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「悪いが水をくれないか? バカの提案で3日かけて連邦からここまで歩いてきたんだからな」
とりあえず、ケルビンの家に通された3人はどっかりと椅子に座り、大きな溜息をついた。
連邦教会の襲撃以降、国内の騒乱もあり、連邦は最大限まで警備を強化していたので、目立たないために夜中に徒歩で出てきたという。
その後、ちょっとした遭難などを挟み、ここまで辿り着いたようだ。
その努力に免じて、ケルビンは客に水を出してやった。
「感謝してくれ。こっちは飲み水も豊富とは言えないんだ」
「へぇ、あんたらも苦労しているんだな」
「それで、連邦軍御用達の企業連合ガンスミス・ギルドが何の用かな?」
ケルビンがそう言うと、彼の傍に控えるアンとユキノの視線が険しくなり、男たちは背筋を正した。
「もちろん、道楽に来たわけでも、冷やかしに来たわけでもない。アンタらと取引をしにきた。エドモンド、話してくれ」
「獣人連隊の反乱が起きるつい最近まで、連邦軍は俺たちにより口径の小さく、連射の効きやすい新型ライフルを要求していた。ところが、アンタらの反乱が始まった途端、今度は口径の小さい銃など要らないと言い始め、契約を蹴りやがった」
連邦は人間の時代の覇権を取るため、対人間を主眼とした銃を望んでいたが、本格的な獣人殲滅のため、彼女らの肉体を打ち抜ける高威力のライフルを欲していた。
それに加えて、貴族制復活を掲げるガブリエルらの意向により、連邦は民間の企業ガンスミスギルドより、名家の運営する財閥に受注を依頼した。
もちろん、そこに裏の金の流れがあったことは言うまでもない。
「何が財閥だ、あんなの古の技術と利権に執着した無能の集まりだ」
「なぁ、考えてみてくれ。
俺たちが人の兵士用に作ったライフルを、アンタらが使えば鬼に金棒だと思うんだがな」
彼らの話をひとしきり聞き終えたケルビンだが、向ける視線は冷たかった。
「随分と虫のいい話だ。
今までは獣人たちを倒す武器で儲けていたのに、風向きが変わると、こっちに縋り付くのか?」
「そういう打算的なの嫌い」
「返す言葉もない。
申し訳ないと思っているんだ」
「……と、同時にその武器を効率的に使うことで、連隊はここまで生きてこれたというのもある。
皮肉な話だな」
難しい話だった。
戦争責任を武器の製造者まで合わせるというのは。
「だが、そもそも無理な相談だ。
簡単に鞍替えする連中は信じられないし、取引といってもこの小さな土地にはやれるものなど何もない。
何を求めて来たんだ? 」
「それは将来さ」
組合の髭を蓄えたリーダー格の男は、一筋の汗を垂らした後、目前の机に額を張り付けるように頭を下げた。
「連邦に貴族政治が復活しようとしている。
今でさえ、皆が苦しい生活を送っているのに、あんたの姉が市長に当選すれば終わりだ。
奴らは庶民たちから更に金を巻き上げ、自由も奪って、奴隷にするつもりだ!
かつて、獣人達をそうしたように!」
「……」
「俺たちも黙っているわけじゃない、市長の有力候補の一人は俺たちのダチだ。
あいつが市長になれば、俺らの都市は獣人との戦争に協力しない。
銃だけじゃない、防具や物資、戦争にはマンパワーが必要だが、工業都市がボイコットすれば、戦争なんてできる筈がない。
だが、貴族共が庶民の政治を認める筈がない。
流血沙汰になるかもしれん。
もしそうなったとき、俺たちを守ってほしい」
「口先だけじゃだめだ。
まだ、それじゃあ人間の勝手な都合に俺たちを巻き込んでいるだけだ」
ケルビンの反論に、同調するようにユキノが鼻を鳴らした。
「も、もちろんだ。
西部開拓地第一地区、アンタらが目指していたところだろう。
実はあそこは数年前から俺たちガンスミスが買い取り、企業の私有地として利用している。
きちんと開拓して、鉱山があり、銃の製造工場と、酪農の牧場もある。
そこなら、十分な生活を送れるはずだ。
沢山の武器も用意する、全部をアンタらに譲ろう」
アンが尻尾をぶらぶらとゆれた。
きっとその言葉を聞いて、放牧的な幸せな空想を広げているのだろう。
「今まで稼いできた資産も分けよう、これは持ってこれた分だが……これなら足がつかない」
ギルドの一人がリュックからいくつかの金塊を取り出した。
「でも、金だけじゃないんだ。
ケルビンさんよ、アンタが獣人の子を抱きかかえて連邦教会から出てくるのを見た。
正直、俺だって獣人なんて臭くて野蛮な獣だと思ってた。
でも……あまりにもあどけない子供だった。
俺たちの息子や娘と同様にな。
アンタらが俺たちを嫌っているのはわかる。
嬢ちゃん達の親は、俺らの作った武器で殺されたんだもんな。
一方、俺らの父はそれで金を儲け、俺らもそこそこの生活を送ってきた。
だが……息子たちの世代は関係ないと思うんだ! 」
「取引はお互いの将来って訳か」
「そうだ。お互いだ。
獣人の居住を認めるなんて上から目線なことは言わない。
結束の暁には、アンタらの生活をよりよくするため、なんだってする。
なぁ、頼む。
アンタらの描くその未来に、俺たちの従業員と家族を拾ってやってはくれないか?」
ケルビンは考えに、考え、その場で答えは出さなかった。




