第2話
暗い。それに人の気配もないとは。
支配人様の後ろを付き従いながらゆーえんちとやらを歩いた率直な感想はそんなものだった。
お世辞にも、夢を見られる場所とは思えない。
夜であることも起因しているのだろうが、それ以上にこの場所の縁がそういった雰囲気と結びついたものであるのだろう。
道の端に立てられた街灯が弱々しく周囲を照らしてこそいるものの、見通しの悪さは拭えない。
支配人様が持っているロウソクも光源の一つに数えられるが、それも言ってしまえば間に合わせだ。
視界を明瞭にするには至らない。
それにしても……魔法の残滓すらないというのに肌に感じるこの異質さ。
何とも面妖な感覚だ。
私がこの場に転移させられた時のように、神の御業が働いているのだろうか。
或いは、もっと別の……。
まぁ、どれだけ考えたところで人知及ばぬ存在の力など測れるはずも無し。
それに私は魔法に大した造詣もない。せいぜいが感じ取れる程度だ。
ふむ、歳を取ると若い頃にはなかった類の増長が生まれるからいけない。余裕がなかった故のがむしゃらな若さが懐かしいものだ。
「さて、着いたヨ」
物思いに耽りながらも、前方にて止まった支配人様に合わせて止まる。
そして見上げた先には――
「ほう……これはまた。空に浮く船、ですかな?」
「バイキング、って言うのサ。勇者サンにはこれに乗ってもらうヨ」
「謹んで。あちらの階段からでよろしいのですかな?」
「ソーソー」
言われた通りに、バイキングとやらに乗り込む。
幾つも席がある中で、私一人だけが座るというのは些か恥ずかしいものがあったが。
ふと、そう言えば勇者であった時も、貴族となった時も、結局私はそういうものだったなと思い出したのだから、存外お似合いなのかもしれない。
「さーて、ルールは覚えてるカイ?」
「えぇ、しかと」
「なら安心だネ。他人にバレないこと、一度しかないチャンスだってこと、ただの夢じゃないってこと――そして、戻れるのは君が一番やり直したいと思ってる時間ってコト」
「異論はございません」
そう言った瞬間、明かりが消える。
広がる暗黒だけが私を満たしていた。
だが、下方に微かな明かりがある。
支配人様の持っていたロウソクだろう。
「悔いのない選択を。君の後悔を、未練をこそ、真っ向から立ち向かうといいのサ」
しぼむ光に、微かな力の揺らぎを感じた。
それは恐らく、私が魔法に対して無知であるが故の過小な反応なのだろう。仮に宮廷魔術師がそれを目の当たりにしたのなら、泡を吹いて倒れることもさもありなん。
何せ、私ですらその微かな力の揺らぎの、先に波及するものの意味を直感的に推し量れたのだから。
「なるほど……確かにやり直しですな」
独り言は、きっと誰にも聞こえない。
直後に消えたロウソクの火は、自らの意識と繋がっているかのごとく思考を刈り取る。
ただ、目の前に広がる闇の……落ちる瞼の裏の黒が。
ふと――優しいものに感じた。
「――君は、どこまで勇者でいられるんだろうネ」