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転生社畜のスローライフできない異世界TS王女生活〜タスクを処理しても処理しても無限に湧き出す特大案件! 俺を国難解決マシーンにしないでくれ!!〜  作者: RCAS
玉座防衛戦

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第一話:スローライフ終了のお知らせ、そして始まる玉座防衛戦

 前世の記憶を持ったまま転生するという現象は、どうやら本当に実在するらしい。

 俺がその事実を悟ったのは、自分が「オギャー」と産声を上げた瞬間だった。

 視界はぼやけ、体はうまく動かない。それでも、俺の中には『しがないアラサーの社畜(男)』としての記憶と自我が、完璧な状態で保存されていた。


 とはいえ、赤ん坊の体で出来ることなどたかが知れている。

 俺は己の運命をあっさりと受け入れ、ひたすら手のかからない「天才的で大人しい赤ん坊」を演じ切り、面倒な幼児期をやり過ごした。

 そして気付けば十年。

 俺は、小国『エルネア王国』の第一王女、ルシエル――十歳・黒髪に蒼い瞳の超絶美少女――として、王宮のふかふかのベッドで優雅なスローライフを謳歌していた。


 いやー、前世で馬車馬のように働いた分、今世はチート級のボーナスタイムだな。このまま適当に教養を身につけて、適当な貴族に嫁いで、一生遊んで暮らそう。

 そんな、生ぬるいお花畑のような未来予想図を描いていた時期が、俺にもあった。

 そう、運命の歯車がぶっ壊れた『その日』の午後までは。


「申し上げます!! 申し上げます!!」


 バンッ!! と、玉座の間の重厚な扉が乱暴に開け放たれた。

 普段なら無作法だと衛兵に取り押さえられるところだが、駆け込んできた伝令の姿を見て、広間に集まっていた文官や貴族たちは息を呑んだ。

 伝令の鎧はひしゃげ、全身が泥と血にまみれていたからだ。


 嫌な予感がした。俺の前世で鍛え上げられた社畜の危機察知センサーが、けたたましくアラートを鳴らし始めている。


「へ、陛下ッ! ならびに第一、第二、第三王子殿下ッ……! 帝国との国境防衛戦、激戦の末……全員、討ち死になされましたぁぁぁッ!!」


 悲痛な叫びが、広間に木霊する。

 その瞬間、玉座の間に落ちたのは、耳鳴りがするほどの静寂だった。


 ……え? ちょっと待って。嘘だろ?

 うちの親父(国王)は、熊を素手で絞め殺せるレベルの脳筋マッチョだ。

 さらに三人の兄貴たちも、親父の血を色濃く継いだ戦闘狂であり、しかも俺に対しては異常なほどのシスコンを発揮する、頼もしくも暑苦しい最強の戦士たちだったはずだ。


 その、我が国の軍事力と政治のトップ層にして、最強の物理カード四枚が。

 一回の戦闘で、まとめてロストした?


「あ、あぁ……なんということだ……」

「陛下! そして殿下たちまで!」

「お終いだ! 帝国軍が攻め込んでくるぞぉぉ!!」


 静寂は一瞬にして破られ、王宮はパニック映画のクライマックスのような大混乱に陥った。

 無理もない。エルネア王国は豊かな土地を持つが、小国だ。大国である帝国に対抗できていたのは、ひとえにあの脳筋王族たちの圧倒的な武力とカリスマがあったからだ。


 それが一瞬にして消滅した。

 今、玉座の前に残された王族は、十歳の俺と――。


「おねえ、さま……っ」


 俺の豪華なドレスの裾をギュッと握りしめ、ガタガタと震えている、七歳の弟『アルフ』だけである。


 俺は持ち前の真剣な表情を崩さず、混乱する広間を冷ややかな目で見渡した。

 嘆き悲しむ者、逃げ支度を始めようとする者。そして――この非常事態にあって、早くも『悪巧み』の目をしている連中。


 なるほど。あそこの太った宰相や、取り巻きの有力貴族たち。目が完全に『幼い王弟を傀儡にして、国を牛耳ってやろう』って顔だ。

 前世で、派閥争いと権力闘争に明け暮れる上司たちを死ぬほど見てきた俺には、痛いほどよく分かる。

 あいつらの脳内を翻訳するとこうだ。

 

(社長と役員が全員事故死したぞ! チャンスだ、仕事のいろはも分からない、二代目・三代目のボンボンを社長に据えて、実権は俺たちが握ろう!)


