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08

 獣人の子供と、ウェストランド第5地区の子供が遊んでいる。

 人間の親はそれを不安そうに見守っているが、子供たちは楽しげな声を上げている。


 もしも、種族の垣根を超えた共存が可能だというのなら。

 それはきっと、獣人との戦いの歴史や偏見を知らない子供たちの世代から始まっていくのだろう。


 ケルビンは自宅ログハウスの軒先からこの光景を眺めていた。

 獣人達の手により、立派な兵舎も出来上がった。

 彼の隣に猫耳の少女、アンがちょこんと座る。


「随分と余裕じゃない? 

 もうすぐ、連邦軍が攻めてくるって話じゃないの?」


「ああ。そろそろ来ると踏んでいる。

 だが、心配ない。

 防衛線にはローテーションで人員を配置している」


 唐突にアンはケルビンの手を取った。

 そして、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「手が震えてないってことは、本当に自信があるのね」


「やめてくれ。


 でも、実際そうだ。

 負けるはずがない」


 だが、今回のケルビンに何かこれといった秘策はなかった。

 それでも、ケルビンは勝利を当然のものとして確信していた。


 ◇


 何故、ケルビンたちが暫しの平穏の時を過ごせていたかというと、答えはここにある。

 ウエストランドから遠く離れた連邦の西部都市に存在する西部軍指揮所。

 罠にはめられたマックス達はここに駆け込んだ。


 そして、増援を引き連れ、直ぐに奪還作戦を決行……。


 とはいかなかった。


「獣人部隊監視任務を請け負っていて何たる様か!?」


「この失態を一刻も早く、中央に報告するべきだ!」


「いや、それは時期尚早だ」


「そうだ。奪還してから報告すべきだ。

 我ら西部軍の精強さをしらしめる絶好の機会だ」


「獣人なんて恐れるに足りぬ!」


 西部軍の指揮官たちが始めたのは、作戦会議ではなく、しょうもない言い合いだった。

 マックスを陥れたい者、軍部のトップである中央に知られたくない者、名を上げたい者、獣人を侮る者……西部軍にはまとまりというものがなかった。

 その口論は計三日間続き、ようやく『中央に知られず、西部軍での獣人部隊の制圧を行う』という基本方針が打ち出された。


 そこからようやく作戦会議が始まり、数日後に、ようやく作戦が決まった。


 作戦会議後、西部の指揮官たちは、マックスの方を視線を集中させた。


「さてと、若き司令官マックスよ。

 連邦が与えた指揮官という名誉を、貴君は泥で汚した。

 どう、責任をとってくれるのかな?」


「そ、それは……」


 集中砲火のように、浴びせられる冷たい視線にマックスはだらりと汗が滴る。

 そして、こう言わざるを得なかった。


「じ、自分、そして、自分の部下を含め、第7中隊は全身全霊を以って、突撃の先鋒槍を務める所存であります!」


 むろん、この知らせを聞いた部下たちの殆どは絶望した。

 

 そして、約一週間後、ようやく連邦西部軍奪還作戦『正義の雷』は開始した。

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