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表紙圧縮100MB→3MB。何も見えない。クリック先画像最大化で多少綺麗。
1話のみ映像化試作中。各圧縮40MB→3MB。汚い。
2019。リライト2026。
Ⅰ ep1〜ep127
Ⅱ ep128〜TBD
これまでのOBLATIONは…。
── テネブラエ・深層コア ──
「この手を伸ばせば届くと思っていたのに…世界はなにも変わっていなかった。悪神の悪戯、因果の螺旋。運命を変える事なんてできないよ……」
そうね。貴方は救ったのではなく。ただ殺す時間を引き延ばしただけよ。
えっ……。
……ンフフ、冗談よ♪ さあ手を。身を寄せる。何も心配いらないわ。私がいる限りね。いい? 貴方が紡いだのは、この小さな石を壊さないための時間。誰もそれを世界とは呼ばないだけ、これはただの静寂だからよ。
……よ、よく分からないよ。向き合う。僕はただ皆を救いたい。神の貴女なら方法を知っているはず。僕はどうすればいいか教えて。
「焦ることはないわ。今の貴方に必要なのは戦うことではなく、静かに時を愛することよ。相手は巨大な嵐。真っ向からぶつかれば、貴方の羽は容易く折られてしまう。でも安心して、あなたの準備が整うまで私が支えるてあげるから。貴方は時が来るまで、できるだけ力をつけておくのよ。今はそれしか言えないわ」
「そ、その後は?」
「それはイニティウムの状況次第ね」
「イニティウム…全ての始まり」
ええ、あそこに全てを解決する鍵があるの。
その…初めて会った時は萎縮しちゃったけど、モルスって、とてもフレンドリーなんだね。
遠くの玉座に座する王ではなく、共にキャンバスを汚す、隣人のようなアーティスト。貴方が獣人フェネック種の生き残りで可愛いからよ。私、キツネ好きだから。
どうも。あぁ…今のって吟遊詩人のリゴルド?
ええ♪ 彼のこと好きなの。いいベル? 本質的に神は神ではないからよ。それが世界の真実なの。でも私だって神様っぽい事はできるわよ。
堅苦しくなるって事?
そう。汝の願いは美しくも険しい旅路。救いとは壮大な絵を描くようなもの。私が与えるのは完成した筆運びではなく、色彩の生み出す術と光の捉え方。世界の脆さを知り、流れ落ちる雫を輝きへと変える、汝の内にある慈愛こそが最初の筆となる。
……それもリゴルドだよね?
ええ♪ あなたリゴルドの事よく知ってるわね。
実は以前……。
──『ロードオブダーク(2016〜2018)』より ──
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OBLATION ヴォイドの呼び声Ⅰ 虚無の跫音(2019)
全 Ⅰ章 〜 Ⅻ章
上 Ⅰ章 〜 Ⅵ章
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Ⅰ章 新たな時代
Ⅱ章 混迷
Ⅲ章 カタルシス
Ⅳ章 ブラックハンド
Ⅴ章 烙印
Ⅵ章 新たな起点
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── Ⅰ章『新たな時代』──
「OBLATIONの束縛からは何者も逃れる事はできない」『真実の探求』より。著:ヒューバート:時の語り部。
天を衝く太古の古木の群れが、ねじくれた指のような枝を伸ばし、探検家達の行く手を阻む。その深緑の深淵を、三人の影が音もなく縫うように進んでいた。
使い込まれた革鎧を纏い、しなやかな肢体には野生の緊張が宿っている。彼女の尖った耳は、木の葉が擦れ合う微かな音さえ逃さず、その瞳は影の奥に潜む「不浄」を凝視していた。
彼女の背後を固めるのは、鈍い銀光を放つ重装鉄甲に身を包んだ、岩のように頑強なドワーフの戦士たち。精緻なルーンが刻まれたメイスと盾、そして大斧を構え、その髭面には幾多の死線を越えてきた者特有の、冷徹なまでの慎重さが刻まれている。
彼らの足取りには、この森に対する本能的な畏怖が滲んでいた。
一歩踏み出すごとに、湿った苔が悲鳴のような音を立てる。鉄靴が土を踏みしめる重厚な音が、不気味なほど静まり返った森に波紋のように広がっていく。
「変ね……。魔物達の気配がまったくない」
