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ヴォイドの呼び声  作者: 昔は良かったと口癖になり始めた人向け


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9

磨き上げられたプレートアーマーに身を包んだ騎士は、剣を構え、目の前の骸骨スケルトンと対峙する。鎧に反射する微かな光が、時を超えて蘇った死者の骨ばった姿を幽玄に照らし出していた。

スケルトンは感情の消え失せた空洞の眼窩で騎士を見つめ、無機質な骨の指で錆びた剣を突き出す。騎士は確かな血の通う肉体で剣を受け流し、スケルトンの骨に衝撃を与えている。

「クソッ! なんて硬さだ!」口の端から呪詛を吐き散らしながらも、その騎士が振るう一閃は、淀みない見事な軌跡を描いていく。押し寄せるスケルトンを圧倒していた。

魔法の練度は、その立派な装いに比すれば蛹のように幼い。だが剣筋に宿る迷いのなさは、ある程度は有しているといったところか。だな妙だ。死霊術の血のオーラの理を知らぬとは。

対する死の徒党、スケルトンたちが振るう刃は、騎士の強固な守りに弾かれ、ついに耐えかねて悲鳴を上げ半ばから無残に折れ飛んでいく。

ああ、あの剣もかつては名のある業物だったのかもしれぬのに。

騎士は苦渋の表情でアンデッド退散の魔法を放とうと試みているが、三体の骸骨が繰り出す執拗な連撃が、その神聖な魔法を喉元で食い止める。

いいぞ、そのまま奴の傲慢な肉を細切れに引き裂いてやれ。

ついに、スケルトンの一体が持つ剣が根元から折れ、リーチを失った。その刹那、騎士の放った剣撃が枯れ木を折るような音と共にスケルトンの頭蓋を粉々に粉砕した。

おっと。

頭蓋骨が吹き飛んだ後も、アンデッドらしくスケルトンは攻撃を止めず騎士に殴り掛かっていった。アンデッドの本質とは理性を超えた純粋な殺意にある。頭蓋を失い、思考の座を砕かれながらも、その骸は歩みを止めない。亡霊の如き執念をその拳に込め、騎士の喉元へと殴りかかっていく。

「この化け物め!!」唸るような叫び。騎士は迫る拳を泥臭く蹴り飛ばし、返る刀身で再び剣撃の舞踏を演じ始める。生きることに固執する哀れな剥き出しの獣のようだ。


弓兵の側にいた騎士の指揮官らしき男の元に別のスケルトン3体が迫る。指揮官の男がその身を橙色のオーラで包み、一振りの戦技、一刀両断が具現化した。戦技を迎え撃つ骸骨の剣など、乾いた薪も同然。鋼鉄の悲鳴と共に、スケルトンは真っ二つに引き裂かれれてしまった。真っ二つにされたスケルトンの残骸は動くことはなく、そのまま地面に散らばっていく。

あいつは他より手強いな。

その男の攻撃は止まらない。一瞬の凪の後に放たれた一刀両断が、残る二体の骸を瞬く間に断絶してしまった。地に転がる頭蓋をブーツで踏み潰す音は、こちらへの無慈悲な引導のようだ。

やられたか。


「隊長! ダメです! 蜘蛛を抑えられません!」

女騎士の悲痛な叫びが、戦火の合間に響き渡る。

諦めろ! 奴は手遅れだ! ウリクを援護し、操っている者を射れ! 男は地面に転がるもう1つのスケルトンの頭蓋骨を剣で刺し砕いた。

「ですが視界が……了解!」

やはりこちらは見えていないのか。

かつての同胞を救うのを諦め、弓兵は苦渋の選択と共に中規模の火球を放つ。蜘蛛に命中すると、熱を帯びた中規模の火球が蜘蛛を焼き、蜘蛛の苦しむ悲鳴が響く。蜘蛛は上半身の肉や内臓、骨が砕けた騎士の体を投げ捨て、弓兵の方を向いた。

「害虫め!」

弓兵が再び手の平に赤い火球を出現させ、力を込め肥大化させていく。

魔力を練り上げる女騎士の背後に、影のように忍び寄ったマーラ。マーラが弓兵の女に飛びかかる。だが抵抗した弓兵の影響で2人は高台から落ちていってしまった。


最初にスケルトンと交戦していた騎士は2体目のスケルトンを無力化してしまっていた。

思ったより戦況が好ましくないな。

「大丈夫か?」指揮官の男が残っている騎士へ呼びかけている。

「はい!すぐに片がつきます!」

「スパイダーめ。よくも俺の部下を」

男の頭上へ槌の一振りが落ちる。だが男はすぐさま避けた。

見誤ったな、デュラハン。

槌の強い衝撃に地面は蜘蛛の巣状のように粉々にひび割れた。

「デュラハンだと!? 一体どこから」

殺したドワーフだと悟っている様子だったが、デュラハンの槌での猛攻がすぐさま男を襲う。男はその猛攻を上手く剣で捌き、デュラハンの攻撃を受け流している。だがデュラハンの絶え間ない攻撃に圧倒されているようだ。

「グハッ!」

男が横目に部下を見ている。

モートが騎士の1人へ飛び掛かり、首をもごうとしていた。

「おのれぇ!!」男は叫び声を上げ、神性なる戒めを放つ。

光輝を帯びた突風が筒形上に放たれ、デュラハンと線上にいた蜘蛛の体を無数に斬りつけていく。

デュラハンが神性なる戒めの切り裂きに怯んでいる隙に、男が剣撃の横切りでデュラハンに一撃を入れた。

男はその隙に部下の元へ援護に向かおうとしているようだった。だがその光輝な輝きさえもこちらの攻勢を押し留めるには至らない。男が部下を救わんと手を伸ばすより早く、モートが騎士の首を、熟した果実をもぎ取るように奪い去った。食べ頃だな。

しかし、奴が部下に気を取られたのは良かった。

「はぁ……はぁ……」

男は息を荒げ、弓兵のいた場所を見た後、慌てて逃げ出していく。部下の死、覆らぬ戦況。指揮官の瞳に宿っていた矜持は、今や恐怖という名の濁流に呑み込まれた事だろう。奴は背を向け、荒れた小さな戦場の泥濘の中を無様に逃走していく。良い判断だが、潔く死ねば良かったと後悔するだろう。その背中を見送りながら、俺は静かに言葉を放つ。

「逃がすな」従属に命令を下す。


生者の残響、生者感知を共に放ち、高台の岩場から落ちた騎士の女とマーラを透過で伺う。

耳と尾の生えた光源が地面に横たわる。もう一方は相手に馬乗りになり、相手は両腕を塞ごうと抗いでいた。騎士の女はマーラに抑え込まれまいと必死に抵抗を続けているようだ。

騎士の女から濃い生命の漏れが鼻と口から生じ、垂れ流れている。汚れある光源は顔が土埃で汚れているのだろう。

マーラは抑え込んだ一瞬の隙をつき、予備の短剣を抜き、騎士の女の喉に思いっきり突き刺したようだ。

「ゴボ……ゴボゴボ……」溢れ出す鮮血は、言葉にならぬ最期の祈りを飲み込み、女の体は痙攣の果て、ただの冷たい肉塊へと堕ちていく。

狐の勝ちだな。

騎士の女は体を震わせ続け、そのまま事切れたようだ。

「ハァ…ハァ…」

返り血を浴び、肩で息をするマーラが短剣を引き抜き立ち上がった。

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