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当てつけのような大粛清が行われた連邦では、指揮系統が混乱していた。
獣人達の前に、敗退した連邦軍は人員を失い、急遽、海外の占領地から兵を戻さざるを得なかった。
海外の兵たちが戻ってくるまで、現地の連邦軍の攻撃手段は遠距離から狙える大砲しかなかった。
しかし、それすらも……。
「撃てーっ!」
撃つのをやめたら、粛清される。
彼らはとにかく撃ち続けた。
しかし、粛清によって砲の知識がある者がいなくなり、寄せ集めで構成された兵士たちは大砲の正しい取り扱いを知らなかった。
「なんかさっきから、変な音がしないか!?」
「ああ? 耳でもやられたのか!? 」
「とにかく、撃て!」
次の弾を撃った瞬間だった、直後大砲の砲身が真っ赤になり、大爆発を起こした。
積み上げられた予備の砲弾ごと爆発し、砲撃陣地をも消し飛ばした。
こうしたことは各地で起こり、爆発はしなかったが、発砲不能になるなど、連邦の栄光を支えてきた大砲撃も次第に影を潜めていった。
◇
つかの間の休息を終え、ケルビンらは戦地に戻ってきた。
代わりの獣人達は、連邦の襲撃を撃退するという役目を果たしていた。
戦車部隊を退けても、連邦は何度か進撃をしてきた。
しかし、それは戦略性を欠いた単純な突撃でいともたやすく撃退できた。
「烏合の衆になり果てているな」
「それでも数が多い。
胡坐をかいていると、連邦はすぐに人を集めてくるぞ。
この隙を突きたいが……」
その時、ケルビンの元へと鳩が舞い降りてきた。
ケリーの放った伝書バトだ。
鳩の足に括りつけられていたのは、チラシだった。
「ふむ、なるほど」
「え、戦勝パレードって勝ってないじゃん!」
チラシを横から覗いたアンが素っ頓狂な声を上げた。
連邦は中央首都で獣人達に大打撃を与えた作戦を記念して、軍事パレードを行うようだ。
「獣人は卑怯にも残虐なガスを使用したが、連邦兵は果敢に戦い、獣人達を退けた、か。
物は言いようだな」
「ふざけた言い分を! 今こそ、弱体化した連邦に切り込みを仕掛けるべきだ」
ユキノは鼻を鳴らして、胸を張るが、ケルビンは首を横に振った。
連邦のパレードは国民に向けて、ではなく、世界に強い連邦は健在だと見せつけるためだろう。
失敗は許されない、とにかく人海戦術で、人の壁を作っているはずだ。
ケルビンは仲間に引き入れた連邦兵士に尋ねた。
「君たちの大砲の射程は?」
「いや、ここにあるのは小さなものばかりだ。
最大で10km程度、首都までは20km以上はある。
届かない」
「じゃあ、届けよう」
「は?」
ケルビンは獣人と、人間の前に立った。
「パレードは一週間後、此処で勝負に出る。
目標はガブリエル・アロンソ、そして、エレナ・マイヤーだ」
◇
パレードを控えた連邦では、各国の首相や資本家が招かれた。
しかし、招待に応じないものが多かった。
連邦の影響力は確実に弱体化している。
連邦は来なかった者たちを憎しみながらも、来た者たちを必死に接待した。
高級ホテルのロビーで、世界有数の資本家たちが前夜祭を楽しむ中、エレナは密かに品定めを行っていた。
(違う、あれじゃない。あれでもない……)
そして、彼女は一人の気品のある青年を見定めた。
「困るんだよね、此処で連邦につぶれてもらったら、さ。
もっと頑張ってもらわないと。
連邦がなくなる未来も、獣人が偉そうにする未来も、僕の事業計画にはないんだから」
「ベリアル殿、口に気を付けた方が」
「いやいや、僕に物言える人がいるとでも?」
他の名のある資本家たちが冷や汗をかきながら、忠告するも、その青年は冷ややかに受け流す。
(彼、聞いたことがあるわ)
サマエル・ベリアル。
連邦にルーツを持つ家系でありながら、莫大な財を成し、国家に属さず所有しているリゾート地で不自由のない生活を送っているという話だ。
「ガブリエルだっけ?
あいつだって、僕に頭を上げられないのさ」
その言葉を聞いて、エレナは動いた。
「あの、もし」
「こ、これはエレナ嬢。では我々はこれで……」
ガブリエルのパートナーが着て、厄介になると思った他の資本家たちはそそくさと立ち去った。
ベリアルはエレナを、興味深げにジロジロと眺めた。
「おいおい、気に障ったのかい?
でも……」
「いえ、貴方様とお話がしたいと」
「ほぉ……まぁ、座ってよ。
僕はね、君がいくら美しいからと言って、靡かないよ。
大事なのは、取引だ」
「ええ、私に差し出せるものは……」




