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好きずきも大概にしないとな。こんなものを食うとは。まさか知らずに飲み込んだとはあるまい。
人差し指と親指で硬貨を持つ。
見た事のない硬貨だな。硬貨の記憶は生きているが一致する物はない。
外の世界は随分と流れてしまったようだ。今更驚くべき事でもないが。
次は…ゴブリンか。
ゴブリンの顎を持ち、こちらに顔を向ける。
なんだこれは。額に妙な烙印の跡があった。それも精巧だ。あまり良い予感はしないな。
こっちはリザードマン、いやエルフか。
洒落た指輪をしているな。指輪を拾う。
最後はレッドキャップ。
こいつを現状従属にできれば、多少良い戦力になるんだがな。
少し後……。
結局、イエナ以外はすべて塵になってしまった。あいつは特殊なのか。少し出自が気になるな。他のはもうやるまでもないだろう。墓場から掘り出してきた方がまだマシだろう。
まったくこんなものじゃ、まともなのは生み出せそうにないな。先行きはどうも不安だ。
「イエナ、装備はあったか?」
「沢山ありました」
「そうなのか?」いきなり期待を裏切ってくれるな。装備の山を眺める「確かに数はあるが……どれも状態が悪く錆びていているな。革や布もボロボロ。あまり役に立ちそうではないな」
「そうですね……」
まあまあな状態の革の装備が丁度一式ある。まあこの中では上等な方だ。
古びた革装備一式を身につける。
着心地は悪いが、風が骨の隙間を抜けない分、多少は落ち着くな。
「ほら」状態がマシな剣をスケルトン達に投げ渡す。首までの泥が胸までの泥ぐらいにはなるだろう。錆びた剣を掲げる「これはすぐに折れそうだな」
掲げると同時に中心から折れた。楽しませてくれる。
スケルトン達が状態がマシな剣や盾を装備していく。
「あの…私はどうすれば?」
「戦いの経験はあるのか?」
マシの中のマシな剣を腰へ差す。
「す、少しならあります」
「生前はどうしていたんだ?」
「弓で狩りを」
「ほお〜」
「あ、あの…」
「残念だがここに弓はない」
「他の経験は……まったくないです」
「いいか、お前はアンデッドのマミーだ。毒系統の魔法が使えるはずだ。試しにやってみろ」
「はい…」両手を開き前方に突き出すイエナ「ん、んっ!」
「違う。手に魔力を集中させ、力を込めるようにするんだ。それと、落ち着いてやれ」
「はい」
イエナの手が緑色に光る。
「いいぞ。意外と飲み込みが早いじゃないか」
小さな黄色い毒液が放射状に飛び、スケルトンの背に当たる。
両手で口を押さえるイエナ
「ご、ごめんなさい」
「飲み込みが早くて良い」
「でも当たっちゃいました」
「アンデッドには毒は効かないんだ。寧ろ活力を再生させる」
「そ、そうだったんですか」安堵からか少し笑みが溢れるイエナ。
これは生前心得があったな。蘇ったばかりで記憶があやふなだけかもしれん。
「あ、あの…。これが繭の中に残っていました」
イエナから古びた羊皮紙を受け取る。
──色褪せた羊皮紙。
今の僕は筆を執る指が震え、言葉さえ喉に突き刺さるようだ。こんな結末で君を裏切ること、どうか、どうか許してほしい。 僕の魂は、あの日からずっと君の傍らにあった。どんな時も君を愛する情熱だけが僕の命を繋いでいた。それはウェヌスに誓って本当だ。だ。
けれど兄の急逝という冷酷な運命が僕の行く手を阻んでしまった。家門という重い鎖が僕を縛り、もはや僕自身の意思で歩むことは許されなくなった。分かってくれとは言わない、ただ、抗えぬ運命の濁流が僕を君から引き離したことだけを、どうか心の中に留めておいてほしい。
耳に届いているかもしれないが、僕には許嫁が定められた。彼女は清らかな人だ。けれど、僕の心が彼女にときめくことはない。僕の心は、あの日君に預けたままなのだから。君にだけは、最後の瞬間まで偽りのない僕でいたかった。だからこうして僕は本心をすべて君に向けて書いた。
もう君の瞳に映ることは叶わない。卑怯にも手紙という形で別れを告げる僕を蔑んでくれて構わない。 指輪は、どうか冷たい川の底にでも投げ捨ててほしい。僕との記憶ごと、深い淵へ沈めてほしいんだ。
君は光り輝く新しい朝を迎えるべき人だ。
君の故郷ウッドエルフの森は、きっと今も古の美しさを湛えていることだろう。木漏れ陽と、さざめく風の調べが、どうか君の傷ついた心を優しく抱きしめてくれますように。
君の歩む道が、祝福と幸福に満ちたものであることを、遠き空の下からいつまでも祈り続けている。
エリオット。
──
男は運命の鎖に縛られたまま、女はこの世からの解放という道を選んだ。塵にする前に目にしたかったな。
羊皮紙を地面に捨てる。
魂の中で蠢く慈悲の慟哭。この世の汚れを切り裂くために、慈悲をも凌駕する残忍な幼子の影。この壊れた魂の天秤の中で、己の影はただ虚無を求め佇んでいた。
「イエナ、戦闘の際はお前はスケルトン達の後方から魔法で援護しろ」
「分かりました」
スケルトンが剣で壁を叩き合図を送ってくる。
「何かあったんでしょうか?」
「そのようだな」
スケルトンの元まで向かう。
「これは一体何でしょう?」
「ふむ、魔法障壁の跡だ」
焦げ跡のように残る、障壁跡を指でなぞる。
「まだ魔力が残っているのですか?」
「いいや、風化して今や面影だけだ」
跡がこれほど鮮明に残っている。かなり強力な魔法だったようだな。
「スケルトン3、先行しろ。イエナ、俺の後に続け」
「はい」言葉を発するその体は指先がかすかに震えていた。
通路の奥へ進んでいく。
窮屈な通路を抜け出した瞬間、突如として視界に広がる解放感。
天井の高い開けたフロアは足音がかすかに遠くへ響いていく。
「随分と広いですね」
「そうだな」
少しだが見覚えがある。
「これはなんの像ですか?」
「種族や魔物の像だな」
えらく多いな。
スケルトン3がフロアの奥へ進んでいく。
その時、スケルトンの足元に魔法陣が現れ、視界を覆うほどに緑色に輝いた。だが魔法陣はすぐに輝きを失い、消滅していった。
「まだ罠が残っているんでしょうか?」
「そうだな。今のは不発だったが、足元に気をつけた方がいいだろう」
フロアの奥へ向かう。
「ここは何の場所なんでしょうか?」
「恐らく宝物庫だろう」
「でも像以外なにも見当たらないですね」
「誰かに持ち出された後か、それかどこかへ隠されているかだ」
あれは何だ?
台座へ向かう。
台座に巻き付いた蜘蛛の糸を取り払い、積もった塵を念動で払う。
何かの手形が彫られた台座だった。




