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1週間後から連載を再開します。

「なんて愚かな!」


 連邦議会にて、英雄の孫ことアロンソ・ガブリエルは激怒した。

 ケルビン・マイヤーの教会を狙った卑劣な襲撃により、多くの連邦の大物たちが命を失い、心無いものによる略奪により、連邦教会は朽ちてしまった。

 連邦政府はこれを受けて、獣人に対して最大の報復を決意した。

 一定以下の所得の男性らを対象に、徴兵令を発動。

 ガブリエル率いる正規軍と、徴兵軍、合わせて5万人の大軍団で、ウエストランドごと押しつぶす作戦を画策したのだ。


 だが、教会という心の拠り所を失った人々は、当然、獣人に怒りを燃やすに違いないという政府の予想は見事に外れた。


「こんなもの!」


 ガブリエルが怒りに任せて破り捨てた新聞がその元凶だ。


 ケルビンが資料を託した青年が書いた新聞は、ものの見事に中立だった。

 事実だけをかいたそれは、連邦の腐敗を明らかにした。

 獣人と戦うためとして、市民から徴収した税金の9割近くが汚職に使われていて、貧しい人に慈悲を与える筈の教会には高価な芸術品が並べられていた。

 そもそも恩恵を得るたびに獣人とだらだらと戦っていたのではないかという噂も広まった。

 普通に苦戦していただけだが。

 そのタイミングでの徴兵令の発令だった。

 ケルビンが残したセリフ、連邦に無謀な突撃をさせられるという予言が現実となり、民衆たちはパニックとなり、徴兵令に大反発、各地で暴動が起きていた。


 しかし、ガブリエルを始めとした議会の人々には民衆の怒りが理解できなかった。


「愚かな民衆め!

 自分たちがいかに恵まれているかも知らずに!

 この連邦より発展している国が何処にあるというのか! 」


「そうだ!」「わからせねば!」「粛清を!」


 ガブリエルの声に賛同の声が集まる。

 確かに、彼の言うとおり、連邦には豪華な百貨店やホテル、最高の医療技術を整えた大病院がある。

 しかし、それを利用できるのは富裕層だけで、庶民には無縁の世界だった。

 指をパチンとならせば、専属のメイドたちがフルコースを持ってくるガブリエルらには、一日をパン一切れをしのぐ庶民の生活なんて理解できなかったのだ。


 議員たちから喝さいを浴びたガブリエルは、両手を高らかに広げる。


「諸君、知っての通り、私の祖父は連邦の英雄だった!

 その古き良き時代には、貴族制というものがなされていた。

 貴族は勇ましく戦い、今の連邦の繁栄を築いたが、愚かな庶民共は一生の恩を忘れてしまった!


 誰が支配者なのかをわからせ、再び正しい時代に戻さなければならない!

 貴族制の復活だ!」


 議場はその自信に満ちた演説に、大拍手を送った。

 富裕層、貴族と労働者層、平民の対立は限界へと向かっていた。


 ◇


 エレナ・マイヤーは自宅の高層住宅から、下を見下ろしていた。

 民衆達と治安部隊が衝突していた、最近の日常だ。

 民衆たちは、ケルビンのことを連邦を粛清できる唯一の革命家と呼び始めた。


「気色悪い……」


 エレナは呟いた。

 何故、あの男が慕われるのだろう。

 親殺しで、何より獣人達を率いるあの愚弟が。


 彼女は恐れていた。

 弟の復讐を恐れているのではない、連邦を崩壊させるなど不可能だと彼女は思ってる。

 

 彼女は弟に負けることを恐れている。

 先の教会襲撃で、教会のある地区の市長が命を落とした。

 よって、次の選挙をしなければならないのだが、今支持を集めている候補者は獣人との戦いに反対の姿勢を見せているのだ。

 無益な戦いをやめ、全ての人が見返りを得られる平等な社会へ。

 明らかにそれはケルビンの影響を受けたものだった。


 エレナたちが支持する連邦を発展させてきた富裕層を優先し、獣人を一人残らず殲滅するという考えとは真逆だった。

 これは主張の代理戦争だった。


「負けたくないわ」


「愚かな民衆どもめ、自分たちが息を吸って生きていくことを当然の権利だと思っている……!」


 部屋に入ってきたガブリエルが、エレナの肩を抱きながら、忌々し気に呟いた。


「心配しなくてもいい。

 獣人にすり寄ろうとする例の候補者には刺客を差し向けるつもりだ。

 その思い上がり、死を以って償わせてや――」


「その必要はありませんわ」

 

 汚い手を使って勝つ、それはケルビンに対しての負けのように感じられた。

 手段にこだわりを見せるのは、姉弟揃ってだった。


「エレナ?」


「私が市長選に出ます。

 連邦の民意というものを愚弟に見せてやりますわ」


 エレナには勝算があった。

 教会の地区には労働層も多いが、富裕層、そして知識層も多い、彼らは自分に入れるだろう。

 そして、彼女は美しい。

 その美貌で今までの地位を手に入れてきたのだから。





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