 ふざけるな。

 もしあんな腹黒いタヌキ親父どもに実権を握られれば、この国は内側から食い荒らされる。

 最悪の場合、アルフは都合のいい操り人形として利用された挙句、用済みになれば毒殺か、帝国への生贄として差し出されるだろう。


「おねえさま……こわいよぉ……っ」


 見下ろせば、アルフが大粒の涙をポロポロとこぼしている。

 銀色のサラサラな髪に、エメラルドのような瞳。前世を含めても、こんなに庇護欲をそそられる、純粋無垢な生き物を俺は見たことがない。

 いつも俺に懐いて、舌足らずな声で花冠を作ってくれた可愛い弟。


 ダメだ。

 この子を、あんな汚い大人たちのオモチャにするわけにはいかない。

 俺のスローライフ? 知るかそんなもん。


 俺の中の男気――現在は十歳の美幼女――が、静かに、だが爆発的な熱量を持って発火した。

 前世の社畜魂が、腹の底から湧き上がってくる。

 修羅場なんて慣れっこだ。理不尽なトラブル対応こそ、俺の真骨頂だろうが。


「泣かないで、アルフ。お姉ちゃんがついておりますわ」


 俺はアルフの小さな頭を優しく撫でると、その肩を抱き寄せた。

 そして、くるりと踵を返し、玉座の前に堂々と立ち塞がる。


 欲望を隠しきれていない群臣たち。パニックに陥る文官たち。

 その全員を、俺は射抜くような鋭く真剣な視線でキッと睨みつけた。


「皆の者、お静かに!!」


 十歳の少女らしからぬ、腹の底から絞り出したような覇気を伴う声が、広間の喧騒をピタリと止めた。

 全員の視線が、小さな俺に突き刺さる。


「父上と兄上たちの死は悲しいですわ。我が国にとって最大の痛手であることは間違いありません! ……ですが、ただ立ち尽くして嘆いている暇など、今のわたくしたちには一秒たりともありませんのよ!!」


 俺は一歩前に出る。

 王族としての威厳と、前世の修羅場で培った圧倒的なプレッシャーを全身から放ちながら。


「よくお聞きなさい! 王位継承権第一位、次期国王はこのアルフですわ! そして――アルフが立派に成人し、王冠を戴くその日まで! このわたくし、ルシエルが『摂政』として全ての政務と軍の指揮を代行いたします!!」


 静まり返っていた玉座の間が、爆発したようにどよめいた。

 その中から、先ほどまでいやらしい目をしていた丸々と太った宰相が、鼻で笑うようにして前に進み出てくる。


「はっはっは、これはご冗談を、ルシエル殿下。たかが十歳の姫君に、国政や軍事の何が分かると仰るのですか? このような非常事態、アルフ殿下を支えるのは、長年国に尽くしてきた我々臣下の役目。姫君は大人しく、奥の部屋で刺繍でも――」

「お黙りなさい、無能」


 冷酷な声で、俺は宰相の言葉をぶった斬った。

 宰相の顔が、驚きと怒りで朱に染まる。


「なっ……む、無能だと!?」

「ええ、無能ですわ。敵国の侵攻が迫るこの非常時に、くだらない権力闘争にうつつを抜かすような輩は、無能以外の何者でもありませんもの。分かる、分からないではありませんわ。わたくしがやりますの。もしわたくしの決定に文句があるというなら――」


 俺はニヤリと好戦的な笑みを浮かべるような真似はしない。あくまで非好戦的で、冷徹なまでに真剣な表情のまま言い放った。


「全員、論理的に論破して、完膚なきまでに叩き潰して差し上げますわ。束になってかかってきなさいな」


 王宮の常識? 貴族のしがらみ?

 そんなものは知ったことか。

 前世の社畜スキル、理不尽なクレームをねじ伏せる交渉術、徹夜で仕上げた圧倒的なプレゼン力、そして現代日本の知識。

 使えるものは全部使ってやる。


 腹黒貴族の粛清? 破綻寸前の財政再建? 帝国の侵略対策?

 上等じゃないか。全部俺がぶっ潰して、この国を最強のホワイト国家に立て直してみせる!


 目指すは、愛する弟の無事な戴冠と、誰も手出しできない豊かで強靭な国づくり。

 TS転生元アラサー社畜――現・真剣で冷徹な幼女殿下――の、絶対に負けられない玉座防衛戦が、今ここに幕を開けた――!

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