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ヴォイドの呼び声  作者: 昔は良かったと口癖になり始めた人向け


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指揮官の男を追い詰めたのは、物理的な恐怖と逃れられぬ死の包囲網。回り込んだモートと後方から迫るデュラハンに距離を保ったまま身構え、膠着状態に陥っていた。

焼けた炎を鎮火し終えた蜘蛛に男へ糸を浴びせるよう指示を出す。

蜘蛛が吐き出した放射状の糸は、運命の糸車が紡ぐ拘束具のごとく男を絡め取る。男の反撃で消滅を恐れ待機させていたデュラハンに攻撃の合図を送る。デュラハンは奴に受けた魔法の影響で鎧に多少ダメージを負っているようだ。

男は決死の覚悟で輝きの導きを放ち、黄色く輝く炎を全身に纏っていく。炎は蜘蛛の糸を焼き切り、男はデュラハンへと牙を剥いた。その根性は見事であった。だがさほど問題ないだろう。

しかしデュラハンが殺られるとこちらは完全に終わりだ。しかし奴は一度は逃げ出そうとした身、必ず効くはずだ。

手に力を込め、死の誘いを放つ。周囲一帯に緑色のショック波を駆け抜けさせる。

「うぐ!?」

恐らく男の脳裏には一瞬、おぞましい自身の死と、過去の酷いトラウマが駆け巡ったことだろう。

男が絶望の表情を浮かべている。

その隙をつき、デュラハンが男の頭部を槌で粉々に潰した。周囲に男の血肉と脳みそが飛散する。血、炎、衝撃で荒れ果てた戦場に静けさが戻る。


「死体と装備を運べ」

勝利の余韻は、時で熟されたネクタルのように心地よい。

「イエナ、話がある」

「は、はい……」

背後で蜘蛛やデュラハンが死体と装備を順調に運んでいる。

「魔法は撃たなきゃ当たらないだろ。なぜ手を貸さなかった?」

「す、すみません……」

俺は恐怖に立ちすくんでいたイエナに手をかざす。命令に背く従属は不要な部品に過ぎない。

「待ってください!」そう縋るイエナに、俺は最後の温情として次という名の執行猶予を与えた。これは慈悲ではない。戦力という名の駒を使い潰すための、冷徹な算段の1つ。

「誰かを殺すのは……」

「誰もが一度は産声を上げる。それは認めよう。だが、お前のその黎明は、つい先ほど死にかけた。ネケシタスの脆き糸は、お前に微笑みかけたのだ。

……だが、あまりに危うい勝利劇だったな」

「わ、私はただ……」

「ねえ! 私の取り分はあるの?」

戻ってきたマーラがわざとらしく叫ぶ。

かざしていた手を戻す。

「イエナ、次の戦いが最後のチャンスだ。行け」

「ありがとう……ございます」

蜘蛛とデュラハンの手伝いに行くイエナ。

地面に散らばるスケルトンの残骸を眺め、足元に転がるスケルトンの頭蓋骨を念動で拾い上げる。頭蓋骨に魔力を注ぐ。一瞬、虚ろな眼窩が緑色に燃えたが、それはすぐに風に舞う塵へと変わった。かつては強大な力を誇ったであろう残響も、時の流れという名の暴君には抗えぬ。俺は無造作に手の塵を払った。長年この遺跡に放置され、辛うじて残っていた魔力の産物。使い果たしてしまったようだな。

