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ケルビンは机に置かれた木箱を見て、頭を悩ませていた。
占領地の住人から差し入れられた蒸留酒だ。
彼曰く、憂国防衛隊から隠してきた上等の酒らしいが、極めて度数が高かった。
「参ったな。
アルコール弱いんだよな」
だが、捨てるのも心無い。
突撃隊の血気盛んなやつにでもあげるか、そんなことを思っていた時だった。
遥か空の方向で、ばんという音と閃光が走った。
花火だ。
それを見て、ケルビンは表情を一変させて立ち上がる。
その方角は占領地を護る防衛ラインの一番側の方向で、その花火は連隊での緊急信号を意味していた。
◇
ケルビンはすぐさま、俊足の獣人を招集し、救援隊を派遣した。
30分後、彼女たちは一人の酷く傷ついた獣人を抱えて戻ってきた。
「ううっ……ごめんよ、指揮官」
「喋るんじゃない。
衛生兵、早く!」
「私も診ましょう」
彼女は酷い出血だったが、占領地の医師が診療所で治療をしてくれたおかげで、なんとか血が止まった。
「指揮官、私」
「まだ安心できるわけじゃない、喋るな」
「待ってくれ、これを伝えなきゃ、仲間の命が報われない」
「……わかった、話してくれ」
彼女は遭遇した敵の情報を語った。
カメのような装甲を持ち、大砲を備える見たことのない車が走ってきたという。
彼女たちの分隊4名は、果敢に応戦したものの、彼女らのライフル弾は通らなかった。
逆に、大砲の砲撃を受けて、残りの三名はやられてしまったのだという。
「それで、森の中に逃げたんだ。
何もできなかった、ごめんなさい……」
涙ながらに弱弱しい声で謝る彼女の手を、ケルビンは握った。
「いや、君たちはよくやった。
こうして生きて帰ってきて、敵の情報を持ち帰ってくれた。
本当によくやってくれた。俺の誇りだ。
……仲間が死んだのは、敵の新兵器が来ることを予測できなかった俺が無能だったからだ」
ケルビンが謝罪し、握る手に力を入れると、彼女は静かに微笑み、手がするりと落ちた。
「おい!?」
「大丈夫です、痛み止めの副作用で、眠っただけです」
人間の医師が落ち着いた様子でそう告げる。
ケルビンは彼に深く感謝し、診療所を後にした。
そして、落ち着きなく歩き回った後、近くの廃墟の壁に拳をぶつけた。
「クソ!」
「ケルビン!」
「俺は馬鹿だ……戦車とかいう奴だろう。
連邦軍人のなかでは噂になっていた。
装甲と大砲を併せ持つ、要塞のような車を開発しているって。
その頃はまだ形にはなっていなかったから、噂程度だったが、無視するべきじゃなかった。
俺のミスだよ」
「それはおかしい!
全部の噂を相手にしていたら、何とも戦えなくなっちゃう!」
「指揮官。
私の故郷の山には、頭は冷静に、心は熱くという言葉があった。
私たちの頭はお前にあって、お前の両腕は私達にある」
「わかっている!
ああ、その通りだよ」
ケルビンは周囲をうろうろと動き回り、考える。
「あそこを通ったということは、狙いは第5地区じゃない。
第4地区だ」
第5地区は以前の強固な防衛ラインがあるが、より面積の多いこの地区はまだ十分な防衛ラインがない。
ライフル弾が効かない装甲を纏った戦車?
大砲なら対抗できそうだが、数は少ないし、トラックで移動しないといけない。
この地区でのゲリラ戦? ありえない、連邦が開拓民を撃つことを躊躇するわけがない。大勢の犠牲が出る。
考えろ、考えろと、ケルビンは頭の中から打開策を探る。
ここ数日の出来事を思い出す。
”
『ブービートラップだらけじゃないか』無人の廃墟群となり、連邦軍が残した罠だらけとなった第三地区。
『アン、そこの分かれ道は迷いやすいから、看板をよく見ろ』連邦からウエストランドにたどり着くまでの解りづらい道。
”
!
「これだ。
アン、ユキノ!」
「命令は」「何でも聞く」
ケルビンは二人それぞれに命令を出すと、二人は現場に飛んで行った。
「あとは武器だ」
ケルビンはさっきの酒を思い出す。
かなりアルコール度数の蒸留酒、使えそうだ。
あとは……ケルビンは記憶の底からあるものを思い出した。
彼の言葉に騙されたマックスやケリーらの第7中隊が使っていた特別な武器。
どこかで使う機会がないかと、前線に持ち運んでいたのだ。
「あった。
これは使えそうだ」
どうも、戦闘シーンが長引いてしまい、この章『外交』があまりにも長くなりそうなので、章を改題します。
二日に一話が基本なのですが、戦闘場面が長すぎると退屈に感じてしまうかもしれないので、できる限り、早く投稿する努力をします。
後々、読みやすくするための不要な文章を減らすことも考えるので、よろしくお願いします。




