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39話、最後の部分を小変更しました。
お待たせしました。
カーベーの戦車隊を退けたケルビンは自室に獣人連隊の隊長格を集めて、ミーティングを行っていた。
「この手帳は戦車の残骸から見つかったものだ。
”友とは助け合え。隣人を慈しめ。獣人には石を投げよ。
彼らには言葉もなく、愛もないからだ”と。
どうやら、これは連邦教会の教えらしい」
ケルビンは手帳を床に投げ捨てると、獣人達の方を向いた。
「だが、我々が言葉にして送っても、彼らが寄越したのは使者ではなく、戦車だった。
よって、彼らとの対話は不可能だ。
少なくとも、こんな価値観を広げる権力者たちが居る間は」
彼は長机に、地図を広げた。
それは連邦の都市部の地図だった。
「その諸悪の根源の一つを潰す」
彼の話を聞きながら、トムという狼の獣人は喉の奥から唸り声を漏らしていた。
ケルビンはちらりと窓の外の夜空を見る。
今日は満月の夜だった。
「良いんだ、トム。我慢しなくても。
皆、悪かったな。首輪を繋がれたような、防衛戦ばかりで。
やはり、我々の本領は突撃だ。
我々は平穏を望んでいるが……この合衆国の安寧の為ならば、拳を固めよう。
第3獣人連隊は、積極的自衛権を行使する。
連邦政府の権力者たちと深いつながりがあり、獣人が野蛮だという嘘偽りを流す連邦教会。
それが我々の攻撃目標だ」
◇
翌週、連隊は連邦に対する突撃作戦を開始した。
連邦に隣接する第1地区に向かって行われた突撃に、戦車部隊が殲滅したのではないかと、多くの連邦人は驚愕し、怯えた。
しかし、獣人達の突撃は散発的なものであり、疎らな撃ち合いばかりで、連邦の守備隊によって何度も押し返された。
多くの連邦人たちは、戦車部隊によって獣人達は壊滅的な打撃を受け、玉砕必至の突撃をしているのだと考えた。
これを受け、対獣人殲滅作戦の指揮官、ガブリエルは獣人は風前の灯火であると演説を行い、名声を高めた。
そして、連邦政府は最後の一押しの為と、増税を決定した。
それの使い道は半分が軍備で、もう半分が軍に精神的支援を提供している連邦教会だった。
一方、ケルビンらの連邦近くの森林に陣を張っていた。
夜、彼と獣人達は連邦製のレーションを広げ、ささやかな宴を開いてた。
「皆がツナと肉詰めばかり取るから、ぱさぱさのクラッカーしか残ってないじゃないか」
「はよう取らぬからだ、指揮官。
弱肉強食、先制必勝が野生の鉄則だ」
相手にも、自分にも死傷者が殆どでないし、戦果もない一見無意味な突撃。
しかし、彼らは一撃離脱戦法で、連邦軍の意識を正面に向けさせ、更に、獣人の襲来を日常的で、恐れることのないものと錯覚させたのだ。
そして、ある時を待っていた。
ケルビンは狼の獣人のトムと、寝ているアンの様子を見ながらつぶやく。
「よし、明日は雨が降りそうだ。
トムの髭が震えて、アンが良く寝ている。
猫がよく眠る次の日は雨だという言い伝えがあるんだ」
「そやつが良く寝るのはいつもの話だろう」
「まぁ、そうだけど。
とにかく、予定通り行きそうだ。
第3分隊は小突撃を敢行し、陽動してくれ」
「ウゥゥゥ、グワン!」
第三分隊を率いるトムが尻尾をピンと立て、勇猛に吠えた。
だが、その吠えた声で起こされたアンに文句を言われてしまう。
「ねぇ、うるさい~」
「くぅん……」
「お前は寝すぎだ。
ともあれ、明日に備えて、そろそろ見張り以外は寝た方が良い。
特務分隊は、いよいよ連邦に進撃するのだからな」
ケルビンの声を聞いた獣人達は、目を怪しくギラリと光らせた。




