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「つまり、このようにすれば、一部だけを爆破できると?」


 ケルビンと技術者と医師は、多くの計算式を試し、夜通し話し合った。


「ええ、計算上は」


「資料によると、この毒ガスは中々奇妙な性質をしているようだ。


 着火しやすいが、延焼はしずらい。

 これは、ガスの分子構造が特殊で、瞬間的に燃えるが、その後すぐに酸素が不足して火が消える特性を持っているからだ。


 そのため、誰かが近い距離で着火し、燃焼を開始させないと、周囲のガスが広がっても再び火が付くことはない」


「地雷として使えるな。 そして、短期的にはガスで苦しめることもできる。


 ……もう一度確認したい、この火が燃え広がって、関係ない市民まで巻き込む可能性はないんだな?」


「ああ。僕の計算では、ガスの燃焼範囲は狭く、あくまで短時間で収束する。火が広がりすぎることはない。」


「火のついた一か所で爆発が起きるから、燃え尽きた後のガスはほとんど残らない。

 だから、この方法なら安全に処理されるといえる」


 連邦の侵攻部隊だけに打撃を与えて、民衆たちを傷つけることなく、ガスを処理できる。

 それが確認できたケルビンは、随一の身体能力のユキノと鼻が利く狼のトムに、起爆の準備をさせた。

 進行する連邦部隊を待ち構えるという危険な任務だったが、二人は二つ返事で了承した。


 トムがマンホールの上から匂いを嗅ぎ、ガスを確認した。そして、ユキノが起爆装置をセットし、起爆したのだ。


 ◇


 戦車部隊は悲惨な有様だった。

 敵とも遭遇していないのに、半数がマンホールの蓋で吹き飛ばれたのだ。


「何が起きた、ハッチを開けて確認しろ!」


「は! 

 あう、ううぅ……」


 ハッチを開けて外を確認した兵士はすぐに倒れこんだ。

 彼は白目をむき、痙攣していた、外に充満した毒ガスを吸い込んだのだ。


「ひっ、これは毒ガスか!? おい、こいつを車外に捨てろ! 早く!」


 応急処置をすればまだ助かるのに、戦車兵たちはパニックになり、仲間を外に捨てようとする。

 そして、その際に別の兵がガスを吸い、昏倒する。

 もうめちゃくちゃだった。


 別の戦車では除き窓から、黄色い煙を見て、毒ガスだと悟りって車内に引きこもった。


「ど、どうする!?」


 だが、その時、外から戦車を叩く音がした。


「じゅ、獣人に取りつかれたのか!?」


「いや、違う!」


「おい、助けて、入れてくれぇ!」


 それは味方の歩兵たちだった。

 外で直にガスを吸った兵士たちは、もはや地獄だった。

 半数が倒れ、意識のある者たちは密閉された戦車に入れてもらおうと、ゾンビのように味方戦車に群がる。


「おい、やめろ! ハッチを開けさせるな!

 もういい! 轢き殺せ!」


 味方を轢き殺す戦車、とにかくここから離れようと急加速した途端、ケルビンらの仕掛けた即席罠にはまる戦車、なんにもしていないのに個体不良で履帯(キャタピラ)が外れる戦車、つぎつぎ、倒れる歩兵たち。


「何をぼーっと外を見ている、換気口や覗き穴を全部閉じろ!」


「空気が取り入れられなかったら、エンジンの排気ガスで充満して、10分と持ちませんよ!」


「その前に行動するのだ! 貴様らは決死隊として、後方の指揮官の元に出向いて指示を仰げ!

 一人でもたどり着けばよい、無駄死にではないぞ!」


「嫌だ、死にたくない!」


「情けない奴め! 上官の指示に従えぬものは処刑するぞ!」 


 彼らが狭い戦車の中で、もめごとが起き始めた時、その外から戦場に場違いの音色が聞こえた。

 誰もがそれを幻聴だと思いたかったが、それは現実のものだった。


喇叭(ラッパ)……! 獣人の突撃喇叭だ!」


 ◇


「皆!

 一度、あの弁当箱みたいなのとはやりあったから、わかってると思うけど油断しないで!」


 アンは彼女に付き従う獣人達に声を張り上げた。


「時間通りだ。

 良いな、猫娘。私たちは突撃するので、貴様たちは高い建物から援護射撃してくれ。


 ……何をニヤニヤしている」


「いや、やっぱり変な被り物だと思って」


「お互い様だ」


 アンもユキノもガスマスクの上から、獣耳がはみ出している。

 工業都市の工場の中には、有毒ガスが出るような過酷な工場がいくつかあり、そこで使われているガスマスクを拝借したのだ。


「真剣にやれ。

 指揮官から承っただろう」


 過去最大の先頭を前に、ケルビンは連隊の部隊編成を実施した。

 アンにはライフル部隊の指揮官を命じ、ユキノには突撃部隊の指揮官を命じた。

 アンの方は副指揮官という役割が与えられていたが、それは発展途上だった獣人達をまとめ上げるリーダー的なモノであり、軍事的なものではなかった。

 ケルビンが命じたのは、伸びる連邦部隊の分断という大きな目標のみであり、それをどう達成するかは二人に委ねられた。


「指揮官は、私たちを信用した。

 私たちは報いねばいけない、わかっているか、アン?」


 ユキノの肩には重圧と、それ以上の誇りがかかっていた。


「なぁに、緊張しちゃってるの?

 ハイタッチでもしとく?」


「やらん。

 行くぞ」







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