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転生社畜のスローライフできない異世界TS王女生活〜タスクを処理しても処理しても無限に湧き出す特大案件! 俺を国難解決マシーンにしないでくれ!!〜  作者: RCAS
帝国婚約訪問

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第十一話:出張先での一次面接と、抜刀のシグナル

 王宮での山積みな引き継ぎ業務、アルフへの権限委譲の再確認、そして長距離馬車での強行軍。

 道中の疲労を癒す暇すら与えられず、俺たちは息つく間もなく国境を越え、目的地であるルビコン領へと足を踏み入れた。前世でも散々経験した悪夢のような弾丸出張スケジュールだが、立場の弱い下請け……もとい、嫁ぐ側の身としては文句を言っている暇はない。


 馬車の車窓から、ルビコン領の景色を静かに眺める。

 ここは五年前、苦渋の決断の末に俺が帝国へと割譲した土地だ。この地は良質な『魔石』を産出する豊かな鉱山資源を持ち、王国にとっても貴重な収入源だった。前世で言うところの、売上高は高いが、維持するためのランニングコストが異常に高い部門である。

 帝国と隣接しているがゆえに、常に膨大な防衛費と人的リソースを注ぎ込まねばならず、長期的に見れば赤字を垂れ流す不良債権だった。だからこそ、俺はあの戦争の和睦の代償として、この土地を帝国に事業譲渡(損切り)したのだ。

 

 あれから五年。車窓から見える街並みや行き交う人々の服装には、いまだにエルネア王国の文化が色濃く残っている。

 外資系企業に買収されたばかりの子会社の社員たちが、新しい親会社(帝国)のやり方に馴染めず戸惑っているような、ちぐはぐな空気感だ。そんな牧歌的な風景の中に、不釣り合いなほど強固で無骨な『帝国騎士団の駐屯地』が建っている。事実上の緩衝地帯となっているこの地を睨む、威圧的な監視塔。今回の一次面接の会場は、あそこだ。


「……忌々しい。我が領土であったこの地に、帝国の旗がふんぞり返っているのを見るのは、どうにも腹の虫が治まりませぬな」


 案内された駐屯地内の豪奢な控室で、ガルド将軍が腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 今回は「アルフの代わり」という名目で、この血の気の多い老将と、若き天才軍師クラウス大佐が俺の護衛として同行している。


「感情論で動いても何も生み出しませんよ、将軍。我々の任務はあくまでルシエル殿下の護衛と、この会談の無事な遂行です」


 クラウスは冷徹な琥珀色の瞳で窓の外を観察しながら、淡々と告げた。


「すでに駐屯地内の兵の配置、巡回ルート、そして最悪の事態を想定した脱出経路の算段は済ませてあります。殿下、万が一の時は私が殿下を抱えて血路を開き、ガルド将軍が殿軍を務めます。いつでも強行突破可能ですので、ご安心を」

「頼もしい限りですわ。ですが、ここは外交の場。武力を用いるのは、本当に、本当に最後の手段になさいな」


 俺は優雅に微笑みながら釘を刺した。

 安心できるか! なんだその、最初から交渉が決裂して武力衝突に発展する前提の物騒なプロジェクト計画は。

 過激派のアルフが選んだメンバーだけあって、こいつら帝国に対する殺意が高すぎる。ちょっとでも交渉がこじれたら、向こうの皇子を物理的に叩き斬りかねない。


「クラウス大佐。事前の調査通り、本日の面接官……いえ、エドワード殿下は、十四歳の第三皇子で間違いありませんわね?」

「はい。皇位継承権はあれど、上に優秀な兄君が二人おられます。ご本人は軍や政治の中枢には関わっておらず、もっぱら剣術の鍛錬に明け暮れているという情報です。……ですが」


 クラウスはそこで、少しだけ声を潜めた。


「その並外れた剣の才能と、裏表のない気性から、最前線を預かる武闘派の将兵たちが熱狂的に彼を支持しております。本人の意思とは無関係に、彼を次期皇帝に推す声が日増しに強まっており、もはや無視できない派閥を形成している。だからこそ、次期皇帝候補の一角と目されているのです」