僅かだが、この時まで魔力が残っていたということは、生前はさぞかし強力だった者かもしれん。


顔に浴びた返り血を腕で拭い、全身土で汚れたマーラが俺の元へ来る。

「マミーは貴重なんじゃなかったの?」

「差し当たり、な。だが鬱陶しさの方が勝ったんだ」

「でも最終的には許したと」

「チャンスを与えたんだ。失望した事実に変わりはない」

「まっ、いいけど。それにしても随分とやられたわね。スケルトンは全滅。デュラハンと蜘蛛はボッロボロ。今まで大切にしていた仲間が殺られて、少しは堪えたんじゃない?」

「皆会ったばかりだ」

「そうなの?」

「スケルトンは遺跡で朽ちていた者達。蜘蛛は襲ってきた後、利用しただけだ」

「結構ポジティブなのね」

「どうでもいいが、お前も一応は戦えるようだな」

「当たり前でしょ。私を一体何だと思ってたの? とういうより、私以上に戦う前と変わりないのは貴方の方よね」

「俺は指揮していただけだからな。だが安心しろ、戦いはまだ続く。お前を犠牲にするという俺の指揮を完了させるまではな」

「ンフフ♪ 見た目より元気なのは分かった。あとは~」両目を上に向け人差し指で唇を軽く触るマーラ「イエナかしら」

「マーラ、臭うぞ」

「それが、少し漏らしたかも。小さい方。もう少しで眼球に剣が突き刺さるところだったから」

「まあ、戦いで漏らさぬ奴は、下等で哀れなピエロだからな」

「貴方も?」

「いいや。この体だと、生理的不和が生じないんだ。それより蜘蛛にお前が殺した奴の死体の場所を教えてやれ」

「オッケー、ボース」軽い敬礼をこちらに飛ばし、蜘蛛の元へ行く。


少し後。


しゃがみ、鎧を探るマーラ。

「ねえ、いくら器だからって、大勢殺して心が痛んだりしない?」

「世の中を良くしているだけだ。お前は痛むのか?」

「戦っている最中は何とも思わないけど、寝付きが悪くなるのは確かね。私、ちゃんと血、流れてるもん」

「鎧の方はどうだ?」

「良い鎧だけど、どのエンチャントも私達には不用ね。それにこんな鎧着て歩けないしね。溶かすしかなさそう」

「珠をよこせ」

「はいどうぞ」

「資金にはなるな」

「リッヂの金の使い道って?」

「まあ、色々だ」

しまう。

「お前の言う通り着ては歩けんな。装備は売るだけだ」

デュラハンに指示を出し、蜘蛛にくくりつけた布に装備をしまわせていく。

「デュラハン、それはお前が使え」指揮官が持っていた剣をデュラハンに装備させる。剣を掲げるデュラハン

「あなたはいいの?」

「俺は身軽な方がいい。前衛に出ない以上不要だ」

指揮官のブーツをはく。

「なるほど。それで~? もちろん、彼らの死を無駄にしたりはしないんでしょ」

「当然だ。死した証として、羞恥の元、酷使してやる」

「最低ね。やりましょ♪」

「その事だが、お前の腕も是非見せてくれ」

「いいわよ~」マーラは両手を開き、突き出して目を瞑り、集中しているようだ

「ハッ!」

何も起きる気配はない。

「あなたとの出会いで、神秘的で劇的変化が起きると思ったんだけど」

「正直なところ、お前は信用できない。お前の言動を含め、騎士にそこまでの絶望も感じなかった。連中は戦争を交え、ネクロマンサーの組織など、興味が薄れているのだろう。 残党のお前にこの戦力だ」

「好き放題言ってくれるわね」

「おかげで討伐は免れたが、そのブラックハンドとやらも嘘か?」

「それは本当。実在するし……いやしたと思う」

目を細める「思うだと?」

「嘘じゃないって」

「もう存在しないのか?」

「あーん……。私の知る限りでは。だからあなたがリッヂと分かった時」どこか懐かしむような表情を浮かべるマーラ「正直嬉しかった」

「いつからだ?」

首を横に振るマーラ「正確には分かんない。私の両親が殺された時かな」

「両親もブラックハンドに?」

「うん。ブラックハンドのある支部は父が率いていたのよ」少し俯くマーラ「両親に教えられたからじゃないけど、神や悪魔に魂を渡すことなく、自分の意志のあるなしに、この世界に留まり続けられる。そして役目を終えたらヴォイドの元へと行き、リッヂとしてこの世に復活する」俺を見つめるマーラ「ほんと、素晴らしいわよね。リッヂのあなたが心底羨ましい」

「万物はいずれは朽ちる運命だ。アンデッドも例外ではない」

「でもまた蘇る。何度も何度も」悲しい表情だが、口元で笑みを浮かべてるマーラ。

「そうかもな。お前は死霊術は全く使えないのか?」

「そうまったく。両親の遺した装備を持って、ネクロマンサー気取りよ。それもほとんど旅の途中で騎士と出くわして失ったけど。残った最後がこのタクトってわけ」

「見せてくれ」

「別にいいけど」

マーラからタクトを受け取る。

「ふむ。持つと自然と心地良さを感じるタクトだな」

「禍々しいでしょ」

これは特殊な木材だな。

「カース魔法か」

「うん。鍛練の低い殉教騎士なら一撃」

「魔力はあまり感じないな」

「そう……最近は不発が多くって。だからあまり使わないようにしていたの。もうすぐ完全に使えなくなるかも」

「だから知識を求めていたのか?」

「そう……よ。とにかくなんでもいいから死霊術に関する知識が欲しかったの。修理とか、原因とか。諸々」

「充填の方法なら知っているぞ」

「本当に? 是非教えて」

「そう慌てるな。知ったところで現状はどうにもならん」

「勿体ぶっちゃって、何が望みなの?」

「お前に求めることなどない。これは非常に単純だ。充填するだけなら、同じ魔法を掛ければいい」

「本当に? 他の物はエンチャントのように充填するのよ」

「他の物の仕組みは知らんが、俺の知っている範囲ではそうだ」

「そっ、なら一歩前進ってことね」

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