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ベリアルは情けない悲鳴を上げながら、車から飛び出した。
そして、静かに立っているユキノを見て、ヒステリックに護衛達に怒声を上げた。
「何をしている!? はやくそいつを殺せ!」
大金で雇った総勢七人の腕利きの護衛達は、正確な射撃でユキノに火力を集中する。
ユキノはそれが当たる直前、ふらりと倒れかけたように見えた。
だが、それは残像だった。
次の瞬間には刀を一閃させ、銃弾を叩き落とし、更に稲妻のように間合いを詰めた。
一人の喉元に刀が走り、もう一人は肩口から深々と斬り裂かれ、呻き声すら出せなかった。
「ベリアル様を守れ!」
「撃て、撃ち続けろ!」
残った護衛達が何層かの壁を作るように、立ちはだかるが、ユキノはソードオフショットガンを抜き、それに立ち向かった。
彼女は迫る弾丸を身をかがめて、躱して、一発、二発を二人の護衛に発砲し、弾が切れると、それをもう一人の顔面に投げつけた。
そして、目がくらんだところを、刀の回転切りで仕留めた。
しかし、流石は選りすぐりの護衛達。死ぬ間際にも銃を乱射し、ユキノに肩に傷を負わせていた。
「ッ……かすり傷だ」
残る護衛は二人、その二人は顔を見合わせて頷くと、腰から東洋剣を引き抜いた。
「シャアッ!」
二人は独特な叫び声をあげる、彼らは兄弟で古代から続く東洋剣術のスペシャリストなのだ。
ユキノの刀技とは違う独特な構え方で、間合いをゆっくりと詰めてくる。
「面白い、来い」
「イエエエエエ!」
二人は絶妙にタイミングをずらし、ユキノに襲い掛かる。
二つの刃が避けようもない連撃を繰り出すが、ユキノはその僅かな隙間に身体を横向きに入れ、当てさせない。
しかし、ユキノの反撃の手は薄く、じりじりと壁際に追い込まれる。
二人の男たちは、必殺の攻撃を繰り出した。
一人は縦払い、一人は横払いの避けようのない攻撃だ。
縦払いの攻撃はユキノの前髪を斬るも、逆に一足早かったユキノの突きの為に届かずに倒れた。
しかし、それで十分だ。
「ハアアアアアアアアアアアア!」
ユキノの横腹に、気合の入った横払いがさく裂する。
勝利を確信した一撃、だが、放った男にはその手ごたえはなかった。
目の前にユキノの姿すらなかった。
「は?」
「終わりか?」
気が付くと、ユキノは男の持つ刀の刃の上に素足で立っていた。
そして、言葉が出なくなった彼を見下し、勝利を宣言した。
「終わりだな」
「ガアアアア!?」
男の胸に、刀が深々と突き刺さった。
「ば、馬鹿な!?」
戦いの行く末を見ていたベリアルは、恐怖に絶叫した。
そして、そちらをじろりと睨みつけたユキノに恐怖の叫び声を上げ、ベリアルはあてもなく走って逃げだした。
高級スーツの裾をばたつかせながら、近くの路地裏に逃げ込み、ゴミ箱を蹴り倒して、どうにか逃れようとしたが、直ぐに行き止まりにぶつかってしまった。
ユキノは刀を鞘に仕舞ったまま、ゆっくりと近づいてくる。
「ま、待て! 降参だ! 金が欲しいんだろう、そうに違いない!」
ベリアルはこんな時でも肌身離さず持ち歩いていたアタッシュケースを開けた。
中には大量の紙幣が入っていた。
「金があれば何でもできる、どのぐらい欲しい?
欲しいモノならなんでも、くれてやる! 何が欲しい!」
「――が欲しい」
ユキノはうつむきながら、小さく呟いた。
「は? 何だって?」
「お前の首が欲しい」
ユキノが首を上げ、刀を鞘から抜く。
ベリアルが命乞い、釈明、叫び声を上げる前に、バンッと空気を切り裂く音がさく裂する。
ユキノは彼に肉薄し――鮮血の噴水と化した。
彼女は片膝をつき、刀を鞘へと納めた。
「第三獣人連隊が切り込み隊長、ユキノ。粛清完了」




