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「そこで、今日は皆に集まってもらったわけだ」


「緊急会議と耳にして、何事かと思えば……」


 ユキノが呆れたように言う。

 ケルビンは急遽、アン、ユキノ、それから暇そうな各隊の隊長などを集めた。

 第一回緊急国名命名会議だ。


「だが、安心せい。

 私には(アン)がある」


「呼んだ?」


「お前ではない、座っていろ。


 こほん、【悪即斬獣人共和国改Ⅱ】、これでよかろう?」


「後ろはともかく、前の【悪即斬】ってなんだ?」


「サブタイトルだ」


「うーん、却下」


 その辺を歩いていたので、連れてきたバーバラが元気に手を上げる。


「はいはい、わんぱく・かんとりーは!?」


「……国を作ったら、そういう名前の公園を作ろうな」


 純粋無垢な提案をケルビンは苦笑いで、退けるしかなかった。

 次に手を上げたのはアンだった。

 彼女はニヤリと笑うと、自信満々に答えた。


「きっと、皆、大賛成間違いなしよ!

 ケルビンランド!」


「おお」「ケルビンランド!いいじゃん!」「やるではないか、国旗は指揮官の顔だな」「偉大な国家の誕生だ」


「いやいや、ちょっと待て。

 そんなふざけた名前」


「ふざけてないよ。私勉強したもん」


 王や英雄の名前を国家の名前にするのはよくあることだと、アンは主張した。

 実際、バルタニス連邦はバルニタスという伝説の騎士から名づけられたとされる。


「ケルビン、ケルビン、ケルビン!」


 獣人達は大いに盛り上がっている。

 ケルビンは首を傾げながら、熟考する。


(獣人と共に歴史に名を残すのが、俺の目的だというのなら。

 彼女たちが懸命に考えてくれたこの名前でも、いいんじゃないか)


 そして、ケルビンは口を開いた。


「……いや、却下だな」


 街頭に自分の顔の国旗がぶら下がり、人々がケルビンと連呼している様を想像するとどうしても寒気を感じてしまった。


 ◇


 翌早朝、ケルビンは早起きし、まだ考えていた。


 獣人を表に出しすぎては、人間の住人たちに嫌悪感を抱かれるかもしれない。

 国の形態はどうする? 共和国、同盟、共同体?

 とにかく、早く決めなくては、今後にかかわる。


「……いっそ、ケルビンランドでいい気がしてきた」


 日の出の時間になり、大地が照らされる。

 ケルビンは周りの風景を見渡す。

 連邦が奪ったにもかかわらず、意味を見出せず見放された土地。

 だが、うっすらと積る雪は美しい。


 ケルビンは思い出した。

 彼の連隊が奪取した9千キロ㎡の土地こそが、彼らの誇りであり、積み上げてきた実力なのだ。


 ならば……。


「ウエストランド」


「えっ、結局それなの?」


 いつの間にか、横にいたアンは驚いたような顔をする。


「そう単純なものでもないさ。

 土地を奪われ、ウエストランドと渾名された人々の誇りを上書きするために敢えて同じ名前にする。

 この搾取と抑圧の歴史を、俺たちで上書きするのさ。


 それから、連邦とは違い、富の差や職業、産まれで差別しない。

 俺たちを尊重するなら、彼らも尊重する。


 合衆国ウェストランドだ」


 朝日に照らされるケルビンの顔を、アンはしげしげと見つめた。


「……ああ、悪かったな。

 昨日は国の名前を考えてもらったのに」


「ううん、合衆国ウェストランド、良い名前じゃない。

 何より、ケルビンが良い顔をしているっていうのが一番大事!


 その顔のケルビンに間違いなし!」


 屈託のない笑みを見せるアンを直視できず、ケルビンは空へと視線をずらす。

 その時、一羽の鳩が彼の元へと舞い降りた。


「伝書鳩? 飼っていたの?」


「ああ。

 ケリーたちとやり取りしている」


 今は連邦に帰り、家族と共に生活しているケリーたち。

 あの一件で、協力関係は終わりとケルビンは思っていたのだが、意外なことにあちらからコンタクトがあった。


 連邦を倒すために次は何をすればよいか、と。


 革命の伊吹にすっかり染まったケリーは、ケルビンに連邦の内情を送り、情報交換をしていた。


 鳩が首からぶら下げていた封筒には、新聞の切り抜きが入っていた。


「新聞? 闇新聞か」


 闇新聞とは連邦から認可されていない新聞のことだ。

 国営では扱えない、有名人のスキャンダルや事件の噂などのゴシップが多い。

 それを出版するのも、所持することも罪に問われる代物だが、少しの刑罰では人の好奇心は抑えられないのだ。


 とにかく、その闇新聞にはでかでかとタイトルが載っていた。

【冷酷な悪魔? 熱き革命家? ケルビン・マイヤーの真実】





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