獣人の少女が、幼くも強い意志のある声で呟いた。彼女の鼻腔を突くのは、ただの獣の臭いではない。それは、理性を失い、ただ飢えに突き動かされる「異形」が放つ、抗いようのない腐敗の予兆であった。
その時、大気が物理的な質量を伴って変質した。
先頭を行く獣人の少女が、不意に歩みを止める。彼女の鼓膜と鼻腔を突いたのは、もはや世界の匂いですらなかった。それは、空間そのものが焼き切れるような、苛烈で異質な魔力の収束波。
彼女は音もなく左手を掲げ、掌を広げた。その仕草は、後方の重装戦士たちに対する、無言かつ絶対の「停止」の合図。
「……何かが……来る」
彼女の呟きは、森の静寂に吸い込まれた。
ドワーフたちは、その合図と同時に岩石のような不動の姿勢を取った。金属同士が触れ合う微かな音すら立てず、彼らは警戒態勢へ移行する。
視界の端々で、空間の輪郭が謎の陽炎のように揺らぎ始める。それは高密度の魔力が、現世の理を浸食し始めた証拠であった。
彼女の尾の産毛が逆立ち、喉の奥から威嚇の低鳴が漏れ出す。鋭い瞳は、実体を持たぬ者の、蠢きを追い、一刻も早く得物を引き抜きたいという衝動を、鋼の自制心で押さえ込んでいた。
森の生き物達はとうに鳴き止み、風さえも逃げ出したかのように止んでいる。
三人が立っているのは、もはやただの森ではない。それは、何者かが展開した強力かつ、異質の魔力の中心地だった。
そして音もなく、『それ』は突如訪れた。
三人の周囲を囲む、苔むした古木の幹。そのひび割れた樹皮から、突如として這い出るような緑の炎が、音もなく立ち上った。
見渡せば、広大な森のあちこちで、変化が同時に訪れていた。
それは、生命を焼く温かみのある火ではない。冷徹で、病的なまでに鮮やかな翠の燐光。その炎は、湿った木々を餌食にするのではなく、木の葉や枝、そして彼らの足元の腐葉土までもを、まるで腐食させるかのように、静かに、しかし確実に侵食し始めた。
獣人の少女の黄金色の瞳が、驚愕に大きく見開かれた。
森を知り尽くした彼女でさえ、このような現象は見たことがない。鼻腔を突くのは、焦げ臭い煙ではなく、魂を凍らせるような、甘ったるく腐った強烈なラズベリーの臭いだ。
彼女は精神を集中させ、視線は周囲を囲む緑の炎の向こう側――そこから襲い来るであろう「何か」――を、飢えた獣のような鋭さで捉えようとしていた。背後の一人のドワーフが、重厚な金属音を立てて盾を構え直し、ウルカヌスへの祈りを吐くのが聞こえる。
しかし。
彼女の鋭敏な感覚は、周囲の炎よりもさらに異質で、圧倒的な「重圧」を、頭上から感じ取った。
戦慄と共に、彼女は上空に向け顔を上げた。
視界のすべてを塗りつぶすほど巨大な、悍ましいまでの魔法陣が、空を蓋するように出現した。幾重にも重なる幾何学模様が、神々しい緑の光を放ちながら回転する。その光が地上を照らし出した瞬間、信じ難い光景が三人の眼前に露わとなった。
「……バカな。何もないはずの場所に……」
ドワーフの一人が、掠れた声で呻く。
そこには、街の伝承にもドワーフの緻密な地図にも記されていない、巨大な古の遺跡が、大気を引き裂くようにして姿を現していた。数万年の時を止めていたかのような、不気味な威容を誇る石造りの遺跡。それが今、虚空から引きずり出されたのだ。
次の瞬間、魔法陣の術式が飽和点に達した。
空から降り注いだのは、雨ではなく緑の稲妻。周囲の木々に無数の雷が突き刺さり、森を激しく震わせる。そして、その奔流を一点に集約させるかのように、遺跡の天辺へと、天を貫くほどの巨大な緑の落雷が直撃した。
鼓膜を突き破らんばかりの轟音。視界を染める閃光。
凄まじい突風が衝撃波となって吹き荒れ、先ほどまで周囲を焼き尽くそうとしていた緑の炎が、まるで遺跡の深淵へと吸い込まれるように、一瞬で収束し、消滅した。
地響きと共に地面が爆ぜ、周囲の土や岩が木の葉のように飛散する。
やがて、その凄まじいエネルギーの余波が収まると、そこには信じがたい「無」が広がっていた。
空を覆っていた魔法陣は跡形もなく消え失せ、森を包んでいた炎も、あろうことか焦げ跡ひとつ残さず消え去っている。ただ、そこには冷徹に佇む未知の遺跡と、えぐり取られた大地だけが残されていた。
三人は、武器を握る手さえも忘れたかのように、ただ呆然とその光景を凝視していた。彼らの本能が、かつてない強烈な警鐘を鳴らし続けていた。
――――
