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「ほ、報告します!」


 ガブリエルは僅かに生き残った貴族の兵から、自分の軍団の壊滅の報を受け取った。

 しかし、意外にもそれを聞いたガブリエルは上機嫌になった。


「ふむ、悪くない」


 ガブリエルが部下たちを招いた中央区の高層住宅からでも、都市から立ち上る黒煙は良く見えた。

 また、ケルビンがかつて言われた通り、連邦軍は戦死者が多いほど、勇敢だという価値観を持っていた。


「それに、私が獣人の到来を予想できないとでもおもったのか?」


「どういうことでしょう?」


「わからないのか?

 やつらは今まで穴倉に引きこもっていたが、愚かな獣人達はまんまと我々の大砲の射程に入ったのだ」


「そ、それは……我々を囮にしたということでしょうか?」


 生き残りの一人が震える声で尋ねた。

 それには貴族の自分が駒にされたという怒りがあったが、ガブリエルにはその感情には気づかず、自分に対する畏敬の念だと思い込んだ。


「ふふ、貴様らはまだまだ未熟ということだ。

 まぁいい。次の作戦では先陣を切る名誉を与えるので……」


「お、お待ちを!

 ……閣下の奇策、見事で、私どもも心を動かされました!

 どうか、閣下の教えを受け継いだものとして、後方指揮官の名誉を与えていただけないでしょうか!」


 それは言うまでもなく、保身の為だった。

 ガブリエルは貴族たちの言葉を聞いた後、しばらく考え込み、そして愉快な笑い声と共に立ち上がった。

 そして、高層から連邦を見下ろす。


「ふはは、良いだろう。

 私が英才教育を施すアロンソ士官学校(スクール)……いや、ガブリエル・スクールとでも名乗ろうか?」


「ガブリエル・スクール! なんと偉大な名前でしょうか!」


「祖父アロンソは偉大だ、連邦、いや、世界が尊敬する人物だ。

 だが、私にも野望がある。


 私は獣人を駆逐し、貴族の輝かしい時代を取りもどし、歴史に名を遺す!

 新生ガブリエル・バルタニス連邦としてな!」


 そして、ガブリエルは貴族たちに視線を戻した。


「貴様らに、庶民の兵を与えよう。

 低学歴で、何の価値もない連中だが、駒にはなるだろう。


 その駒を使って、獣人を駆逐して見せよ!」


「は、はっ!」


「それから……ガブリエル・スクール一期生として、恥になるようなことをすれば、容赦なく粛清する。

 覚えておけ」


 ◇


 一方、ケルビンは駐留することになった西部都市の連邦軍駐屯地に足を運んでいた。

 西部方面軍……ケルビンのもともとの所属でもあり、獣人連隊に返り討ちにされたり、忍び込まれたりと、何かと縁のある組織だ。

 虐殺時、ガブリエルを始めとした貴族たちから何も聞かされていなかった彼らは基地の中で困惑しており、獣人が現れても、右往左往していた。

 当然、住民たちの怒りは彼らにも向き、かなりの軍人たちが闇夜に紛れて逃げ出したようだ。


 住民たちと残った軍人たちとの間で、流血沙汰が起きる前にケルビンが間に入って交渉を試みた。


 一人で基地に踏み入ったケルビンに銃口を向ける兵士はおらず、ただ唾を呑んで、事態の行く末を見守るほかなかった。


「ほう。

 獣人連隊の軍門に下れ、というのか?」


 本来の指揮官も、副指揮官も、その代理も、代理の代理も逃げ出した基地で、ケルビンを出迎えたのは、定年退役前の初老の軍人だった。

 彼はケルビンに臆することなく、淡々と対応する。


「我々から提示する一つの案です。

 各々に任せます。

 立ち去るなら立ち去ればいい。

 ただ、武器を取って我々に立ち向かうというのならば――」


「そんな連邦に忠誠を誓えるほど、給料はもらっておらんよ。

 残った若い衆もな。

 若い連中も連邦に愛想をつかしたようだ。ワシが自由にしろといえば、連中も自分で決めるだろう。

 だが……」


「何か懸念でも?」


 初老の男は、眉間に深い皺を寄せて、ケルビンを見据えた。


「お前さん、連邦と戦っている間は良い。

 自分を冷遇してきた相手を撃ちかますのは、さぞ気持ちいいだろうよ。


 だがな、連邦を倒したとして、他の国はどうだ?

  列国ロイヤル・ガーデン、砂漠の資源国家ガーベラ首長国……連邦が抜きんでてたとしても、他だって獣人の扱いは酷いもんだ。

 他が、世界がお前たちを認めないと言ったら、どうする? まだ戦うか?」





「そうなったら、――、――」


 ケルビンの返事に、男は少し目を見開いた後、ため息をついた。




「……革命家というには、狂いすぎているな。

 そうでもしなければ、世界は変わらないか。


 良いだろう、若い連中の中にはここに家族がいるものも、お前さんに惹かれているのもいる。

 ワシが口利きしてやろう」



 こうして、ケルビンは連邦軍の少なくない戦力を自軍に加えることに成功したのだ。

 しかし、ケルビンが獣人の共存が拒否された時に何をするつもりなのか、それを知る者は殆ど居なかった。













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