 なるほど。本人に野心がなくても、周りが神輿として担ぎ上げたくなる天性のカリスマ枠か。

 ドロドロの政治家気質とは違うが、それはそれで厄介な相手だ。俺が脳内で面接のシミュレーションを再構築し終えた直後、重厚な扉がノックされ、会談の場への案内が告げられた。


 通された応接室は、駐屯地とは思えないほど豪奢な調度品で整えられていた。

 俺がソファの前に立ち、背後にガルドとクラウスを控えさせて待つこと数分。

 

「待たせたね、エルネア王国のルシエル殿下」


 軽やかな足取りで部屋に入ってきたのは、帝国の軍服に身を包んだ少年だった。

 金糸のような輝くブロンドに、意志の強そうな碧眼。整った顔立ちにはまだ幼さが残っているが、鍛え上げられたしなやかな体躯をしている。

 グランツェル帝国第三皇子、エドワード。今年で十四歳になるという、俺のクライアントだ。


 俺はふわりと優雅な微笑みを浮かべ、完璧なカーテシー(淑女の礼)を披露した。


「お初にお目にかかりますわ、エドワード殿下。此度はこのようにお茶会の席を設けていただき、心より感謝申し上げます。両国の未来を紡ぐ、実りあるお時間にできればと存じますわ」


 隙のない、完璧な王女としての挨拶。

 まずは当たり障りのないビジネストークで場を温め、相手の要求レベルを探る。基本中の基本だ。

 ところが、エドワードは勧められた向かいのソファにどっかりと腰を下ろすと、出された紅茶に見向きもせず、退屈そうに頬杖をついた。


「そういう堅苦しい挨拶はいいよ。父上や文官たちが書いた台本通りなんでしょ? 俺、そういう政治的な駆け引きとか、国益がどうとか、正直あんまり興味ないんだよね」

「……まあ。帝国の皇子殿下ともあろうお方が、随分と率直でいらっしゃいますのね」


 いきなりのアジェンダ無視。だが、俺は表情を崩さずに微笑みをキープする。


「だって、俺は第三皇子だからね。玉座なんて回ってこないし、俺はただ剣の道で生きていけたらいいなって思ってるんだ」


 本当にただの剣術マニアで、夢見がちな少年じゃないか。

 俺の社畜センサーが、相手の無害さを告げている。よしよし、これなら適当におだてて「良いお茶会でしたわ」という既成事実だけ作って帰れそうだ。


「でもさ」


 エドワードが、ふいに碧眼を細め、俺の顔を真っ直ぐに射抜いた。

 その目には、純粋な好奇心と、値踏みするような剣呑な光が宿っていた。


「五年前、圧倒的に不利な状況から罠を張り巡らせて、帝国の進軍を食い止めた『悪魔のような姫君』がいるって噂を聞いたんだ。俺の嫁になるなら、それくらい肝の据わった面白い女じゃないと嫌だなって思って、ここに来たわけ」

「……あら。随分と物騒な噂ですわね。わたくしはただ、国と愛する弟を守りたかっただけの、か弱い女ですのに」


 俺は扇子で口元を隠し、困ったように小首を傾げてみせる。

 だが、エドワードはニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、ゆっくりとソファから立ち上がった。


「言葉や作り笑いだけなら、なんとでも誤魔化せるからね。君が本当に、あの噂通りの価値がある肝っ玉の持ち主かどうか……俺自身で、試させてもらうよ」


 応接室の空気が、一瞬にして凍りついた。

 立ち上がったエドワードが、左手で腰の剣の鞘を強く握り込み、右手で静かに剣の柄へと手をかけたのだ。


 完全に、抜刀の体勢だった。

 前傾姿勢、筋肉の連動、研ぎ澄まされた視線。それは、一瞬の後には間違いなく鋭利な白刃が抜かれるという、明確にして強烈なシグナルが彼の身体から発せられていた。

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