05
マックス指揮下の兵たちは、ケルビンらの前で、個々の武装を解除された。
それは、マックスにとって屈辱の極みだった。
「貴様ら、我々が無防備になったところで突撃する気じゃないだろうな?」
「さっきも言ったはずだ。
そうするつもりなら、既にそうしていると。
諸君らが退くまで、仲間は呼ばない」
「野蛮な獣人と、それに成り下がった人間の言葉など……! 」
一度は撤退を心に決めたマックスだが、一瞬の気の迷いから、一度地面に置いたナイフを取ろうとした。
だが、手からするりと抜け落ちる。
「なっ!?」
いつの間にか、マックスの横にいたアンは自身の尻尾を器用に使い、ナイフを叩き落としたのだ。
「すぐに頭に血が昇っちゃうあんたと、私たち、どっちが野蛮なのかしらね?」
少なくとも生身の格闘戦では勝ちようがない。
格の違いを見せられ、マックスはアンに冷笑される。
「今のは最後警告だ。
次はない」
ケルビンは冷ややかな口調で、そう告げる。
マックスの部下たちも、癇癪から自分たちを危険にさらした指揮官を失望の目で見ていた。
こうなっては、いそいそと撤退の準備を早めるしかなかった。
「……全員、武装解除した。
我々はトラックで撤退する。
これで満足なんだろう!?」
「協力に感謝する。
では、よい旅路を」
「くっ……! 」
◇
トラックを送り込んだ後、ケルビンは力が抜けたような形で地面へとしゃがみこんだ。
「……なんとかなったな」
「まったく、うまくいったのだから、弱気なことをいうではない。
あやつを見習ってみよ」
ユキノが首をくいっとやり、アンの方を見るように促す。
彼女はマックスらが置いて行った物資から、食料を探し当てると、目を輝かせてそれを物色していた。
「やったー! ツナ缶だぁ!」
「とにかく感情的で、能天気で、阿呆だが……悪い奴じゃない。
少なくとも、他人を出し抜こうとする人間よりもな」
「それは俺も含まれているのか?」
「……馬鹿者。そう思っていたら、共に行動していない」
ユキノは口元を袖で隠しながら、もう片方の手をケルビンに伸ばした。
「なら、もう少し付き合ってくれ」
その手を取り、ケルビンは立ち上がり、地平線の彼方を見た。
「他の皆もきっとうまくやってくれているだろう」
「二人ともー、クッキーがあったよ!」
◇
トラックが連邦へ向けて走り出して、1時間ぐらい経った。
どこまでも、まっぴらな平地が続いている。
連邦は侵略戦争を続け、領地を広げているが、それを開拓するリソース不足でこのような光景が続いている。
マックス達はトラックの中、無言で揺られていた。
屈辱に顔をしかめる者、ショックで頭が回らない者、内心助かってよかったと安堵している者もいた。
(取られたら奪還するまでのこと。
連邦に帰還後、装備を補給し、直ちに奪還作戦を開始すれば……! )
マックスが逆襲を考えているとき、突然、トラックが急に止まった。
「なんだ!?」
「指揮官! 外をご覧ください!」
マックスがトラックの帆の隙間から外を覗く。
そして、外に見えた光景に、息を呑んだ。
「なんだ、あれは!?」
トラックから500m離れた先の平原には、廃材や丸太で構成されるバリケードが作られていた。
いや、バリケードだけではない、トーチカや監視塔まで。
それらは獣人たちにより、人間とは段違いの作業速度で、どんどん長く、強固に建設されていく。
「防衛ライン、いや、要塞ではないか……!? 」
「指揮官、あちらよりライトが照射されています!
発光信号です!」
【直チニタチサレ。
貴君ラ、我ラニ対抗スル術ナシ】
「クソ! トラックを走らせろ! 」
完全に裏をかかれた。
ケルビンは自分合わせての3名以外のリソースを、防衛ラインの建築に全力投入したのだ。
あれほどの防衛ラインを突破するのは自分らの部隊だけでも、いや、数個連隊を投入しても難しい。
「謀ったな、ケルビン!」
マックスは頭を掻きむしった。