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07 不可思議を開花させる 3

よろしくお願いいたします。



友人を見送ってから気を取り直した涼介は、もう一度扇を開こうとした。


「おい、力を抜け」

「抜いてるつもりなんやけど」

「ぐっ、かったい」


しばらく同じように試みていたのだが、ふと涼介が左手を離した。

「ちょっと下がれ」

「こう?」


ずりり、と後ろに下がると、当然涼介がいるのでとん、と背中が彼の身体に当たる。

「もっとこう」

そう言って、左腕で紅雨の胸の下あたりを押さえ、グイっと抱き寄せられた。

涼介は開いていた足も少し閉じ、後ろから紅雨に抱き着いて密着した。


「ぇっ、ちょ、っと」

「いいから力を抜けっつーの」

男子に抱き込まれているこの状況で、ソレは難しい。

びっくりしすぎて心臓が煩い。


「ぅ、えっと」

「まかせとけ。これならわかりやすいから多分いける。いいか、解放するぞ」

何となく、任せた方がいい気がするので紅雨は黙ってうなずいた。


恥ずかしいのは確かだが、涼介の体幹がしっかりしているのだろう、抱かれ心地は安定している。

軽い現実逃避もしながら、体を預けて力を抜いた。

「……いくぞ」


ぎゅうっと後ろから力強く抱きしめられて、紅雨は思わず目を閉じた。

そして背中全体から、先ほど感じた涼介の熱いエネルギーが紅雨の中に入ってこようとした。

「く、っん」


そして、パタ!と扇が骨一本、一間だけ開かれた。

同時に、体の奥の方がぐりり、とこじ開けられるような、痛みとは違う違和感が紅雨を襲った。

「ぁっ!?」


パタ、パタタ。

「ふ、ぁ!んんぅっ」


パタパタタ、パタ。

「……っ!ぁ、っくぅ!」


気が付くと、二人とも汗だくで息が乱れていた。

なんなら、紅雨は半泣きである。

実際に痛かったわけではないのだが、痛みに似た感覚を身体の奥のような場所で感じた。


「これ、解放?」

「そうだ。……閉じるぞ」

「ん」


先ほどとは逆の動きで、涼介は扇を一つずつ閉じていった。

同時に、開かれた紅雨の術力も閉じていく。

不思議なことに、涼介の術力は熱いイメージだったのに、自分の術力は心地よい温さを感じるエネルギーだった。


「できたな」

「うん。中の方で開いたんがわかったわ。でも、なんていうか」

「あ?」

「こう、無理やり押さえ込んで犯された感じ」


「っ!!おっ、お前なぁ!手伝ってやった俺に向かって――」

「ただーいまってお邪魔だったね帰ろうか」

ガチャリとドアを開けた悠真が、そのままくるりと綺麗に回れ右をした。


続いて後ろから来ていたらしい三人がこちらを覗き、そしてちょっと頬を染めた。

完全に誤解されている。


「ちっ!違う!帰るな!」

「いやだって、どう見てもバックハグで密着してるじゃん」

「二人とも汗だく」

「せんぱい半泣きだけど、抵抗した跡もないし」

「「「「完全に事後じゃん」」」」


「そんなわけあるかっ!」

涼介は、紅雨の後ろからするり立ち上がって離れていった。

一方の紅雨は、関西出身でなくともボケとツッコミはできるものなんだなと感心していた。


「あ、そうそう!『解放』できたんよ!涼介くんのおかげで!見てみてー」

汗を拭って立ち上がった紅雨は、扇を突き出して一間ぱちりと開いた。

同時に、ぶわっと術力が解放されるのがわかった。

先ほどよりも軽く開放できたし、開放した量も先ほどより多い気がする。


「おぉー。よかったですね、せんぱい」

「よかったっすね」

「え、なんか術力多くないっすか?」

「さすがっす、姐さん」

下世話な話を必死に否定していた涼介は、ころりと話題を変えた友人たちを睨むように見てからため息をついた。


紅雨は、扇を開いては閉じ、開いては閉じして、何度も開閉を繰り返してみせた。

「っていうか、術力多いっすよ、マジで」

感心したように言ったのは海斗だ。


それに、駿もうなずいた。

「確かに。扇を全開にしたら、涼介とタメ張れるくらい?」

「へぇ。そういうのもわかるもんなん?うち、まだ人の術力とかよくわからへんけど」

紅雨は、彼らをゆっくりと見回したがよくわからずに首をかしげた。


「解放できたんなら、そのうちわかるっす。それより、なんか術使ってみてくださいよ」

紅雨は、陸に言われてうなずいた。

今度は、自分の術力で、自分の弥魔術を使うのだ。


「じゃあ、さっきとは変えて……風にしよ」

数秒目を閉じた紅雨は、まず扇を一間開いた。

術を放つ場所に視線をやって、ゆるりと斜めに扇いだ。


そして屋上の中央に、竜巻が現れた。


竜巻は数秒その場にとどまり、上空へと消えていった。

「ちょっと威力強めやったけどできたー!」


「えぇ……」

「一間であれ?え、マ?えぐ」

「よかったっすね、姐さん!」


テンションの高い紅雨に対して、後輩たちは驚いたり褒めたり色々だ。

涼介は数歩離れたところから見守っていたが、紅雨と目が合うと、に、と右側の口角を上げた。

「涼介くん、ありがとーっ!」

「っ!!!」


紅雨は、テンションをそのままに涼介に抱き着いた。

ここ二週間、一人で孤独に頑張っていたのに全然使えなかった弥魔術を、使えるようにしてくれたのだ。

嬉しくて嬉しくて仕方がない。


一方の涼介は抱きつかれて固まっていたが、友人たちが

「いや、あっついな」

「ほんと、この屋上あつい」

「姐さんも涼介も、いろんな意味でよかったっすね」

「それなー」


とニヤニヤしながら言うのを見てから、ハッと覚醒して紅雨を離そうとしたが、下手に触れないのでわたわたしていた。

紅雨は、そんなことは気にせず何度もお礼を繰り返していた。


「ほんまに、ほんまにありがとう!やっと弥魔術師の第一歩やわ!」

「あーうんわかった。よかったな」

涼介は、諦めたように棒読みで答えた。


「ありがとう!嬉しいわー!」

「うんうんよかった。よかったからもう離れてくれ」

「えーやん減るもんでもなし」

「いや、減る。俺の何かが減っていくからマジで」


涼介にじゃれつく紅雨を見て、少し離れて見守っていた黒朱は満足そうにうなずいた。

『やっぱりなぁ。ほんま紅雨は強運やわ』



読了ありがとうございました。

続きます。

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