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 獣人連隊と連邦の間で二度目となる戦闘が起きた。

 とはいえ、獣人達には戦車との戦闘経験があるが、連邦の戦車戦に参加した面子はほぼ戦死した。

 戦車は高所からの攻撃と、肉薄攻撃に弱い、獣人には経験に基づく知識(アドバンテージ)があった。


 獣人の接近を阻む歩兵たちは、自分たちが巻いた毒に巻かれた。


 障壁はない。


「吶喊!」


 ユキノら、突撃部隊は停滞した戦車の横っ腹から突撃を敢行した。

 彼女らにとって、戦車は未知の超兵器ではなく、解析されつくした兵器だった。

 獣人の一人は戦車の横部の点検用ハッチにスコップを挟ませ、てこの原理で押し開ける。

 開け放たれたハッチの中の驚愕する兵たちに向けて、火炎瓶(カクテル)を投げ入れる。


 また、以前の戦いでは足が遅かったり、冬眠中などで参加できなかった数少ない男の獣人達も躍動する。

 狼のトムは戦車から兵士を引きずり出すと、ありあまる怪力で、足元のコンクリートに叩きつけた。

 熊の双子、ベンとベスは二人で協力して、戦車をひっくり返した。


「助けてくれぇぇぇ!」


「逃げるな!」


 横っ腹を突かれ、後方の部隊は潰走を始めたようだ。


「むっ、霧が薄くなって……ガスが切れたか」


 ユキノは立ち止まり、あたりを見渡す。

 その時、彼女の背後で煙を出し、沈黙していた戦車からわっと連邦の兵が飛び出す。


「しねぇ、獣人!」


「カーベー中佐の為に!」


「6人といったところ、か?」


 しかし、ユキノは呟くだけで、振り返りもしなかった。

 そして、彼女の背後で連邦の兵の気配がばたりと倒れた。


「ふん、良い腕だ」




 ユキノに迫った連邦の兵を撃ち抜いたのは、アンの両手拳銃だった。


「みんな撃って! ファイア!ファイア!」


 アンの号令と共に、ライフル部隊が敵を撃ち下ろす。

 前の戦いのように、高層住宅の上に陣取り、敵を狙う。

 ガスを耐え伸びた歩兵や、戦車を捨てた兵士たちも、彼女たちに撃ち抜かれる。


「後ろの部隊は逃げていくけど、前の部隊の生き残りは都市に向かっていきますわ

 いいんですの、あれで?」


「ええ、ケルビンが待ち構えているから」


「ああ……なるほど」


 ◇


 しかし、都市で待ち構えるケルビンが取った作戦は極めてオーソドックスなものだった。


 破壊された都市の路地やがれきの中に大砲を隠し、防御陣地を築き、満を持してやってきた戦車部隊を狙い撃った。

 ガンスミスギルドは大砲を生産していて、それなりの数が倉庫にあった。

 そして、ケルビン側に寝返った連邦兵たちもいたので、兵隊は足りていた。


 この作戦では、ケルビンは直接獣人の指揮をとらず、人間の兵の指揮を執っていたのだ。


「徹甲弾を早く!」


「次弾装填急げ!」


 「撃てーっ!」


 兵士たちは砲弾の弾をバケツリレーで運び、一発一発を戦車に撃ち込んでいく。

 また、敵の歩兵に対しては、即席の塹壕から顔を出し、射撃を浴びせる。


 連邦からしたら、突然、毒ガスと獣人の奇襲という奇策を浴びせられた後、次は陣地を構えた砲兵という定石の戦いを仕掛けられた。

 温度差のある二段構えの作戦を前に、連邦兵たちは困惑し、本来の実力を出せなかった。

 そもそも、ガスと獣人により、連邦の戦列は分断されて、都市にたどり着いたのは3割ほどであり、いかに戦車という新兵器を用いても、十分な用意をされた敵陣地を攻略できるほどの戦力はなかった。

 彼らもすぐに壊滅へと追いやられた。


「混乱の極みで頭が沸騰している連中に、冷や水を掛けるのか。

 恐ろしい奴よの」


 戦場から少し離れた前線の指揮所で、連邦兵がケルビンに合流する際に、仲介役を果たした老兵が薄ら笑いを浮かべながら、安酒を煽っていた。


「貴方もこちら側についた一兵士なら、何かしてほしいものだが」


「ふふ、老体に無理を言うな。

 おい、迷える新兵たちが、指示を仰ぎに来たぞ」


 老兵の言うとおり、一人の若い兵士が息を切らして、ケルビンの元に走ってきた。


「ケルビン指揮官殿!

 連邦の歩兵部隊が、薬剤店に立てこもった後出てこなくなりました!

 降伏を促す為に、特使を立てた方がよろしいでしょうか?」


「相手が降伏してきたわけじゃないんだろう、手榴弾で建物ごと制圧しろ」


「し、しかし……! 彼らも同じ人間です!

 私たちが獣人への誤解を解いたように、彼らとも対話をすれば……」


「銃を持って攻めてきた時点で、和解の道はない。


 ここの都市の人々と君たちは連邦に反旗を翻すという勇気ある行動を見せた。

 だから、獣人連隊はその勇気に見返りを支払う。


 勇気のないものに施しを与える余力も、意味もない。

 気の毒だが、こっちも生きるのに精いっぱいなんだ」


「……わ、わかりました」


 新兵が走り去っていった。


 言うまでもなく、この戦いは連邦の大敗北となった。






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