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カーベーは眉間に深い皺を寄せて、落ち着きなく貧乏ゆすりをしていた。
彼の重戦車、二型戦車はたった一台で平野を敗走していた。
来るときには、10両の戦車に囲まれていたというのに。
暫くの間、キャタピラとエンジン音だけが響く車内だったが、一人の戦車兵が声をあげた。
「隊長、自分はやはり納得ができません!
仲間を置いて、背を見せて逃げるなどと!」
「逃げるだと?
貴様、何を言っている?
これは毛玉共を錯乱するための転進である。
我々は今回の任務で、連中が不当支配する地域に大きな打撃を与え――」
「分かっているのでしょう!?
あれは我々が目指した第4地区ではありません!
我々は廃墟に誘い込まれたのです!
何の成果も得られていないのです!」
「黙れ!
今回の戦いで確信した。
突撃などしなくとも、この二式戦車が50両あれば、砲撃で完封することができる!」
「本国が失態を起こした我々に、補給を与えるなどありえません!
最悪は処刑だ! くそったれ!」
「もう一度言ってみろ!」
その時、乗員の一人がおずおずと声を上げた。
「お、お二人とも!
6時の方角、一型戦車です。
一台、脱出に成功したのでしょうか?」
「退け」
カーベーがその乗員を押しのけ、後方の覗き窓を見ると、確かにこちらを猛追している軽戦車『一型戦車』がいた。
「ふん、悪運が強い。
旗振れ、旗、黄、前、前。『我に続け』」
乗員がハッチから顔を出し、旗を振ろうとした。
その直後、彼の真横を弾が切り裂いた。
「う、うわぁ!? 撃ってきた!」
「何!?」
カーベーは狭い覗き窓で目を凝らし、何かを見つけて叫んだ。
「獣の耳!
獣人ではないか!?」
◇
戦車の中、スコープから目を外したアンは尻尾を床にたたきつけた。
「ごめん! 外しちゃった!」
「良い。
初めてで当たるわけがない!」
「やっぱ、ケルビンがやった方が良いんじゃない?」
アンは自信なさげに、ケルビンに言う。
彼女が砲手を務め、ケルビンは運転手と装填手を兼任し、ユキノは戦車の上に鎮座している。
「射撃に関しては、アンの右に出るものはいないだろう!?」
「でも、全然勝手が違くて!」
二つのハンドルで照準を合わせる戦車にアンは苦戦し、自信を失っていた。
上手く定まらない照準の先で、前の戦車がゆっくりと砲塔をこちらに回している。
「アン、焦るな。
俺……の……アンだ。できるさ」
「!?」
アンは尻尾をピンとたてた。
戦車の轟音によって、俺「たち」の『連隊』のアンと一部聞こえなかったのだが、その聞き間違いが、彼女を勇気づけた。
彼女は息を吐いて、照準を合わせて、発射ボタンを押す。
放たれた砲弾は、敵戦車の背後中央にあたり、煙があがる。
「やった!」
「……いや!」
アンは喜んだが、ケルビンは目を見開いた。
煙が晴れて見えてきたのは、周りきり、こちらを向いた砲身だった。
「装甲に阻まれたのか……!?
図体がでかいだけじゃないようだな」
「ケルビン、来る!」
後方に乗っかているユキノが警告を促す。
それと同時に敵から砲撃が放たれた。
刹那、ケルビンの脳裏にユキノの姿が思い浮かぶ。
走馬灯……ではなく、敵の銃撃をはじく彼女の斬撃のイメージが頭に浮かんだ。
刃に角度をつけて、弾をはじくイメージが。
「……!」
ケルビンは操縦レバーを操作し、咄嗟に右に切った。
直後、ガキン!という鈍い音が車内に響く。
しかし、続いて爆発炎上とはならなかった。
「弾いた!?」
「……忌々しいが、面白い兵器じゃないか。戦車は。
史上初の戦車戦、第3獣人連隊の勝利で飾るぞ。
俺たちのやり方でな」
◇
「反撃をしながら、連邦方向に逃げましょう!」
「ありえない!
反転して迎撃だ!」
カーベーは、戦車の正面を敵に向けさせた。
これで、大型の主砲と小型の副砲の3問の火力を向けられる。
「主砲、敵戦車、撃て!」
カーべーの鋭い咆哮に合わせ、主砲が発射されるが、惜しくも敵の手前に落ちた。
逆に、鈍い衝撃が車内を襲う。
「ぐっ! 被害は!?」
「副砲の隙間をやられました! 砲手も破片で……! 」
「……この邪の気迫、乗っているのは悪魔崇拝者だな!
主砲は私が自ら撃つ! 退け!」
「ケルビン、来るぞ……!?」
カーべーによって放たれた砲弾は、戦車と後ろのユキノの頭上をすり抜ける。
「ユキノ!?」
「耳をかすったが、取れてない。
だが、あれは切れぬぞ」
「砲手が変わったのか、狙いが正確になった。
ここで決着をつける。
アン、履帯を狙え。
行けるか?」
「……当てる!
一度、戦車を止めて!」
戦車を止めて撃つ。
命中精度は上がるが、外したら、次はあちらの大口径弾が飛んでくるだろう。
だが、ケルビンは疑わなかった。
「ユキノ、準備だ」
「いつでも行ける」
ユキノは抜刀し、目を閉じた。
ケルビンは戦車を急停止させた。
「アン、撃て!」
「……ファイア!」




