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01 やってきた不可思議

よろしくお願いいたします。

ファンタジア大賞にて、一次選考まで通過した作品です。

タイトルや本文は見直して修正・追記などしています。

お付き合いいただけると嬉しいです。



星無紅雨(つきよ べにお)が通っているのは、そこそこ偏差値の高い高校だ。


進路で言えば、五割が現役で大学へ進学、三割が浪人して進学、二割が専門学校や短大。

そしてほんの一握りだけが就職する。同列以上の学校はほとんどが制服無しで自由度が高いのだが、紅雨の高校は珍しく制服指定だった。

その制服が可愛いから、と選ぶ生徒も少なくないらしい。


紅雨はというと、制服はどちらでもよく、自分の学力で入れる高校として見学に行って、雰囲気が良かったからここにした。

とはいえ、今どきめずらしいセーラー服は可愛いし、愛着もある。

再来月二年生になるときに、名札の学年の色が変わるのを楽しみにしていたのも本当だ。


だから、とうわけではないが、突然変な手紙で転校を促されて困惑した。

宛名は、「星無紅雨様」。


めずらしい苗字なので間違いということはないだろう。

切手は貼られておらず、住所も書かれていないので、直接自宅のポストに投函されたようだ。

筆で書かれたような文字は趣があるが、それよりも謎だったのはその紙である。

封筒のように巻かれていた紙も、手紙の中身も、書道で使う半紙のような、手すき和紙とも思えるような独特の紙。

文字は縦書きで、幅十センチほどでくるくると折りたたまれていた。

歴史の教科書や時代劇で見たような手紙だ。


内容はというと。


―――――――――――

星無 紅雨 様


拝啓

桜の花が待ち遠しい毎日、お元気にお過ごしのこととお見受けいたします。


さて、この度お手紙を差し上げましたのは、星無紅雨様に弥魔術力があることが分かったためです。

弥魔術とは、魔法や超能力と似た概念の能力とお考えいただいて結構です。

最近、やけに運が良くなったり、動物が近くに寄ってきたりしていませんか?

それは、術力の影響によるものです。


一般的に周知されてはいませんが、そういった魔力を持つ子どもたちは、漏れなく全国にあるいずれかの弥魔術学校へ入っていただき、術力の制御方法を学びます。

術力を制御できないままに放置すると、最悪の結果として命を落とす可能性がございます。

星無紅雨様の場合は高校二年生への編入となりますので、詳細についてお伝えしたい次第です。

全寮制となるため、どうか保護者の方とご相談のうえ、都合の良い日時をお教えください。


もし、保護者の方へ相談できない、相談そのものが難しいという状況にある場合は、この手紙に助けを求めてください。

文字を書き込むだけでこちらに伝わります。

書くことも難しい場合は、手紙に向かって話しかけてください。

問題のある環境の方は、術師管理省にて保護してから適切な学校をご案内いたします。


繰り返しますが、星無紅雨様がいずれかの魔術学校へ編入することは決定事項です。

どの学校へ入るか、その時期についてなどはご相談に応じますが、少し遅めの発現であったこともあり、来年度での編入は避けられません。

どうかお早目のご決断を願います。


最後になりますが、春とともに星無紅雨様に幸せが訪れますようお祈りいたします。


弥魔裏閣 術科省 学術局局長 日出 旭

―――――――――――



よく分からなくて、三回読んだ。


なんとなく思い当るのは、ここ一ヶ月ほど、通学の電車に乗り遅れることがなく、駅での待ち時間もほぼ無いこと。

寒い雨の日でも、行き帰りの駅からの徒歩の間降られなかったこと。

そして、雀に近寄っても逃げられないこと、猫をよく見かけること、散歩中のワンコにことごとく尻尾を振られること。


とはいえ、気のせいとも考えられる。

手の込んだいたずらだろう、と思った紅雨は、手紙を折りたたんでゴミ箱に放り込んだ。




二日後。


高校から帰った紅雨がポストから取り出したのは、筆で宛名が書かれた和紙っぽい封筒だった。

内容はほぼ同じで、とりあえず親に相談してほしいという旨。

そして虐待が疑われる状況であれば助けるから、手紙に向かって言ってほしい、とはっきり書いてあった。


「めっちゃ手ぇ込んでるなぁ……。虐待とかあらへんし。何がしたいんやろ?」

独り言をこぼし、紅雨はまた手紙をゴミ箱へと突っ込んだ。



それから、二日おきにその手紙が届き、五回目になったときに根負けした紅雨は両親に手紙を見せて相談した。

「へぇー。ほんまやったら面白そうやねぇ。魔法使いってこと?空飛べるん?瞬間移動とか?ええなぁ」

母は面白がっている。

自分の子どもをエンターテインメントにするんじゃない。


「切手はないねんな?あと、必ず(べに)が受け取ってるんか……。おかしなことやなぁ」

父は何か考えながら言った。

「そうやねん。おかしいやんな?いたずらにしては手ぇ込みすぎてへん?」

「あー、何やったかな。母ちゃんがなんや言うとった気がする。ちょっと待ち」


父の言う『母ちゃん』とは、父方の祖母、つまり父にとっての実母のことだ。

同じ大阪に住んでいるが、車で一時間ほどかかるところに家がある。

ちなみに父と母は、お互い『桃ちゃん』『志孝(ゆきたか)さん』と呼び合っている。


「手紙のこと、おばあちゃんがなんか知ってるん?」

「いや、ちゃうちゃう。紅やら(せい)やらのことで不思議なことあったらとりあえず相談しぃ、てかなり昔に母ちゃんが言うとった。覚えとるんはそれだけや。ちょっとPlane(メッセージ・会話用のスマホアプリだ)で連絡するから待ち」

