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それから数日後、ケルビンらを追い返した第二地区にまたしても来客が現れた。
ガブリエルらによって新設された新生連邦第一戦車部隊だった。
住民たちは見たことのない強大な鋼鉄の猛獣に驚愕して、そして、安堵した。
こんな超兵器に、獣共が勝てるわけがない。
良かった。自分たちは仕える相手を間違えなかったんだ、と。
ぼろの服を着た住民たちは連邦の赤い国旗を振り、彼らを歓迎し、戦車隊の中でもひときわ大きく、3つも砲塔を持つ勇ましい戦車から、指揮官らしき男が見えた時には拍手で出迎えた。
「私はカーベー中佐だ。
獣人殲滅及び、開拓民保護作戦の為に進撃してきた」
カーベー中佐の端正な顔立ちと、胸元の十字架は住民たちに安心感を与えた。
「おお! 住民一同、感謝いたしますぞ!」
「ふむ。
それで、諸君らの対価は? 」
「ええ、もちろんです。
早く持ってこないか!」
地区長が声を張り上げると、住民たちが息を切らしながら手押し車でドラム缶を運んできた。
「指定通り車両15台分の燃料、それから食料これが対価となります」
有事の際、彼らは連邦軍に身の安全を確保してもらうため、燃料を含めた物資を提供する。これが第二地区と連邦の間で交わされた防衛条約の対価だ。
カーベーは部下たちに燃料を調べさせた。
部下たちから報告を聞くと、単的にこう告げた。
「足りない」
「は? いや、そんな馬鹿な。
確かに指定されていた通り、トラック15台分の燃料を……」
「違う、車両15台分だ。
我々はトラックには乗ってきていない、これは戦車だ。
戦車10両とトラック5両だ。
食料も足りない」
「何!?」
確かに連邦と交わした書類には、車両15台分と書かれていた。
トラックとは書かれていない。
しかし、条約を交わした当時には戦車なんてものはなかった。
重い戦車の大量の燃料が必要となる。
彼らが用意したトラック15台分では不足だった。
「不足分、直ちに出してもらおうか?」
「そんな、しかし……!」
「探せ」
カーベーが部下たちに命じると、部下たちは住人たちを乱暴に押しのけて、燃料を探し始めた。
「ありました。全て押収しますか?」
「押収? それは我々の資産だ」
「待ってください! 燃料がなければ、たったの一週間もこの極寒を乗り越えられません!
トラック15台分の燃料も、食料だって、懸命に貯めたものなのです!」
命がかかっているのです、どうか、ご慈悲を! 」
地区長や住人たちは、カーベー中佐に縋るように跪いた。
カーベーは首を傾げた。
「命がかかっている? どういうことだ?
我々はこれより、悪魔の手先である毛玉共と戦うのだが?
それよりも命がかかっていると?」
「い、いえ……でも!」
「連邦教会の教えでは、友は助け合うべきだと。
我々は友ではなかったのか?
どういうことだ?」
カーベーは両手を広げて、心底信じられないという顔をした。
「違います! 我々は友人です!」
「おお、そうか」
満足そうに頷くと、カーベーは戦車の方へと戻っていた。
地区長と住民たちは、顔を見合わせる。
そのせいで、彼らは戦車の方を見ていなかった。
カーベーが乗った戦車の砲塔がゆっくりと回り、住人達に向いた。
そして、大地を揺るがす咆哮と共に砲弾が放たれた。
「あ――」
陣地や要塞を破壊するための砲撃を直に受け、住民たちは悲鳴を上げる暇もなく、跡形もなく消し飛んだ。
「よし、友は協力してくれた。
燃料と物資を積みこめ」
「はっ!」
カーベーは何事もなかったように、部下に命令した。
彼はそのあと苦痛を感じているかのように、顔を覆った。
「哀れな民衆達よ。
戦いには犠牲がつきものだ。
悪魔崇拝者と毛玉共さえいなければ、我々は彼らというかけがえのない友人を失わずに済んだだろう。
奴らさえ居なければ」
皮肉でも何でもない、連邦教会”過激派”のカーベーは己の任務と信条に忠実だった。




