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04



「要求だと?

 それより戦死とは何があった!? 

 敵の襲撃なのか、説明せよ! 」


「俺が殺した」


 ケルビンは係りの兵が一応用意したコーヒーをスプーンで混ぜながら、あっけらかんと答えた。


「は?」


「あのまま、連中の指示に従っていたら命がいくつあっても足りないじゃないか。

 一応、あんたの部隊第7中隊も後方援護とはいえ、共に戦った部隊だ。


 言いたいことはわかるだろう?」


 ケルビンは指揮官マックスに、語り掛けるように言うが、効果は薄かったようだ。


「対獣人戦闘用意!」

 

 マックスの号令に合わせて、彼の部下たちがケルビンらを扇状に囲むように展開する。部下の数名はかなり大型の大砲のようなものを担いでいた。


「三四式試製捕獣網銃(ネットランチャー)か。

 第7中隊の真の任務は俺たちの獣人部隊の監視役とは聞いていたが……」


「獣人を暴れさせて、押し通すつもりだったようだが、無駄だ!

 弁解は斬首台の上で聞く!

 狙え! 」


 獣人を捕縛するのに特化したネットランチャーが、発射される寸前、ケルビンは言った。


「まぁ、待て。

 おかしいと思わないか?

 

 連隊規模、千人を超える部隊が居て、来たのが俺たち三人だけっていうのは」

 

「……撃ち方、待て。

 何が言いたい?」


「この地区の周りに、えりすぐりの俺の部下を配置している。

 獣人連隊の突破力は知っているだろう?

 前線の俺たちにかまけて、後ろで防御陣地の構築をおろそかにしていたこんな場所なんて、簡単に壊滅できる。


 そちらに話す気がないなら、突撃を命じる」


「嘘だろ!」「な、何!?」「本当なのか?」


 マックスの部下たちは狼狽え、指揮所の窓から外の様子を伺おうとする。

 だが、そこから見えるのは寂れた街並みだけで、郊外の様子は見えない。


「馬鹿者、集中しろ、構えを解くな!


 はったりだ! 今まで、外周を警備していた歩哨からの連絡はない!」


「もっと遠くの森に隠れているだけだ」


「そんな遠くの相手にどうやって命令を出す!?」


 ケルビンはその問いにふっと笑うと、自分の人差し指と親指を唇に当てた。


「口笛。


 人間は耳が悪いから聞こえないが、獣人たちは耳がいい。

 数キロ離れていても、聞こえるぐらい」


「う、嘘だ! こんな奴のはったりに騙されるな! 」


 ケルビンは、じっとりと汗を浮かべた手でネットランチャーを握りしめていた若い青年に話しかけた。


「ケリー伍長だったか?

 風のうわさで聞いたよ。

 来月、お子さんが生まれるらしいな。

 一度も会えないのは、残念だな」


「うっ……!」


「他の連中もだ。

 俺は獣人にシンパシーを感じているが、人間だ。

 最初から襲撃することだってできたんだ。そうだろう?

 でも、俺は人間の良心を信じてくれと、獣人たちに頭を下げた。


 ……もし、お前たちが間違った判断を下せば、獣人たちは冷静さを失う。

 お前たちの家族が住む故郷を燃やさないとは、約束できない。


 頼む、俺たちは静かに暮らしたいだけなんだ。」

 

 ケルビンが深々と頭を下げると、マックスの部下たちに動揺が広がるのが見て取れた。


「要求を伝える、無血開城を望む。

 一時間以内に、武装解除、軍事物資を置いて、このウェストランド第5地区から出て行ってくれ」


「し、指揮官殿!?」「ご命令を!」「ここは撤退を……」

 

「こんな奴のいうことなんて聞くな!

 我々の連邦魂は死を恐れない!」


 マックスは震える腕で、銃口をケルビンに向けた。


「なら、撃てよ。

 自分の身と仲間を犠牲にしてでも、国に従う覚悟があるというのならな。


 俺には覚悟がある」


 ケルビンは自分の指を口に突っ込み、口笛の用意をした。







「……撃ち方、待て! 構えを解け。


 よ、要求に呑む。

 兵に撤退の準備を始めさせろ」


「どうも、ありがとう」


ケルビンは至極冷静にコーヒーを啜ったように見えた。

だが、その手はほんの少し震えていた。


森の中で命令を待っている部下、そんなものは一人としていなかったからだ。

 

  



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