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 その頃、例の闇新聞社に投書が届いた。

 その差出人は、第三獣人連隊指揮官。

 彼らは慌ててそれを記事にした。


『バルタニス連邦への宣戦布告』


 曰く、人類と獣人の戦争は3世代以上前に決着が終わり、獣人たちはそれ相応の対価を支払った。

 にも拘らず、バルタニス連邦は獣人に対する不当かつ差別的な扱いを続けており、尚且つ、彼らに関わる人々も蔑んだ。

 懸命な努力と犠牲になんら対価を得られず、不当な扱いを受けた我々は存亡と自由の為に、バルタニス連邦へ宣戦を布告する。


 文章自体は公的な書体であったが、内容は中々過激なものだった。


 敵国の民間人の犠牲を厭わない軍上層部の作戦を非難し、占領・開拓政策をただの無能と評した。

『我々は虐殺などの野蛮な真似はしない。連邦(あなたがた)とは違う、そんなことをしなくても勝てる』といったことまで書かれていた。

 獣人に無意味な苦痛を与え、非人道的な奴隷売買に関与したマイヤー夫妻は粛正したと宣言し、同じような人間も粛正対象だと予告した。


 連隊が占領した9万キロ㎡の領土の取得を目標とし、連邦がそれを譲るつもりなら戦闘行動を停止する。

 そちらが赴いて来るなら、交渉も考えなくはない。

 ただし、反撃するならば、一切の容赦なく奪うしかない、という文言で文章は締めくくられていた。


 ◇


 これが闇新聞を手にした市民たちによって、瞬く間に広がり、連邦全体を震撼させた。

 だが、連邦政府はそれを冷笑した。

 獣人達を殲滅させるための切り札が、彼らの手の中にあったからだ。


 連邦政府は獣人達を必死に討伐していては、国内外から見下されると考え、戦車が完成するまで反撃の時を待っていたのだ。

 そして、戦車の初陣を、反乱した獣人たちの殲滅という華々しい結果で彩ろうと考えていた。


「この獣人共の殲滅作戦『裁きの鉄槌』の総指揮官に私が任命された。

 本当であれば、前線で指揮を執りたかったのだが……上層部は首を縦に振らなかったのだよ」


 ガブリエルはやれやれと首を振りながら、エレナに愚痴を零す。


「でも、安心してくれ。

 この新鋭戦車部隊の隊長はそれに相応しい男だ。

 カーベー中佐、来い」


「はっ」


 エレナの前に現れたのは、長身の几帳面そうな男だった。

 胸にはいくつかの輝かしい勲章と十字架が誇らしげに輝いていた。


「彼は連邦教会の熱心な信者でね、真面目な男だよ。

 さてと、役者は揃ったな。


 では、連邦の歴史書の1ページを付け加えるとしようか」


 ◇


 あくる日、バルタニス連邦の軍事施設に都市部の上流階級の人々が招待された。


「何の催しなんだ?」


「こんなイベントをやってないで、早く獣人どもを焼き討ちにしないか!」


「獣人のせいで、西部の地価は下がる一方だ」


 人々は軍施設の一角に集められると、そこに設置された壇上にガブリエルが上がった。


「連邦人民の民衆達、今日はお集り頂き、光栄だ! 」


 民衆たちは彼が英雄の孫だということに気づくと、先ほどまで不満を述べていた口を閉じ、平伏した。上流階級ですら、彼の威光には頭を上げられないのだ。


「一部の愛国心の欠けた愚かな民衆の中には、獣人達と逆賊ケルビンを連邦の脅威だと恐れる者たちもいる。

 だが、それは愚かだ!


 今日はそれを証明しようと思う!」


 彼が指を鳴らすとともに、音楽隊が雄大な曲を流す。

 すると、奥の倉庫の壁がせり上がり、中から戦車が現れた。


「お、おお……!」「これは凄いわ!」


 立派な大砲を付けた巨体が、大地を揺らしながら現れるのは何とも迫力があった。

 人々の興奮を確認すると、ガブリエルはさらに畳みかけた。


「この新兵器の登場により、もはや、旧時代の獣を恐れることはない。

 私はこの度、連邦議会から獣人討伐の任を承った。

 これは逆賊ケルビンとその獣人達を殲滅するという、小さな目的ではなく、この地上から全ての獣人を根絶するための任務である!


 私がその指揮官で、そして、彼女が私の右腕として支えてくれる!」


「セレナ・マイヤーです」


 マイヤーという性を聞いた瞬間、沸き立っていた民衆たちは困惑の声を漏らす。

 しかし、セレナは凛と続けた。


「どうか、勘違いしないでください。

 私は完全な被害者です。


 あれは弟ではありません。

 ですから、敢えて私は謝りません。

 私はあれを家族とも、人間とすらも認めないからです。

 あれは抜け殻の人間に入り込んだ悪魔です! 」


 ベージュ色の髪を乱しながら、情熱的に訴える彼女の姿を見ると、直ぐに民衆たちは彼女に対する疑念を無くしていった。


「ガブリエル様は私を拾い上げてくださいました。

 ならば、この身は彼と愛するこの国に捧げようと思います!


 兵士達へ、命令を下します!


 野蛮で、汚らしい獣人達に捕らえられている開拓地の民たちをお救いください!

 そして、愚かな獣人達と逆賊ケルビンを始末してください!」


 彼女の振り下ろした手のひらと共に、戦車たちは唸り声をあげて、前進し始めた。

 西の地平線の向こうへ。




三章終了です。


誤字脱字の報告ありがとうございます。

本来、もっと少ない話数で打ち切る予定だったため、推敲があまいところがあります。


そこで、暫く、その確認に移りたいと思いますので、5日から7日ほどお待ちください。

ブックマーク登録しておくと、更新日がわかりやすいので、ぜひ登録お願いします。


よろしくお願いします。

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