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 袋小路に入り込んでしまった先頭戦車の内部は大騒ぎとなっていた。


「どういうことです!?

 ここは何処なんです!?」


「くそぉ、引き返すぞ! 」


 だが、四角い区画に迷いこんだ10両の蛇のような車列は、前と後ろで輪のようにつながり、身動きできなくなってしまった。


「何が起きている!?

 畜生、こんな覗き穴では何も見えん!

 装填手、ハッチを開けて周囲を確認しろ。これは命令だ!」


 上官の命令には従えない。

 一人の兵が恐る恐るハッチをそろりと開けた。

 その瞬間、車内に酒瓶が投げ込まれた。


 ある意味、それは歓迎の酒だった。

 高いアルコール度数の酒と、それが良くしみ込んだ布で作られた侵略者たちを歓迎するための(カクテル)

 それは車内の鋼鉄の床に触れた瞬間、割れ散り、真っ赤な炎を生み出した。


「ああああああああ、あああああああああああああああああああ!」


 狭い戦車の中では逃げ場などない。

 乗員たちは地獄のような灼熱に焼かれた。

 不幸中の幸いなのは、苦痛の時間はそこまで長くなかったということだ。

 広がった炎は車内の砲弾に引火し、戦車を中から木っ端みじんにした。


 ◇


「次!」


 ケルビンの号令と共に、獣人の一人が火炎瓶に火をつけて戦車に投げおろす。

 正確に戦車の中に投げ込まなくても、効果はあるようだ。

 まわりを炎に包まれた戦車はパニックに陥り、慌てて、後退しようとを試み、後ろの車両と接触する。

 皮肉なことに連邦が残したブービートラップが効いている。

 手榴弾などで作られた簡素なそれは、小さなダメージを蓄積させ、履帯(キャタピラ)をちぎる。


 戦車たちは砲身を上げて、集合住宅の屋根にいるケルビンたちを狙おうとするが、距離が近すぎて、砲の俯角が足りない。

 足場を狙って、集合住宅を崩壊させようとするのもいるが他の車両が邪魔で上手く狙えないようだ。


「凄い兵器だが……初戦で市街地戦はやりすぎたな。


 火炎瓶の残りは!? 」


「5です! 隊長!」


「よし、温存しろ。

 これを使う!」


 ケルビンは筒のようなものを抱えた。

 暴れる獣人を捕縛するために作られた試作武器……三四式試製捕獣網銃(ネットランチャー)

 ケルビンが狙いを定めて、発射すると、空中でネットが展開し、下にいる戦車の砲塔にへばりついた。


 戦車は砲身をまわそうとするが、ネットが絡まって動けなくなった。


「使えるじゃないか……!」


「伏せて!」


 アンの声に、咄嗟にケルビンが身体を竦めるとすぐ隣の屋根に砲弾が命中した。

 戦車たちから立ち上る黒煙の後ろに、大きなシルエットが見えた。


「見えたぞ、大将車……!


 戦車部隊の半数の無力化を確認!

 白兵戦用意! 総員、降下位置につけ!」


 ケルビンの号令を受け、獣人達が屋根の縁に横一列に立つ。


「降下!」


「了解!」「しゃあ!」「行きましてよ!」


 獣人達は勢いよく飛び降りた。


 ◇


 地上に降り立った獣人たちは、即戦車に肉薄する。

 砲塔が生きている戦車でも、肉薄されては砲を使えない。


「近寄るな、けだものぉぉぉぉぉ! 」


 大破した戦車の中から乗員が乗り出し、手持ちの機関砲を乱射する。


「生身なら斬れるっ!」


 ユキノは稲妻のように残骸の中を駆け抜け、一気に戦車に上ると、その兵を斬り落とした。


「私だって……!」


 それを見たアンはネットに絡まった戦車に近づき、愛銃のリボルバーを乱射した。

 だが、その弾は鋼鉄のボディにはじき返される。


「近くても、駄目なんだ!?

 亀みたいに閉じこもられたら、何もできない……!」


 だが、アンに考えが浮かんだ。

 彼女は戦車の横に立つと、猫耳を車体に付けて、車体を尻尾で叩いた。

 跳ね返ってきた音は、彼女の優れた猫耳に拾われ、脳内でイメージとして処理される。


 尻尾がピンと立った。

 壁が硬いところと、薄いところがある。


「よくわからないけど、わかった!」


 彼女はそこにリボルバーは撃ち込んだ。

 すると、そこは整備用のハッチで、簡単に弾が貫通して穴が開いた。

 そこから銃身を突っ込み、車内を一網打尽にした。


 もの数分で、戦車たちは無力化されていった。


 獣人達から遅れて、降りてきたケルビンは彼女たちに合流する。


「あの大将車は?」


「煙が退いたら、見えなくなった。

 逃げたのかも!」


 逃がさない。

 ケルビンには彼らを全滅させなければならない理由があった。

 この戦車を量産されてはまずい。

 ならば、初戦で全滅という結果で、連邦をくじけさせる他ない。 


「隊長! 向こうの戦車が白旗を上げてる!」


「分かった!


 アン、ユキノ! それから君らも援護してくれ!」


 ケルビンは周囲の獣人達を集め、その戦車に近づいた。


「戦車はそのまま、姿を見せてゆっくりと降りろ!

 そうすれば、捕虜として人道的に扱う!」


 ケルビンが声を張り上げると、戦車の中から兵がゆっくりと出てきた。


「早く!」


「さ、さっきはゆっくりって!?」


「いいから!

 ……奴らを縄で縛っておけ」


 ケルビンは獣人に命じ、自分は戦車に駆け出し、中を覗き込んだ。


「よし、生きてそうだ。

 使えるな。


 アン、ユキノ、乗れ!

 追うぞ!」



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