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序盤の一部の文章を多少推敲しました。
また第一、第二……といった地区がわかりづらいかもしれないと考えていて、変更を加えるかもしれません。
よろしくお願いします。
ケルビンらはウエストランド第2地区へと赴いていた。
しかし、そこの住民たちはこれまでの地区のようにはいかなかった。
「帰れ!」
「獣人なんかが来たら、この地が汚れてしまうわ!」
「土に戻れ!」
住民たちはケルビンと獣人の姿を見ると、暴言を吐いた。
「死ね!」
中でも頭が禿げ上がった地区長は、ケルビンに向かって石を投げた。
「抜刀!」
石はケルビンに直撃する前に、ユキノの刀によって叩き落とされる。
「ひっ、民衆に刃を向けるつもりか!?」
「恐ろしいわ!」
「野蛮な獣人、悪魔の手先め! 」
「おお、神よ!」
「石を投げておいて、何様のつもりよ!
ねぇ、ケルビン、こいつら……」
「駄目だ」
ケルビンは、アンが物騒なことを言い終える前に首を横に振った。
これは予想したことだ。
第4地区の地区長に、ここの地区と話し合いを行うと言ったところ、彼は渋い顔をして期待しない方が良いと助言した。
この地区の住人たちは、連邦の侵攻の知らせを受けると、直ちに現地の軍隊を追い出し、連邦に尻尾を振ったそうだ。
あんな大国に勝てる筈がない、だったら、平伏した方が良いと判断したのだ。
しかし、だからと言って、連邦の手厚い加護を受けていると言う訳でもなさそうだ。
貧しい様子で、町を守る連邦軍の駐留すらなかった。
いや、ある意味、連邦軍の駐留がないということが、彼らに対する報酬なのだろうか。
「残念だが、話し合いの余地はなさそうだ。
拒む相手を無理やり手中に収めることはできない。帰ろう」
「ふんっ!」「むぅ……」
「やったぞ!」「帰れ!」「二度と来るな!」
アンたちが不満そうな声を漏らす一方、住人たちは歓喜の声を上げた。
トラックに乗り込む直前、ケルビンは住人たちの方を振り返り、忠告を残した。
「自分の身を誰かにゆだねるのも結構だが……相手を選んだ方が良い」
「減らず口を!帰れ!」
住人たちは何かに取りつかれたように、去り行くトラックに石を投げつけ続けた。
◇
「残念だったな」
トラックの中、ケルビンは二人を慰めるように言った。
「あんなのこっちから願い下げよ!」
「同感だ」
「アン、そこの分かれ道は迷いやすいから、看板をよく見ろ。
右だ」
「わかってるって!」
二人はいじけたように、言葉を発する。
ケルビンは二人の態度に苦笑しつつも、頭を悩ませていた。
前の地区では住人たちから信用を得ることができた。
だが、それは自分たちと彼らの中で、連邦が憎むべき共通の敵だったからだ。
だったら、連邦に尻尾を振る彼らの場合はどうする?
いや。
「彼らはどうなると言った方が正しいかもしれないな。
拒まれた以上、どうしてやることもできない……どうなっても、恨んでくれるなよ」




