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 エレナ・マイヤーの華麗なる政治活動が始まった。


 まず言うまでもなく、彼女は獣人を認めず、庶民に対する徴兵令を推進した。

 彼女は労働地区の労働者たちの効率化を主張した。

 工業地区に不要な娯楽施設や制度を削除・廃止し、生産性を向上させる……文字だけで見れば、悪くなさそうな案だが、実際は違った。

 彼女の言う娯楽施設や制度は学校や公園、教育制度や手当などにまで及んだ。

 一定以下の庶民に学問は不要であり、そのリソースを連邦の発展に尽力してきた貴族の末裔や知識層に与える。


 学問・出自に徹底的に身分が管理され、最上位の貴族は、最下層の庶民に生殺与奪の権利すら持つ。


 数の多い庶民の票を得られないのでは? という懸念が発生しそうだが、エレナはちょうど都市の人口の半々で損得が分かれるようにした。

 半分が支配者層になれるのなら、半数の票はもらったも同然だし、企業の経営者たちを優遇することで、間接的に彼らの従業員を篭絡しようとした。

 誰もが権力には逆らえない、誰もが上で下を見下したいと思っているはず、エレナにはそういう哲学があった。


 エレナは毎晩のようにパーティに参加した。

 ある日は、財閥の大富豪らと優雅にシャンパンを飲み、古き良き偉大な連邦時代の話に耳を傾けた。

 ある日は、年の近い御曹司・令嬢と共に、派手な音楽で夜通し、馬鹿騒ぎのようなパーティーをひらいた。

 更に、ガブリエルの部下らにより、街中でエレナのプロパガンダが横行し、壁という壁に女神のようなエレナが描かれ、雇われた吟遊詩人が彼女の偉大さと慈悲深さを披露した。


 そんな日々は、エレナを狂わせ始めた。

 元々、歪んだ出世欲があった彼女だが、鋭い観察眼と冷静さを兼ね備えていた。

 しかし、この数日のせいで自分は全知全能の女神にも匹敵するのではないかと思いあがり始めた。


 日々の疲れを癒す為に、高層住宅で、ガブリエルと共に優美なひと時を過ごす。


「エレナ、凄いじゃないか。

 国営新聞の調査によると、君の支持率は96%のようだよ」


「ふふ、読者調査でしょう。まだまだ油断はできませんわ」


「君は謙虚で、真面目だね……美しいよ」


 謙虚に言うが、実際にはエレナは勝利を確信していた。

 新聞だってこう言っているし、何より、会う皆全員が、彼女を女神のように崇拝してきたからだ。


「しかし、良いのかい?

 選挙当日に私が共にいなくても」


「ええ。私の実力で連邦の民意を知らしめたいのです。

 ガブリエル様がいると、私が脇役になってしまいますわ」


「ははは、こいつめ」


 選挙までの数週間、エレナはパーティを巡りに巡った。

 けれども、票に影響しないと踏んだ庶民の前には一度も姿を見せなかった。

 そして、選挙の日を迎えた。


 都市に用意された豪華な会館で、エレナは側近たちと選挙結果を待ちわびた。

 彼女らはドレスやタキシードを着こみ、煌びやかな花や、高価なシャンパンが用意されており、既に勝利したかのようだった。


「いよいよですな、エレナ嬢。

 まぁ、結果は見るまでもありませんが」


「ローナルド公爵殿、あなた様のお力添えのお陰ですわ」


「公爵、その呼び名で呼ばれると、むずかゆいですな。

 ですが、力が漲るようだ。

 かつての貴族の権威を取り戻し、獣人とそれに靡く小市民どもを粛清しましょうぞ!」


 エレナの側近の老貴族ローナルドは胸を張った。

 丁度その時、外から戻ってきた側近の一人が足早に彼の元に駆け寄ると何かを耳打ちした。


「何? 冗談は止せ。

 ……どういうことだ?」


「ローナルド公爵、どうされたので?」


「いや、これはしかし……!」


 エレナが尋ねるが、ローナルドは狼狽えるばかりでなかなか伝えようとしない。

 だが、彼が伝えなくても、外の空気が伝えた。

 突如、会館の外から湧き上がるような民衆の歓声が聞こえたからだ。

 その雷鳴のような響きに、エレナはびくりと体を震わせ、恐る恐る口を開いた。


「この騒ぎは一体……?

 ローナルド公爵!」


「エレナ嬢、私は何かの間違いだと確信しています。


 しかし、しかしながら……我々が敗北したとの報が入りました」


 

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