼は派閥のトップとしての自らの立場と、帝国を動かすための『政治的筋道』を理解している。本当に頼もしい男に成長したものだ。

 また、現皇帝の決断と危機管理能力も凄まじかった。事態を重く見た覇王は、ギュンター団長率いる『魔狼騎士団』の全軍を、エルネア王国との緩衝地帯であるルビコン領へと即座に配備したのだ。これにより、帝国側への延焼を防ぐ分厚い防波堤が完成したことになる。


 数日後、エルネア王都に帰り着いた俺とクラウスは、旅装も解かずにそのまま王宮の軍議の間へと直行した。


「姉上、よくぞご無事で」


 巨大な円卓の中心には、すでに国境を固めるべく全軍の動員をかけていたアルフの姿があった。その顔つきは、姉を想う弟のものではなく、冷徹に国難に立ち向かう『王』のそれである。


「状況は?」

「すでにガルド将軍が王国軍本隊を率いて、東部国境沿いの最前線に布陣し、防衛線を構築しています。今のところ、敵が国境を越えてくる気配はありません」


 目の下に濃いクマを作ったボルマン宰相が、山積みの羊皮紙をめくりながら答えた。この数日間、不眠不休であらゆる伝手を使って情報収集に奔走していたのだろう。


「ボルマン、ご苦労様。それで……ガレリアを落とした『赤き暁』とかいうアナーキスト(無政府主義者)の連中だけど、規模や組織の形態はどうなっているの?」


 俺が席に着きながら尋ねると、ボルマンはひどく困惑したように首を傾げた。


「それが、どうにも奇妙なのです。彼らは『全ての身分制度と国家の解体』を掲げているはずなのですが……王都を占領した彼らは、なぜかガレリアの地方貴族の子弟たちを多数取り込み、ガチガチの『官僚機構』を編成して統治を行っているようなのです」

「は? 無政府主義者が官僚組織を作っている? 意味がわからないわね」

「はい。彼らが掲げる新しいお題目によれば、『まずは国家たる我々が、全ての生産手段と土地を掌握し、一括管理する。然るのちに、民に平等に分配することで、最終的に無政府の理想を完遂する』……と主張しているようでして」


 クラウスとボルマンが「言っていることとやっていることが完全に矛盾している」と顔を見合わせる中。

 俺は、ピタリと動きを止めていた。


 国家による生産手段の独占? 土地の一括管理?

 平等な分配による、最終的な国家の死滅(無政府状態への移行)?

 前世で三十年近く生きた、擦れっ枯らしの日本のサラリーマンとしての知識が、その思想の正体を完全に弾き出した。


 ――それ、アナーキズムへの移行期を言い訳にした、ただの共産主義(プロレタリア独裁)じゃねーか!!


 俺の前世の祖父は、かつてシベリア抑留を経験し、凍てつく大地で凄惨な地獄を味わった男だった。幼い頃から、祖父の酒のつまみは決まって「アカ(共産主義)の理不尽さと、人間の尊厳を奪うシステムの恐ろしさ」についての生々しい体験談を聞いている。

 だからこそ、俺の中には、社畜としての『非効率への怒り』以上に、祖父の魂から受け継いだ『アカに対する激しい拒絶反応』が根付いているのだ。


「……共産主義アカじゃねーか」


 ギリッ、と。俺の奥歯が鳴った。

 今まで被っていた完璧な王女の仮面が、音を立てて剥がれ落ちる。


「アカのゴミは、異世界にまで湧いてきやがるのかよ……っ!!」


 俺はドスの効いた素のヤンキー口調で叫ぶなり、ステゴロの魔力を乗せた拳を円卓に振り下ろした。

 空気を叩き割るような凄まじい轟音と衝撃波が軍議の間に吹き荒れ、分厚いオーク材の机が中央からひしゃげ、木端微塵に砕け散る。


「あ、姉上……!?」

「あ、アカ……とは、一体……?」


 突然ブチギレて机を粉砕した麗しき王女の姿に、アルフとボルマンが完全にドン引きして硬直していた。だが、今の俺に彼らをフォローする余裕はない。

 ふざけるな。せっかく手に入れた寿退社スローライフの切符を、あんな真っ赤な連中に燃やされてたまるか。絶対に、俺の鉄拳で資本主義(物理)の恐ろしさを叩き込んでやる!


 ――一方、その頃。

 王族が処刑され、血の匂いが未だ染み付くガレリア王宮の『玉座の間』。


「ザック将軍! 旧王国軍の残党、完全に掃討いたしました!」

「おお、我らが軍神! 革命の英雄たるザック様、万歳!!」


 熱狂に浮かされ、瞳孔がバキバキに開ききった部下たちが、玉座に向かって狂信的な歓声を上げている。

 その玉座にどっかりと腰を下ろしているのは、無精髭を生やした、筋骨隆々の三十歳前後の男――『赤き暁』の首魁、ザックであった。

 彼は威風堂々と頬杖をつき、鋭い眼光で配下たちを見下ろしていた。


 だが、その内心では、滝のような冷や汗を流して絶叫していた。


(なんで……なんでこんな事になっちまったんだよぉぉぉっ!!)


 ザックは、思想家でも軍人でもない。ただの農民だ。

 数年前、あまりにも税金が高すぎて生きていけなくなり、「どうせ飢え死にするなら!」と破れかぶれで鍬を持って暴れただけなのだ。

 それが、どういうわけか彼の適当な突撃が奇跡的に敵の急所を突き続け、正規軍が勝手に自滅し、気づけば「百戦錬磨の軍神」として祭り上げられていた。インテリ崩れの地方貴族たちが勝手に『赤き暁』などという組織を作り、訳の分からない思想(お題目)を掲げて、彼を神輿に乗せてしまったのである。


(俺はただの小作農だぞ! なんでガレリアの正規軍、俺のヤケクソの突撃で壊滅しちゃうんだよ!? 周りの連中の目、バキバキにキマってて超怖いんだけど!?)


 ザックは、胃の腑から込み上げてくる吐き気を必死に飲み込んだ。

 彼は今すぐこの玉座から逃げ出し、故郷の村で静かに土を耕したかった。だが、ここまで事態が大きくなってしまえば、もはや「一抜け」など絶対に許されない。逃げた瞬間に、この狂信的な部下たちに裏切り者として殺されるのがオチだ。


(誰か……誰でもいいから、俺を助けてくれ……っ! 俺は田舎に帰りたいんだよぉっ!!)


 絶対のカリスマを放つ(ように見える)首魁は、玉座の上で一人、誰にも届かない悲鳴を上げ続けていた。

 エルネアの王女が、前世の怨念を込めて自分を物理的に粉砕しにこようとしていることなど、知る由もなかったのである。

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