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「少し罰当たりかもな、へへ……ぐはっ」
教会の中でタバコを吸って、休憩していた武装した兵士の胸が背後から刃によって貫かれる。
「どうも、教会の警備にしては物騒なようだが」
「レオナールは、連邦中の富豪たちを集めて何かをしているようだ。
どうせ、ろくでもないことだろうけどな。
警備の配置からすると、連中は地下のようだ」
ケルビンはカバンからショットガンを取り出した。
彼らは一列になり、階段を下り、地下に降りる。
「角に注意」
「右を見とくから、左見ててよ」
「あそこの見張りを斬る、援護してくれ」
ダンジョンのようなレンガ作りの狭い通路を、素早く制圧しながら、進んでいく。
そして、豪華な意匠が施された大扉の前に、彼らは到着した。
「突入配置につけ。
今までとは違う、この扉の向こうにいるのは連邦の大物たちだ。
歴史を作る準備は?」
「今すぐにでも」「できてる!」
「……やれ」
◇
教会の地下では、仮面をつけた人々がワインや食事を楽しんでいた。
普通、教会の地下は倉庫などだが、この空間は世界中の芸術品が集められ、キッチンでシェフが腕を振るっている。
ケルビンの言うとおり、彼らは企業の重役や富豪、資産家たちだった。
「最近、商売の方はどうかね?」
「ふふふ、戦争特需でなかなかのものですよ。
市長殿はいかがですかね?」
「よしたまえ、役職で呼ぶのは。
何のための仮面かね」
わざわざ、仮面をかぶっているのは彼らにそういう趣味があるわけではなく、他者に見られたくないやましいことが行われるからだ。
暫くして、本日の主催者が現れた。
「皆さま、今日の良き出会いに感謝を。
連邦教会が枢機卿、レオナールです」
レオナールが壇上に立つと、人々は拍手喝采を浴びせる。
「私の挨拶も退屈でしょう。
このレオナールの挨拶は、まるで校長の挨拶のようですから」
レオナールの小粋なトークに笑いが漏れる。
だが、それは聖職者というより、資本家たちの機嫌を取る経営者のようだった。
彼の後ろには、赤い布で覆われた四角い何かが運び込まれた。
「では、さっそく、お見せすると致しましょう。
オープン!」
彼の宣言と共に、赤い布が外されると、その中には檻が入っていた。
そして、その檻の中にはボロきれ姿の少女たちがいた。
そのほとんどは、獣人で、手錠がかけられていた。
彼女たちはレオナールの部下たちによって、乱暴に檻から連れ出され、壇上に並べられた。
彼女のたちのボロきれには番号がふってあった。
「おお……!」
「見ろよ、あの無様な姿」
「ああ、とても興奮するな」
「これらは今は亡き友人、マイヤー夫妻が私に寄越してくれたものです。
そして、模範的同志カーべは人類にたてつく醜い獣人と勇敢に戦った。
彼らは献身的に働いたおかげで、我々は禁断の果実を頂くことができる。
我が連邦の圧の前に、獣人達は風前の灯、この機を逃せば、次はないかもしれません……」
「3番、900!」
「1000!」
「儂は1100だ!」
「まずは裸を見せてくれ、500払う!」
「よろしいでしょう。
バーモンド、やりなさい」
レオナールから命じられた神父姿の男は深々と頭をさげ、獣人の少女の布切れに手をかけた。
少女の顔が引きつり、悲鳴を上げた。
「いやぁ、きゃああああああああああああ!?」
その時、少女と神父の間に閃光が瞬いた。
まるで神の加護の光のように。
だが、軍事の知識がある警備の兵士は叫んだ。
「閃光弾だ!」
さく裂した閃光弾は音と光で、人々の視界と聴力を奪った。
その数秒のうちに、アンが放ったリボルバーの弾が半分の兵士の頭蓋骨を撃ち抜き、残りの半分は飛び出したユキノの刀の錆となった。
目を覆い、跪いた神父はケルビンのショットガンによって、上半身ごと吹き飛ばされた。
「え、この人間誰?」
「し、知らない!」
「違う、人間の匂いじゃない!」
獣人達は突然、現れたケルビンに困惑し、目を見開いている。
(人間の匂いじゃない、か。
沁みついたのは獣人の匂いか、血の匂いか)
アンとユキノは、羊を追い立てる牧場犬のように、富豪たちを会場中央に追いやっていく。
「レオナール卿、これは一体!?」
「これもショーの一環なのでしょう!?
レオナール卿!」
「非戦闘員まで、巻き添えにする気はない。
あなたがたには出ていっていただく」
ケルビンは料理人や雇われのスタッフたちに宣言した。
それにまぎれて、レオナールもコソコソと逃げようとしていた。
ケルビンはため息をつき、彼の右足をショットガンで吹き飛ばした。
「がぁ、死ぬぅ!」
「その程度じゃ死なない。
アンとユキノ、殺すのは待て。
彼らの罪を精査しよう」




