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「皆、歩けるか?」


 事を終えたケルビンは、捕まっていた獣人達に問いかける。

 彼女たちは殆どが10代半ばの少女たちだった。


「二つの選択肢がある……あーいや、このうちのどちらからか、好きな方を選んでいい。

 一つは俺たちと一緒に来るか、もう一つは……」


「連れて行って! 連れて行って!」


「お願いなのです!」


 もう一つの選択肢を聞く前に、彼女たちはまるで群れから逸れた子狐のように、彼女たちはとことことケルビンのもとに群がる。

 上目づかいでケルビンを取り囲むさまは、かわいらしくあり、同時に、悲痛でもあった。

 ケルビンらは少女たちの頭を撫でてやる。


「わかった。

 裕福ではないけど、あったかいスープぐらいは飲ませてやれる。

 じゃあ、行こうか」


 ケルビンは立ち上がると、富豪たちが取引に使っていた現金の袋を取り上げた。


 ◇


「特務第2班、任務完了!」

「特務第3班、現着!」


 ケルビンらが教会をでたタイミングで、別行動をしていた部隊が合流した。


「指揮官から言われた通り、私らは陽動して、軍隊を遠ざけた。 

 でも……」


「野次馬に囲まれたか」


 教会の正門には、騒ぎを聞きつけた民衆が集まっていた。


「ほ、本当に獣人だ!」


「軍や警察は何をしているの!」


 大勢の人々を見て、先ほどまで捕らえられていた獣人の子供たちは尻尾と耳を固まらせて、怯えていた。

 アンは彼女らの手を握ってやりながら、ケルビンに指示を仰いだ。


「どうする、ケルビン?」


「任せろ。

 俺を先頭に、二列縦隊、彼女たちを守るようにして囲め。


 行くぞ、連隊」


 ケルビンは民衆に向かって、堂々と歩く。

 そして、後ずさる民衆に向け、無造作に先ほど拾った袋を投げつけた。

 中身が飛び散り、大量の紙幣が空に舞う。


「連邦教会は獣人達を金で取引していた。

 疑うというのなら、その腐敗を見てくればいい。

 そこにある金、財宝、芸術品を、全部おいてきた。


 それの持ち主はもういない、あとは君らの好きにすればいい」


 ケルビンの宣言を聞いた民衆たちは顔を見合わせた後、我先にと、教会に流れ込んだ。


「上が拝金主義に染まれば、民衆達もそれに染まる。

 行き過ぎた拝金主義の末路だな」


 動かなかった者たちもいる。

 呆然とする者、困惑する者、メモ帳にペンを走らせるベレー帽姿の者、ケルビンはベレー帽姿の青年に目を付けた。


「新聞記者か?」


「は? あ、ああ……そうだ」


 ケルビンに声をかけられた新聞記者は、明らかに困惑と恐怖を顔に張り付かせていたが、逃げも隠れもしなかった。

 ケルビンは一人の獣人の少女を抱き上げて、彼に見せた。

 新聞記者も怯えたが、獣人の少女はもっと怯えた。


「彼女はレオナールと富豪たちの間で取引されていた。

 森の中で、静かに家族と暮らしていたのを、連中は引きずり出した。


 これを見ても、野蛮な獣人と思えるのか?

 獣人を差別し、貧困層を戦場に送り、連邦の富裕層ばかりを優遇する連邦教会が正しいと言えるのか? 」


「……ぼ、僕は」


「答えはいい。

 ペンは銃よりも強い、そうだろう?


 公平な記事を書いてくれ」


 ケルビンはそう告げると、その青年記者にレオナールがパーティで用いた名簿を彼に託した。


「あ、あああ、あああ……」


 民衆の中から、ひと際怯えた声がした。

 見ると、そこには先日、ケルビンとアンにいちゃもんを付け、見事返り討ちにされた青年がいた。

 ケルビンがそちらに近づくと、青年は腰を抜かして倒れた。


「父親がレオナールと関りがあったそうだな」


「嫌だぁ! 来るな!」


 だが、ケルビンはその青年の目の前で立ち止まり、踵を返した。


「だが、今日までのことは許してやる。

 お前ら全員だ」


 ケルビンはその場にいる民衆たちに向けて言った。


「連邦教会が言っているから、仕方なく従うしかなかった。

 そういうのなら、我々は許す。


 だが、今日までだ。

 連邦教会が堕ちた今日、この日からは、そんな言い訳は認めない。


 自分の意志で、獣人(われわれ)と戦うかどうかを選べ。

 それでも、尚、連邦に従い、無謀な突撃をさせられ、あの無名兵士の墓(苔の生えた石)に埋もれたいのなら、相手になってやる。


 そうでないなら、道を開けろ!」


 ケルビンがそう言い放つと、民衆は言葉を失い、自然と道を開けた。


「道は開いた。帰ろう」


 彼らが民衆から向けられる目線は、恐怖や差別的なものではなくなっていた。

 その証拠に、群衆の中から出てきた手がケルビンに小包を渡してきた。


(これは……しまった。アンに隠れて買ったプレゼントをホテルの部屋に忘れてきたのか。

 ということは)


 小包の外には殴り書きで、『陰ながら応援しております。またのご利用をお待ちしております』と書かれていた。


 ケルビンらはフリーパスで連邦の都市を抜け、ウエストランドへの地平線へと続く、検問まであと少しのところまで来た。

 ようやく、その時、彼らを取り囲むように連邦の兵が現れた。


「囲め、囲め、一匹とも逃がすな!」


「ひっ!? もうだめ!」


 獣人の少女が耳を隠し、恐怖で固まるが、ケルビンは安心させるように微笑んだ。


「大丈夫だ、タクシーが来る」


「たくしー?」


「目標、ケルビン・マイヤー!射撃開始――ぐわぁ!?」


 次の瞬間、検問所と兵士を押しのけて、戦車が現れた。

 空いたハッチから狼の耳が飛び出す。


「ウー、ガゥ、ガゥ!」


「トム!よくやった、時間通りだ! 皆乗れ! 」


 連邦の人々が唖然とする中、ケルビンたちは戦車へとまたがった。


「そこの小さな狐の娘、戦車は固い。私の膝の上に乗れ」


「皆、忘れ物はない?」


「ないよ、忘れ物も、未練も。

 状況終了! 離脱!」


 ケルビンの号令と共に、戦車は、夕日の沈む彼らの故郷へと走り出した。


一応まだ完結にはしませんが、続けるかどうかは未定とさせて頂きます。

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― 新着の感想 ―
ケルビンたちの行動が今後どのような影響を持つのかが気になる。 あの新聞記者は公平な記事を書くのだろうか。 この続きの展開が気になる。
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