紅とは紅雨の呼び名で、青とは紅雨の二つ年下の妹、青天(せいら)のこと。

初見で正しく読んでもらえない姉妹である。


青天は、母と一緒に大興奮で手紙を見ていた。

「お姉ちゃん、これ絶対本物やって!えー、すご!めっちゃすごない?お姉ちゃん魔法使い!!あたしも魔法使えへんかなぁ?」

「どうなんやろねぇ。青も使えるんやったらこういう手紙くるんちゃうん?」

母は広げた手紙を電気に透かして見たり斜めから見たりと確認に余念がない。


「あたしには来てへんなぁ」

ため息をついた青天に、母が答えた。


「もしかすると来るかもしらへんで」

「来てほしいなぁ!」

「来ぉへんかもしらん」

「でも来てほしいなぁ」

「そうやね、来たらええんやけどなぁ」

「来ぉへんかなぁ」

「やっぱり来んかもしらんなぁ」

「もー!!お母さん、上げて下げてせんといてくれる?!」

母と漫才をしている青天は、わりと肯定的なようだ。


父が祖母にメッセージを送ってみたが、何かしているのかすぐには既読がつかないし返事もなかった。

仕方ないので、興奮する両親と妹を放置して、紅雨は入浴することにした。



風呂から上がり、紅雨はまだ興奮気味な家族がいるリビングに入った。

「お風呂お先ぃ。青も早よ入らな、明日また学校遅刻しそうになるで」

「あ!お姉ちゃん!おばあちゃんから返事きたって!」

「そうなん?」

「お、紅。母ちゃんから返事あったで。ほんでな、電話したいって」

「電話?いいけど」

電話というが、アプリの通話機能だ。

お互い顔が見えるので、おばあちゃんはテレビ電話と言っている。


『紅ちゃん、久しぶりやなぁ』

画面の向こうの祖母は、白髪を綺麗なダークグリーンに染めていて、三つあるピアスもきらりと光っておしゃれだ。

紅雨は、高校を卒業したらピアスを開ける予定である。


「うん、おばあちゃん元気にしてる?」

『それなりにな。あったかなってきてるから、調子よぅなってきてるわ』

「よかった。ほんで、直接話したいってどうしたん?」

『それなんやけどな。うちの一兄(いちにい)さんに、紅雨と同じようにどこぞから手紙が来て、弥魔術師になったんよ』


「え?!」

「え?(いち)おっちゃんが?俺、初耳やねんけど」

『あぁ、一応術師っちゅうんは秘匿された存在らしくて、二等身までの家族にしか伝えられへんねん。なんやらそれも術でうまいことするらしいわ』


「へぇ……それで俺は知らんかったんか」

『せやな。今は紅ちゃんが弥魔術師やて分かったから話せるねん。ほんで紅ちゃんのとこに来たっていう手紙やけど、さっさと返事しぃ。一兄さんは、確か中学二年生のときに手紙が来とったけど、全体的に見てちょっと遅いくらいやったらしいから。ほとんどが小学生のうちに分かるらしいんよ。せやから、できるだけ早い方がええって聞いたわ』

「そうなんや。いたずらとかちゃうんやね」

『ちゃうよ。何回も来とったんやろ?そういうもんや。術使(つこ)ぅとるから直接本人に届くしな』

「分かった。ほんなら、ちゃんと返事するわ」


「一おっちゃんおったら直接聞きたかったんやけどなぁ。海外で仕事や言うてめったに会われへんかったし、隠居先も海外やろ?」

会話に入っていただけだった父が、横から顔を画面に入れてきた。

狭いので、紅雨は少し離れて座りなおした。

スピーカーにしているので聞こえている。


『あぁ、それはな。術関係の仕事に就いて、結婚もそっちの人としたからこっちにおらんねん。隠居後もあっちの本国みたいなとこにいてるんやわ』

「えっ?!」

よく分からないが、魔術関係の場所?があるらしい。


『一応、うちから一兄さんに連絡しとくわ。仕事も役所関係やったはずやし、もう定年しとるとはいえ色々知っとるやろ』

「おぅ、頼むわ母ちゃん」

「おばあちゃん、ありがとう」


『ええよええよ。それくらいは可愛い孫のためやったらなんでもないわ』

「ふっふふ、ありがとう。手紙に返事してみるわ」

『そうしぃ。ほなまたなぁ』

「うん、また!おやすみぃ」

『おやすみ』


横から会話を聞いていた青天は口を押さえて妙な踊りを披露しており、母はそれをのんびりと見ていた。

楽しそうで何よりである。


学園への返事は、紅雨が自分で書くことにした。

内容から察するに、直接手紙の空きスペースに書き込めばいいらしい。


両親がいる日時をいくつか書き、最後に大叔父がそちらにいるらしいと書いた。

名前は賀茂一之進(かも いちのしん)だ。

書ききったらひと段落つくことができて、紅雨は満足してベッドに入った。



次の日には「今度の土曜日の昼頃に伺う」という旨の手紙が届いた。



読了ありがとうございました。

続きます。

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