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「来たな、獣人!」


 貴族の兵らは意気揚々と目の前に現れた彼女らに銃口を向けた。

 彼らの使うライフルは対獣人用に新設計されたものであり、また、貴族の子息として実戦経験が殆どない彼らは自信に満ち溢れていた。

 しかし、それは間違いだった。

 彼らがトリガーに手をかけるよりも早く、刀の刃が迫る。

 ユキノの振るう刀の刃先は、音速を超え、彼らが死を認識する前に引導を渡した。


「うっ!?」


 その様子を見た兵士は思わず後ずさるが、彼らの懐にアンが飛び込む。

 教の彼女の両手にはリボルバー拳銃ではなく、コンバットナイフが握られていた。

 彼女は舌を出して、少し毒気のある笑みを浮かべた。


「悪いんだけど、こっから、ワンサイドゲームだから!」


「何をぼーっとしている! 撃て!」


 一人の男がアンの頭部にライフルを発射するが、その弾は射線に割り込んできたユキノの刀に一刀両断させられる。


「銃撃戦に慣れすぎて鈍ったのか、猫娘? 」


「なんだかんだいいつつ、アンタは助けてくれるでしょ?」


「ふん……。

 分隊、奴らの懐に飛び込め。白兵戦だ!」


 ユキノが敵集団に刀を振りかざすのを合図に、獣人達は突撃を敢行した。


 名誉の為に皆が市長の首を求め、固まっていたのが災いし、兵士たちは獣人の波に飲み込まれた。

 それは戦闘というより、乱闘に近かったが、この間合いでは獣人に敵うはずがない。

 彼らは悲鳴を上げながら、ライフルを乱射するが、肉薄した獣人達を捉えられず、同士討ちを引き起こす。

 小柄な獣人の少女がショベルをフルスイングすると、兵士が頭を被った腕とヘルメット、そして頭部をもへこませた。

 満月の下で遠吠えを上げた狼男は、手身近な敵兵を掴むとレンガの壁に叩きつけた。


「す、すげぇな……あれが獣人の戦い方か」


「ああ……っておい、市長は、アレクサンダーは無事か!?」


 戦いにくぎ付けになっていたガンスミス・ギルドの我に返り、市長を探す。

 彼はケルビンに肩を借りて、事務所の中に隠れるところだった。

 彼らは戦闘に巻き込まれないよう、迂回して、ケルビンと市長のところに向かった。


「おい、アレクサンダー! 大丈夫か!?

 畜生酷い傷だ」


「い、いや、大丈夫だ」


 アレクサンダーは気丈に答えるが、かなり苦しそうに見えた。


「早く病院に! いや、医者を呼んで来ないと!」


 ギルドの面々が右往左往する中、ケルビンは軍用リュックから医療キット取り出し、てきぱきと施術していく。

 ケルビンは呆気に取られているギルドの面々をちらりと見る。


「手伝ってほしいんだが?」


「あ、ああ!すまん!」


「弾は二発、腹と右腕、運がいいことに臓器は避けていて、弾は貫通している。

 急いで止血をすれば助かる。

 止血体を巻くから、アンタは高く右腕を持っててくれ、アンタはガーゼをこのくらいの大きさに切っておいてくれ」


「わかった!


 ……意外だな。

 獣人連隊の指揮官が、こんな衛生兵の仕事をするなんて。

 アンタも戦いに混じるのかと」


「白兵戦に俺が混じったところで、瞬時の判断力的にも、身体能力的にも彼女たちの足手まといだ。

 なら、俺は別のことをするだけだ。

 器用貧乏で結構、俺はピースを埋めるだけだ」


「なるほど……」


「血が止まった。後はそこで安静にしていてくれ」


 アレクサンダーの顔色が少し良くなると、ギルドの面々も一安心した。

 外の戦いの様子を見た一人が自嘲気味に呟く。


「俺たちの作った銃を使うより、拳で戦った方が強いんじゃないか」


「いや、あれでも加減して戦っているんだ。

 市民の逃げ惑う中銃撃戦はできないし、何より、狭い下水道を通るのにライフルは邪魔だった」


「下水道から!? あんたの仕業だったのか。

 度々、水が止まるから湯銭を張れなくて困ってたんだぜ」


「そのぐらい我慢しろ、こっちなんてその下水道を通って来たんだ。

 あと、用意してくれた銃使わせてもらうぞ」


「使わせてもらうったって……」


 もってきてないじゃないかと、呟こうとしたとき、ドスンドスンという地響きが響いた。


「うぉ!? 連邦の戦車ってやつか!?」


「いや、こっちの第二陣だ。

 ベス、ベト!こっちだ!」


 ケルビンが名前を呼ぶと、地響きの主が走ってきて、窮屈そうに扉から入ってきた。

 その正体は大きな熊だった。


「紹介しよう。獣人連隊の数少ない男手の熊のベスとベンだ」


 ベンとベスはおっかない熊の顔をしていたが、ギルドの面々を見ると片手を上げた。


「どうも」


「お、おお。どうも……アンタらを敵にしなくて正解だったよ。

 でも、こんな獣人が居たら、連邦の兵の中でも噂になりそうだが……」


「ああ。

 つい最近まで冬だったから、ずっと冬眠(ねて)た」


 ベンとベスは背中に背負ったラックから数十丁の銃を降ろした。

 別の獣人も後から続き、その銃を拾い上げていく。

 そこにアンがやってきて告げる。


「ケルビン、敵が逃げていく!」


「よし。

 ライフル部隊は武器を補給、シャベル部隊は市民たちの避難誘導を開始。


 連中に虐殺と戦争に違いを分からせてやれ」



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