目を開けた筈なのに、世界は何も教えてはくれない。己の視界は静寂よりも深く濃い闇に包まれている。全身を圧迫するこの魔力の重圧は、俺という存在を無に帰そうとしているのか。気怠さだけが、魂の内から湧き出る微かな命の鼓動を告げている。
俺は幻影の中にでもいるのか? 砂のように崩れ落ちる過去の記憶。何も思い出せないまま、ただこの胸を焼くような憎しみの痛みから、すぐにでも逃れたい一心だ。
右手を思い切り突き出す。鈍く、木がへし折れる音。何かを突き破ったようだ。ああ、凍てつく自由が手の平から流れ込んでくる。外には冷たい空気が漂っているようだ。そのまま穴を掴み持ち上げる。体を起こし、掴んでいた木の板を遠くへ投げ捨てる。
棺か。
棺の外へ出る。
静寂が重たい魔力のように魂にまとわりついてくる。
しかし、この場所はとても静かだ。この音のない場所に心が溶けていくようだ。静寂は何物にも代えがたいほどの快楽を与えてくれた。
甘美な虚無に浸る心酔を絶ち、辺りを見回す。どこかの…地下のようだ。見覚えはないな。しかし暗闇に視覚が慣れてきたのか、徐々に視界が鮮明となってくる。
なぜ俺は棺から……棺を見る。
やけに重厚な石の台座の上に、台座に比べ棺はあまりに質素であり、ありふれた木の質感。特に変わった棺という訳ではないようだが。
なぜ蘇ったのか。それともここはただの魂の行き着く場所なのか。だが良い状況ではないのは明らかだ。
薄暗い視界の中、天井や壁を見回していると、薄明に溶けていた景色が突如として鮮明な色彩を取り戻していく。まるで闇が光を受け入れたかのようだ。
自らの両手に目をやる。
見えるのは剥き出しの骨。ふむ、色は白く悪くない。生前は健康だったようだ。
俺はアンデッドと化したか。しかし然程違和感は感じない。術者らしき者の気配もない。
生前は思い出せはしないが、ロクな運命を持ってはいなかったようだ。
前へ踏み出すと足に何かが当たった。地面を転がっていく1本の骨。俺の一部でも取れたのか?
視線をやると、棺の台座の石にもたれ掛かるように倒れている亡骸があった。
こいつは俺のように蘇ってはいないのか。ふむ、なぜだ。
手に何かもっている。
羊皮紙を拾い上げるが亡骸の手ごと取れてしまった。羊皮紙を抜き、手を捨てる。
羊皮紙を広げ読む。
──朽ちかけた羊皮紙。
あの時まで貴方と運命の糸を紡げたこと、それを私は生涯の誇りでした。
死を以てなお、貴方は私を照らす常盤の導き手でした。…けれど、貴方という世界を支える柱が欠けてからというもの、私の心は夜明けの来ない霧の中を彷徨う亡霊のようになりました。
この最果ての時まで、共なる血と運命を分かち合えたことを心より感謝します。
──
これ以上は腐敗していて読めない。
羊皮紙を地面に捨てる。
この者が何者か心当たりはないな。
頭蓋骨を軽く撫でる。
「安らかにな」
俺が触れた事で頭蓋骨は地面に落ち、転がっていく。落ちた拍子に一部が欠けてしまった。
部屋の出口へ向かう。ドアなど疾うにない出口から部屋を出る。
古びた壁石は幾重にも重なった蔦の刺繍と苔の絨毯で覆われている。植物たちが描く柔らかな曲線が石の硬質さを隠し、静寂さに包まれた通路を緑の息吹で包み込んでいる。
左の通路は天井が崩れ落ちていて進めそうにない。右へ進む。
随分と寂れているようだが…崩落しないだろうな。この場所は長い間外部とは隔たれていたようだ。
造形からして随分と広そうだ。全てを見て回るのは無理だな。出口を目指そう。
何かの足音が崩れかけた壁の中から聞こえてくる。
音の方を注視するが、隙間からは何も見えない。すぐに辺りは元の静けさに返ってしまった。
独特な足音だったな。脚が多く、頭と胴体に分かれた奴か? または遺跡荒らしか、それとも他に俺のような奴がいるのか。ともかく用心しなくてはな。
手に力を集中させるが上手く力が入らない。
魔法は無理か。まったく。だが己の魂が生の熱を求めているようでならない。飢えが増す前に疑問を解かねば。
周囲を探す。
武器になりそうな物はないか。しかし記憶の膜すら形成されぬ間に、魂の奥底から無意識に力を感じる。
沸き上がってくるような…この感覚は一体なんだ。
うぅ!
咄嗟に抑えきれなくなった力を解き放ってしまった。
はぁ…。
何らかの魔法を放てしまったようだ。だが表立って感じる変化は特にない。
今のは一体……。
武器はない。仕方ないが、このまま進むか。




