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今日中にこの章のエピローグも更新します。

 ケルビンは冷たい目で、這いつくばるガブリエルを見下ろす。


「人間と獣人の前の戦争は、もう終わったことだから、あまりつべこべ言う気はなかった。

 特に英雄アロンソは一人の名兵士として、蔑むことは言わないようにしていたが……。

 不要な配慮だったらしいな。


 お前たちの物言いで言うなら『犬畜生以下』だ」 


「貴様、祖父を愚弄するなぁ!」


 ガブリエルは怒号を上げるが、小便を漏らしていては、威厳も何もない。


 ケルビンはアンとユキノの二人を振り返る。

 二人も冷たい表情をしているが、それ以上に重苦しい表情をしている。

 獣には人間に察知できない、心霊といったオーラを感じることができるという言い伝えがある。


 ケルビンとて、ガブリエルと長々とお喋りする気はなかった。

 下着の胸倉をつかみ上げ、ガブリエルを無理やり立ち上がらせた。


「エレナはどうした? 何処に行った?」


「ふ、ふふ……貴様の姉だろう、連邦の姉弟なら以心伝心で、ぐはっ!?」


 ケルビンの拳が、ガブリエルの溝内に入った。


「何処へ行った?」


「……し、知らない」


「見捨てられたのか、残念な男に、残忍な女だ」


「ち、違う!そんなはずないだろう!?」


 逃げられたか。

 なんという見切りの良さだろう、ケルビンは自らの姉の残忍さと狡猾さに舌を巻いた。

 しかし、今はガブリエルの処遇を決定しなければいけない。

 連邦解体戦争の行く末は此処で決まりかねない。


「ガブリエル・アロンソ。

 お前の行く末は――」


「文明のない貴様の裁きなど受けない!

 国際的な裁判所で、法令に従った裁判を要求する! 

 弁護士もだ!」


「こいつ……!」


 ユキノが殺気立ち、刀を引き抜いた。

 ガブリエルは思わず、後ずさるが、足をもつらせて、転んでしまう。

 だが、ユキノはガブリエルを睨みつけたまま、刀を降ろし、そっと片手をケルビンの肩に置いた。


「俺は別に止めないぞ。

 獣人の無念を晴らす権利は君にある」


 ユキノは静かに首を振った。


「いや、ケルビンは獣人達の指揮官で魂だ。

 指揮官に委ねよう。

 正しい判断をすると、信じている」


「ありがとう」


 ケルビンはガブリエルに向き直った。


「裁判所に連れていく。

 そんなことをしなくてもいい。

 この上にいる連邦の兵や民衆に裁いてもらえばいい」


「い、いや、それは……」


 ガブリエルは言い淀んだ。

 流石に楽観的で、自己中心的な彼でもわかった。

 今、彼らの前に出れば、殺される。


「国外の貴族たちの元に連れていけ! 」


「いいや、二つの選択肢だけだ。

 自らの国民に裁かれるか、我々獣人連隊に裁かれるか」


「い、一応、聞いてやる。

 お前たちの裁きって言うのは……」


 ケルビンはその言葉に頷くと、極端的に述べた。


「死ね」


「は?」


「獣人に与えた残虐な被害、国民の声すら聞かない独裁者。

 今なお、反省の素振りすら見せない横暴さ。


 獣人の無念のことを想うと、死刑しか選択肢はない。


 敵の指揮官としての、情けはやる。

 此処は大事な祖父の思い出が詰まった場所で、彼の愛用品の道具(拷問器具)が山ほどある。


 好きな死に方を選んでいい、死ね」


「ふざけるな!」


 ガブリエルの叫びは、裏返り、完全に小物だった。


「良いのか、私を殺して、エレナの情報を持っているぞ!」


「姉が見捨てた相手に、尻尾を見せるとは思えない。

 姉ですら、お前のことは用済みだ。


 どっちだ、選べ」


 ガブリエルはケルビンに迫られ、助けを求め、視界をさまよわせる。

 そして、一人いた。

 迫るケルビンでも、刀を振ろうとした狐の娘でもない、さっきから押し黙っている猫の娘、アンに視線を向けた。


「手を組もう!

 そうだ。全てエレナの責任じゃないか。

 奴が人々を扇動し、この事態を招いた。


 あれは魔女、魔女だ!」


「……え?」


「そこの猫の女、握手をしてやろう。

 知らないのか?

 その前足を私に差し出せと言っているんだ!」


 アンは迫るガブリエルに生理的な拒否感を抱いて、後ずさった。

 そんなことに気づかず、ガブリエルがさらに迫ろうとしたとき、突風のようにケルビンが割り込み、彼の顔面に渾身の拳を食らわせた。


「ごはぁ?!」


 ガブリエルの顎の骨が砕けた。

 しかし、ケルビンはそんなことを無視して、彼を羽交い絞めにする。


「大勢殺してきたんだろう、次は自分の番なだけだ。


 そんなに難しいことか!?」


「ま、まて、まてまて」


「ああ、ファラリスの雄牛で良い。

 少しでも、獣人の気持ちが分かるだろう」


 ケルビンは乱暴にガブリエルの身体をファラリスの雄牛に押し込んだ。

 中世の拷問器具で、罪人を牛の像に押し込み、それに火をつける。

 鉄の溶ける熱にあぶられ、中の罪人は、牛のような悲鳴をあげるのだという。


「嫌だ、ファラリスの雄牛だけは嫌だ!」


「死にざまを選ぶ時間はやった!」


「おまえ、お前とて、大勢を殺してきた罪人だろう!

 ケルビン・マイヤーッ!」


 もはや、抵抗すら出来ず、ガブリエルはファラリスの雄牛に押し込められ、最後の叫びをあげる。

 ケルビンは最後の審判を下した。


「ああ、そうだよ。


 俺には払わないといけない罪だらけだ。

 まず、お前を今日まで生かしたことで散った全ての命に対する罪を払う。


 ガブリエル・アロンソ。

 貴様は獣人連隊が粛正する」


 ケルビンの傍らに、アンとユキノが立っており、それぞれ部屋にあった発火装置を手にしていた。

 彼はそれを受け取り、はじき合わせて火をつけると、それを無造作に雄牛の下に投げ込んだ。


 牛の雄たけびが聞こえる中、ケルビンは二人の肩に手を置き、静かにその場を去った。





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