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ヴォイドの呼び声  作者: 昔は良かったと口癖になり始めた人向け


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8

その血のオーラを視ず、死霊の奏でる死の旋律も解せぬ未熟者。死霊術のイロハも知らぬ素人。しかしこの女は、あまりに不可解で、そして妙な香だ。

こいつは初めから、俺のことを知っていたのかもしれない。すべては演じられた虚構か、あるいはその声に潜む魔力による幻想か。霧に巻かれた俺の理が、真実の輪郭を捉えるのを拒んでいるようだ。

この頭に靄がかかったような苛立ち、これも奴の術の残り香が?

スケルトンの枯れた剣が蜘蛛の甲殻を切り裂き、黒い血が飛び散ったのはつい先刻のこと。それなのに、いま蜘蛛の身体を凝視すれば、無残に裂けたはずの箇所が治癒している。蜘蛛自身になにかあるのか、或いはオーラの影響か。

この骨の体は過ぎ去りし時の残影か、それとも記憶が紡いだ、ただの幻影か。リッヂをなぞるこの身体を、真実と呼ぶにはあまりにも虚無的。ああ、目の前の情景さえ理解できぬ自らの精神の矮小さよ。真理を知らぬまま、ただ奇蹟の残骸を見つめることのもどかしさ。この閉ざされた小さき世界の理解すらできぬ己の無知が、魂を焦がすようだ。

「準備はいいか、マーラ」

「もちろん」

「鼠になったつもりで行動しろよ」

「言われなくても分かってるって。ど素人じゃないんだから」

「ならいい。イエナ」イエナはただ、自身の手を強く握り、自らの手の震えていた。イエナの乾ききった魂の鼓動の音だけ聞こえてくる「イエナ」

「は、はい」

「行くぞ」

「はい…」

「お前にスケルトンを1体付ける。その分ちゃんと援護をしろ」

イエナが静かに頷く。

「その子はあなたのお気に入りのアンデッド?」

「マミーは珍しいだろう」

「ていうか、今どきアンデッド自体珍しいけど。まあ話せるのなら尚更かな。でも…言われてみればそうね。マミーなんて初めて見たかも。アンデッド違いなんて気にした事なかったけど。けど私の知る限りマミーは大して強くないと思うんだけど。実際見ていて思うし」

「毒があるな」

「あぁ! あなたの従属は一味違うのよね。楽しみにしてる」

出口付近へ着く。

「見事だったな。ここまで一度も迷わなかった。本当に詳しいとはな」

壁に背をつけ、先の様子を伺うマーラ「疑う理由でもあったわけ? とういうか、良く出口だって分かったわね」

「無駄に長く生きていた訳じゃないからな」

「取りあえず誰もいないみたい」先へ進もうとするマーラ。

「待て」マーラの腕を引く。

「つ、冷たっ」手を振り払うマーラ。「なに?」

「よく見ろ。不可視化だ。あそこにいるだろう」少し特殊だな。目を凝らす。

「装備と魔法の重ね掛けかね。無駄な事を」

「脇の物陰に人間が2人。奥の岩が見えるか? あの岩の高台にも人間の弓兵が1人」

「流石リッヂね」

赤い᳀が装飾された白いサーコートに、黒いインコネルの中装防具を全身に着け、共に同製のカイトシールドを装備している。腰には黄色い輝きを放つ光輝魔力を帯びたロングソードを携えていた。鍛造は中々だが、エンチャントは雑だな。防具の隙間から生命力が漏れ出ている。これならスケルトンでも容易に視認できるだろう。所詮は人間だが、人間がこれほど鍛造の施された装備を得ているとは。時代が過ぎたものだ。

「マーラ、お前は弓兵を殺れ。近距離なら不可視化の歪みで判断できるだろう」

「任せて。朝飯前よ」短剣を取り出し剣捌き見せるマーラ「それで他の奴らはどうするの?」

「心配するな。お前が戻ってくる前に始末しておく」

「頼のもし」

「もう1人いたぞ」隠匿か。

「私には見えない」

「弓兵のいる岩の影だ」

「あ〜あ。うっすらね」

「奴は俺の従属で何とかする。いいか、作戦はこうだ」

少し後……。

「塗りに塗った作戦ね」

「それを言うなら練りに練っただ」

「さあ行きましょ」マーラが身を屈め、前方の物陰へ静かに移動していく。

「モート。あの狐が妙な真似をしたら殺せ」

「ガル」

「よし行け」

作戦の指示通り出口へ四足で駆けていくモート。

生者の残響を放ち、共に戦況を伺う。


「まったく、いつまでこんな所で待機するんだ」

「お前は中に入りたいのか?」

「財宝があれば」

「誰だって行くだろうな。しかし、出てくるのを待つしかないさ」

「だよな。あ〜、なあ本当に入り口は2つだけと思うか? 他にもあったら厄介だぞ」

「どうだろうな。待て、おい何か来るぞ」

モート咆哮が響き渡る。

「おい、くそっなんだあれは!」

盾を構える騎士らへモートが突撃していく。

「吸血鬼か!?」

「いいや、アンデッドだ」

「あの動き、あぁ! こっちに来るぞ」

「くそっ、やるしかない」

身を潜めていた2人の騎士が剣を抜き、岩陰から出てくる。

「くそ、モートだ!」

2人の騎士が後衛に叫んだ後、モートに魔法を放つ。

地面に複数の赤い魔法陣が現れ、次々と魔法陣から火柱が上がっていく。だが敏捷なモートには当たらず、モートの駆けた抜けた後の地面を焼いているだけだった。

「ああくそ!」

殉教騎士の2人はモートに狙いを定めている。騎士が今まで守り抜いてきた誇り高き紋章が描かれた盾を地面に突き、その盾の頂に剣を平行に置く。それは戦いの構えであると同時に、自らの命と剣を神に捧げる愚かな祈りのポーズのようでもあった。片方の騎士は静かに死を受け入れるかのように目を閉じ、剣の柄に手を添えている。もう片方の騎士は、鋭い眼光で迫りくるモートを見据え、その身体は今にも飛び出さんばかりの緊張感に満ちていた。不可視化で天井を這い、上手く忍び寄った蜘蛛が殉教騎士1人の元へ降下していく。

「なに!?」

上手く身を躱す騎士。しかし避けるので精一杯か。蜘蛛の鋭利な2つの牙が騎士をすぐさま捕らえ、兵士の腹肉を鎧ごと突き破っていく。蜘蛛は騎士を捕らえるとすぐさま壁に何度も、何度も激しく叩きつけた。壁へ打ち付ける度に、粉々になった岩の破片が周囲へ舞い、衝撃が辺りへと響いていく。

今のところモートと蜘蛛は良い働きをしている。

蜘蛛の攻撃の影響で粉塵が舞う中、モートは姿を消し、もう1人の騎士の元へ。更に向かわせたスケルトン3体が迫っていく。その間に蜘蛛の胴体には既にいくつもの矢が突き刺さっていた。

風を切る鋭利な羽音、目前に飛んできた矢を避ける。あの射手はあの距離から俺が見えていたのか? しかし粉塵が濃くなり、次の矢は飛翔して来なかった。交戦を背後に、スケルトン3体とマーラが弓兵の元へ迫っていく。

騎士の1人とスケルトンが剣を交え、交戦を始めた。

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