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第1話

 ここじゃない どこか とおくのほう。


 みんなには みえないし かんじられない。


 だから だれも しらない。


 そんな ゆうえんちが あるらしいです。


 そのゆうえんちは すこし かわっていて。


 あそぶばしょは ありません。


 ひとがいなくて うすきみわるくて。


 あんしんも おちつきも できません。


 そんな ばしょ です。


 もうきえていて だれもいけない おかしなところです。


 けれど ふしぎなちからが あるのです。


 それがなにかは だれも しりません。


 でも ぎんゆうしじんが かたるのだから。


 いく ほうほうは あるのです。


 いったひとは いるのです。


 しらないあいだに まよいこむのです。


 そこでは おかしなことが おきます。


 たとえば。



 とれなかったてを とれるのです。


 ◇


「――ようこそ! 不思議な不思議な遊園地へ! ここにはアトラクションもお店もないけれど、ちょっと変わった出し物があるんだ!」


「おっと、その前に! ルールの説明をしなきゃね!」


「一つ! これから起きることは絶対に人に言っちゃいけないよ。もし言ったら、記憶どころか君ごと消しちゃうかも!」


「二つ! 言わなくても他の人にバレちゃったらそれもアウトだから気を付けようね!」


「三つ! 出し物は一度っきり! 悔いのないように全力で頑張って!」


「四つ! 君の理想を現実にできるかは、君次第!」


「五つ! ――行ける時間は、君が一番戻りたいと思っている時間!」


「やり直したいって、思ったことがあるんダロウ?」


「だから君はここに来たのサ」


「ここは強くそう思う人だけが来れる場所。その願いに応える夢みたいなホントの遊園地ってワケ」


「おめでとう! 君は選ばれた!」


「あぁ、不審に思うんだったら断ってくれたってイイ。ボクはいつだってこう思っているからネ」


「――悔いのない選択を、っテ」



「その上で、今一度君の声を聞かせてくれヨ」




「君は、やり直したいことはないカイ?」




 ◇


「……ふむ」


「おや、冷静だネ。さすがって感ジ?」


「いえいえ、驚いておりますとも」


「ちゃーんと臨戦態勢なの分かってるからネ。おじいちゃん、ちょっと若々し過ぎなイ?」


「ほっほっほ、癖のようなものです」


 笑いながら、私は油断なく目の前の人物を観察する。


 時計を模した意匠、不自然な目鼻、やたらと大きく太い全身。

 人工的なものではない。人によって作られた……それも不自然さこそを強調することを念頭に置いてあるように思える。

 表面から読み取れる布のような質感。

 推測するに、あれは一種の服なのだろう。用途も意図も不明だが。

 私はあんな服は見たことも聞いたこともない。


 だが、なるほど。

 『やり直したいこと』……か。


 視線を何者かの奥に向ければ、そこにあるのは一つの城か、或いは街であった。

 こちらも見たことのない街並みである。


 恐らくは空間転移の類。

 それも私が察知できないほど高度な……それこそ魔法ではなく神の奇跡とでも言うべき御業。

 敵意は感じず、手出しをしてくる気配もない。


 つまりは、私程度にはどうしようもない戯れなのだろう。


「死後の世界、とでも思っておきましょうか」


「まだ死んでないっテ。諦め早いヨおじいちゃん」


「事実、老い先短い身でしてなぁ」


「よく言うヨ。まだまだ現役だろ君はサ」


 軽い喋り口。

 やはり敵意は感じない。

 もとより抵抗できるとも思っていないが、警戒心が薄れていくのを自身でも感じる。


「お戯れを。既に老いぼれ、身体もそう動きませんわい」


「ハッハッハ、冗談が上手いんだネ。――勇者サン」


「……おや、私をまだその名で呼んでくれる方がいるとは思わなんだ」


 懐かしい響きだ。

 もう何十年も前に聞いた呼び名を感じ取った脳が、微かに高揚に震えた。

 ただ、それはかつての栄光を想起し、歓喜するためだけのものではないのだが。


「ま、便宜上そう呼ぶ方が都合が良いのサ」


「ふむ、であればこちらも貴方のお名前を知りたく存じます。察するに貴方はか――」


「――あーあー! いいノいいノ! ボクはこの遊園地の支配人! それさえ覚えてくれれば後は一個も問題はないのサ!」


 大いにはぐらかされてしまうとは。

 慌てたように両手を振り乱す支配人様に、嘘の素振りは見られない。

 なるほど、あちらにはあちらのルールがあるようだ。

 であれば野暮か。


「して……ゆーえんち、というのは一体どのようなもので?」


「あー、そっカ。そっちにはないものだったのサ。ま、テキトーに夢を見る場所、とでも思っておいてヨ」


「ほう、夢ですか。承知いたしました。あぁ、話を逸らしてしまい失礼。やり直したいこと……でしたかな?」


「話が早くて助かるヨ。ソ、君の中にある後悔、未練、心の中のしこり。それを晴らしたいなら、中に入るとイイ」


 『やり直したいこと』。


 支配人様の言われた瞬間から、頭の片隅で考えてはいた。

 私のこれまでの人生。

 つまりは勇者となってからの人生。

 勇者である必要のなくなってからの人生。


 恵まれてはいたのだろう。

 不自由と理不尽はあれど、苦痛に感じることはなかった。

 魔王との戦いを終えてからなど、自由の極みだった。

 王国は繁栄し、私は魔王を倒した手柄を以て貴族となり平和を享受した。


 そこに不満はない。


 ただ。

 心残りがあるとするのなら。


 ――『余の手を、取ってはくれまいか?』


 あの手を、取れなかったことだろうか。

 仮にそうしていたのなら、どのような未来が待っていたのだろうか。

 世界は平和となったのだろうか。

 それとも全く逆の……。


「…………ゆーえんちは、夢を見る場所、でしたな」


「その通リ。やり直したいことをやり直せるのも、一種の夢だと思ってほしいのサ」


 支配人様の顔が、にんまりと笑みを浮かべたように思えた。

 その、薄っぺらく張り付けただけの笑みに、なるほど裏はあるのだと理解しながら。


 私は、支配人様と同じようでいて、幾ばくか違う笑みを浮かべた。

 玩具を前にした、子どものようなそれだったのではないかと思う。


「こう思うことは、ともすれば過去に勇者と呼ばれた身には許されぬ想いなのやもしれませぬが……」


「言っただろう、夢だヨ」


「――そう言われてしまえば、軽々に足が動いてしまいますわい」


 このような機会、そう訪れるものでもない。

 折角なのだから、我が儘の一つ、言ってみるのもいいかもしれんな。


 私は、口車に乗せられるつもりで支配人様がおられる場所に足を伸ばす。

 中途にある門をくぐり、中へと入る。


「改めて、ようこそ。サ、やり直しといこう」

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