表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴォイドの呼び声  作者: 昔は良かったと口癖になり始めた人向け


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

11

骸の散乱する戦野を虚無の視線で睥睨する。これらはもはや命の残滓ですらない。武勲という名の虚飾を纏い、内実は腐敗へと傾いた質の悪い資源に過ぎない。こいつらを処理せねば。

騎士の残骸に虚無(ヴォイド)の囁きを投じる。

「あまり悦んでいるようには見えないわね」

横でそれを見ていたマーラが、やれやれといった風に肩をすくめる。

「当然だ。装備という名の外殻で本性を覆っている類だ。死霊術という供物に供するには、余りに不味い餌だ。それに状態は酷く悪い」

「そっか。殺し方も死霊術には大事なのね」

一体目。巨大な蜘蛛の圧殺により、肉の繊維が崩壊した奴。

意思を持つ者は、制御に難が生まれる。しかし柔軟性はある。だが後先を考えぬ蹂躙が、素材をズタズタに引き裂いてしまう。

キメラか。

「肉と内臓でできてて、トッピングに1つの目玉。スライムみたいで可愛いわね」

マーラの美的感性が、根底から崩壊していることを証明するには十分だったな。

二体目。頭部を失った亡骸。

戦力としての「首なし騎士デュラハン」を欲したが、ヴォイドの囁きはただのグールを産み出したに過ぎない。

「イエナの友達が欲しいところよね。そうでしょ?」

三体目。上半身を粉砕された指揮官。

これもまた、形を成さぬ「肉の肉塊ミートスラッグ」へと。全身の至る所から視神経が覗き、ピンク色の粘膜が脈動する姿は、生者にとっては吐き気を催す悪夢だろう。素晴らしい。

「太った巨人ね。蜘蛛よりは小さいけど、それでも威圧感がある。体の至る所から目玉が出てて愛らしいじゃない。でもピンク色の肉は、なんだかいまいちね」

切り株サイズの岩に座り、足を組んで膝の上に置いた羊皮紙に何かを書き記しているマーラ。

「なぜメモしている?」

「私の唯一の生きた証」

「ほう、偉大なネクロマンサー、マーラーか」

「はいはい。いつ死ぬかわからないんだから、少しでもこういうの残しておきたいの。短命の生者にとってのささやかな願望なの」

「そうか。茶化して悪かったな。だが悲観は無用だ。天性は、自らの手で鋳造することも可能だ」

「まるで神の如き託宣ね。……あなたが導いてくれるという意味かしら?」

マーラの尾が揺れ、隠しきれぬ期待が垣間見える。

「そう聞こえたのなら、そうなんだろう」

「なんだかんだ信用してくれてんだ。まったく素直じゃないんだから。ンフフ♪」

マーラと話す傍ら、モートが血の付いた羊皮紙と書物を持ってくる。

モートから受け取り羊皮紙を読む。


──血糊の付いた羊皮紙。

もうすぐ我らが殉教騎士団の解体が議会で可決される見通しだ。

議員の連中はネクロマンサーの恐ろしさを完全に忘れてしまっている。

なんでもいい、お前にはネクロマンサーが依然脅威だという証拠を掴んでもらいたい。


しかし我が騎士団にはもう活動資金はあまり残されていない。

どんな手を使ってもいい。必ず議会を納得させる物を持ち返ってくるんだ。


まずはブラックハンドの残党とおぼしき例の獣人の女を追うんだ。

連中は裏で何か企んでいるかもしれない

詳細はユースティティア聖堂にいるルドという物乞いに話を聞けば分かる。


我らにユースティティアの加護があらんことを。

殉教騎士団・上級騎士団長。

ケム・ソーム。

──


書物を開き読む。


──血糊の付いた書物。

──ページ1。

この日をどれだけ待っていた事か。

ようやく騎士団に復帰できる。

──ページ2

報酬が渋い。

長く傭兵生活が続いていたせいか。

だが大した問題じゃない。騎士団では地位と名誉が手に入る。

──ページ3

騎士団再建の噂は本当なのか?

仲間が口々にそう言っている。

今まで裏で活動していたのだろうか?

──

残りのページは血が染みていて読めない。

モートが運んできた略奪品は、殉教騎士団という名の組織がいかに空虚な正義に縋り、予算という名の世俗的な鎖に繋がれていたかを露呈させていた。いつの時代も同じだな。

「マーラ、同業の知己はいないのか」

「いない。ねえ、それより意外と面倒見がいいのね」尻尾をゆっくりと左右に振るマーラ。

「そうか。飢えていただけかもな」

ネクロマンサーと今後会える可能性は分からんな。死霊術が埋もれた世界など退屈だな。

「ふ~ん」

厭わしげな、だが親愛を含んだ眼差しが作るマーラ。

「お前が望むのならアンデッドにしてやる」

「待って、今すぐアンデッドになれって話じゃないよね?」

「安心しろ。お前の意思に従うさ」

「今すぐ、という意味じゃないわよね? ……でも、いつかリッヂになるのが私の夢だった。その時が来たら、お願いするわ」

「ああ」

「で、もう出発する?」

「いいや、まだやる事がある。デュラハン」

攻撃の合図を送る。

デュラハンの豪腕を振るわせ、今しがた生み出したばかりのキメラやグールを一撃で粉砕する。

「いっ!?」

マーラが思わず立ち上がった。

イエナは少し恐怖を覚えているようだ。

デュラハンは続けざまにグールもミンチにしていく。

「剣の切れ味も悪くないな」

「確かに斬れる。玩具の剣じゃないのは分かったわよね」

「昇格を知らないのか?」

「聞いた事はある、ような。詳しくは知らない」

マーラがじっと見つめてくる。

「聞きたいのか?」

「もち」

対象が一定の死霊魔力を蓄積した時、そこに新鮮な生命力を注入し、存在の次元を引き上げるんだ。だから無駄のないよう、現状有用なデュラハンに与えたんだ」

「ナルホド」

イエナを少し見るマーラ。

昇格儀式を放ち、活力をデュラハンに与える。

「生命力?」

「いいや。そこが肝だ。生者の場合は容易いことじゃないが、アンデッドの場合は大したリスクではない。低俗な場合は異なるが」

「回復魔法。毒を与えるのは?」

「純粋な活力でなくてはダメだ。それも新鮮な。確か陣の類いで他者を生け贄にする方法があったはずだ。生者にとってはそれが最もポピュラーだろう」

「なるほど」

デュラハンを覆っていた緑のオーラが消滅しデュラハンが昇格し終わる。

「……これが、文献にあるワイトよね? 気配の重圧が先ほどとは別物ね」

思ったよりも消費したな。なにか、根本的な力が欠けている気もするが。

「ワイトだと? こいつをペットにでもしたのか?」

「うーんうーん。文献にあったの。昇格後のアンデッドに、それぞれ名前がつけられてた」

「分類する為にか?」

「たぶん。あんまり覚えてないけど」

「そうか。いずれにしろ無意味だから必要はないだろう」

「でも、右も左も分からないネクロマンサーには、駆け出しの知識としては必要だと思うけど。ふん、夢がないわね。デュラハン・ワイト……ほら、響きが美しいじゃない」」

「だが数字でいいと思わないか? 簡単で覚えやすい」

「まあね。デュラハン2よ! う〜ん、やっぱり数字だとしっくりこないかな」

「多くの生者を指導するのはお前の方が合っていそうだ」

「同じアンデッドには、昇格をどれくらい繰り返せるものなの?」

「話せば長くなる。もう出発だ。街まで案内しろよ」

「オッケー」

羊皮紙とペンを腰に付けたバッグへとしまうマーラ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