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噂とは不思議なもので、獣人連隊がガブリエルの首を取ったという話は瞬く間に連邦全土を駆け巡った。
指揮官を失った連邦兵士たちは敗走するか、降参した。
混乱に乗じて、連邦首都を狙った諸外国の軍勢もいたが、獣人連隊を相手するには分が悪いと撤退した。
頑強な貴族主義者や反獣人主義者が立てこもっていた連邦議会も堕ち、ついに連邦首都はケルビンの手に落ちた。
連邦議会、最上階のテラスでは、獣人達が連邦の旗を地面へと叩き落としていた。
そこに一仕事を終えたケルビンらが戻ってくると、獣人達は歓喜の声で彼を迎えた。
「指揮官!」
「早くしてくださいまし!」
「ここに我らの旗を!」
興奮する獣人たちから、獣人の旗、赤字の三本かぎ爪の旗を受け取る。
ケルビンはそれを重いと感じた。
思えば、自分たちの国を建国すると子供たちにわかりやすく伝えてから、とんでもないところまで来てしまった。
テラスからは、燃え上がる連邦が見える。
しかし、全土が燃え上がっているわけではない。
エレナやその側近、幾らかの敵を逃がしてしまった。
まだまだ広大な連邦を全て征服、建物から路地、果てはゴミ箱の中までを捜索して、残党を殲滅するには5年以上はかかる。
だが、結局、彼女を逃がそうと、そうでなくても、結局は戦いは続いていきそうだ。
地平線の向こうの国々、次は世界との戦いとなる。
世界が獣人の国を認めるか否か、それがテーブルの上の戦いなのか、武器を突き付けた戦いなのか、どちらにせよ、戦いは続く。
「おおおおおっ!」
「ケルビン、ケルビン、ケルビン!」
それでも、ケルビンは旗を立てた。
背後の獣人達は歓声を上げ、涙を流す、それを見ると、ケルビンの胸は満たされていた。
たとえ、新しい変化を世界が否定しても、それに従う気はなかった。
何を成し遂げても、全く評価も、名誉も、見返りすらも与えられない世界など、それこそ死んでいることと変わらない。
「そうだろう、ケルビン?」
獣人達の輪に戻る前に、ケルビンは自らに問いかけた。
◇
連邦解体戦争は一週間に及んだ。
短い期間だったが、各国の猛攻の末に、連邦は領土の6割を損失した。
領土だけではなく、多くの民衆たちが連邦を捨てて、難民となり逃げだしたため、人口も目に見えて減った。
しかし、それでも、連邦の復活を信じる者たちは少なく、彼らは北部に逃げ出し、そこに立てこもった。
ここまで勢いのまま進んできた反連邦国家も失速し、連邦自身も反撃の手段がなく、戦線が後退。
獣人連隊が後方から行く末を見守る中、戦火の光は消え入り始めた。
しかし、休戦は平和の始まりを告げるものではなく、次の戦いの為の準備期間に過ぎないのだ。
最終章開始までにもう少し、お時間をください。
また、その間にもう一つ作品を公開します。
下の作品の一章は今週中に完結するので、良かったら、一読ください。
『ドロップアウト―追放された雑用係が“殺し”で無双。裏社会に拾われた俺は、影から表舞台を翻弄する』




