07
一章終了です。
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この頃の連邦はあり余る国力を使い、東西南北全ての方向へ進軍していた。
連邦軍に召集されたケルビンは、初歩的な訓練を受けた後、直ぐに西部戦線での戦いに投入された。
そこにはケルビンと同じような18程の少年たちが集められていた。
貧困層で喧嘩に明け暮れていた者や、正義感から自分で志願した者、妹の療養費を稼ぐための者……様々な人間がいた。
ケルビンと彼らは意気投合した。
彼らは軍からの雀の涙ほどの給料を出し合い、一本のシャンパンと少しのスナックを買って、初めての実戦前夜に呑んだ。
村の中で浮いていたケルビンに、初めて友人というものが出来た。
ここなら頑張れるかもしれない、頑張って軍務をこなし、立派になって、故郷の皆を見返してやろう。
家族からああいう仕打ちをされても、ケルビンの愚直な程、誠実な性格は変わっていなかった。
そして、ケルビンは戦場に足を踏み入れた。
◇
ケルビン以外全員死んだ。
これ以上、書くことがないほどに呆気なかった。
彼らが進軍しているところに、大砲が飛んできて、壊滅した。
上層部の怠慢により、進軍ルートが敵に筒抜けだったのだ。
ケルビンが生き残ったのは、ただの偶然だった。
ケルビンは仲間を救おうとしたが、既に息絶えており、一人基地へと帰還することになった。
「仲間を置いて、一人逃げるとは! 」
「人でなしめ!」
「次の出撃では、最前線で突撃してもらう!」
もちろん、上層部は彼に謝罪もねぎらいもすることなく、厳しい言葉を浴びせた。
だが、ケルビンは額を地面につけ、こう懇願した。
「全て自分が臆病で、情けなかったからです!
命令に従います!
ですから、仲間たちの墓を掘らせてください!」
「その者たちは何か戦果を挙げたのか?」
「……初めての実戦でしたから。
でも、ケニーには病気がちの妹がいて、アレンは村を守りたいって、皆いい奴だったんです!」
「笑止!
何も成し遂げられなかった敗北者、連邦人民に非ず!」
ケルビンは仲間の遺品を捨てるよう命じられた。
敗北者の遺族に出す見舞金はないそうだ。
彼らのヘルメット、共に飲んだシャンパンのコルク、ぼろぼろのトランプ……そういったものを火にくべた。
その様子を数名の兵が笑いながら見ている。
初めて手に入れた友情が、めらめらと燃えていく。
ケルビンは頭を抱えた。
恐ろしくて仕方なかった。
あんないい仲間たちが、こうも簡単に忘却の彼方に消えていくなんて。
姉の言ったことが頭をよぎる人間、結果が全てと。
結果が出せなかった者の末路がこれなのかと。
今までのように、見返りを求めず、誰にでも善意を振り向いていては、誰にも伝わらずに同じ末路を辿る。
「力と意志を持って……そして、僕……俺は……」
「この間違った世界を変えて、名を遺す」
ケルビンは呟いた。
「だから、失敗は絶対に」
「ケルビン、早く来て!」
「どうした?」
ケルビンが決意を再確認していると、アンが息を切らして走ってきた。
「今、宿舎の建築しているでしょ?
そこで事故が起きて……!」
「防衛線建築と同時進行はハードスケジュールすぎたか!?
わかった、直ぐに行く!」
ケルビンがアンに連れられて、現場に走ると、そこには立派なログハウスが立っていた。
「事故現場は?
それに……宿舎はこんな設計だったか? 」
そこには倒壊した建物はなく、立派なログハウスが立っていた。
「じゃじゃーん! どっきり大成功!」
「バーバラ? これは?」
宿舎建築を命じられていたバーバラをはじめとした数名の獣人たちが、にやにやとした笑みを浮かべ、拍手とともに物陰から出てきた。
「たいちょうのおうち。
サプライズプレゼントだよ、たいちょう!」
「あんたがここ最近、殺気立った顔してるから皆で用意したのよ!
感謝しなさい!」
「まったく、勘弁してくれ……」
ケルビンは脱力したようにしゃがみこむ。
獣人達はその様子を見て、大いに笑った。
ケルビンは冷酷な戦略家ではなく、自身の生きた証を遺す為に精一杯背伸びしている青年に過ぎなかった。
人間社会ではケルビンのような男の愚直さはいいように利用され、その真意を理解されないまま、使いつぶされていた。
だが、感情の豊かな獣人たちにとって、ケルビンは大変好意的に映った。
もちろん、彼らがケルビンを慕うまでの道のりは大変長かったが、それはまた別の話だ。
だからこそ、ケルビンはようやく手にしたこの空間を簡単には手放さないだろう。
たとえそれが連邦との正面戦争になったとしても。