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 憂国防衛隊の士気は低く、一度防衛線が崩れると散り散りになり、逃げだした。


 ウェストランド第四地区は、連邦に支配される前はそこそこ活気のある地域だった。

 占領した張本人が言うのだから、間違いない。

 ケルビンたちはなるべく建物を崩さないように戦闘したが、結局、連邦は憂国防衛隊という素人集団を送り込んだせいで開拓は失敗した。

 歴史的な建物からは調度品が略奪・破壊され、ギャング上がりの防衛隊員が作った趣味の悪い落書きと奇妙なオブジェで溢れ、灰色の街と化していた。


 ケルビンたちは街中を進軍しながら、住民たちの視線を浴びる。


 その視線にはあの防衛隊(チンピラ)を追い出してくれという期待と、そもそもお前達さえいなければという憎しみ、大きな不安が渦巻いていた。


(彼らから見れば、マッチポンプでしかないからな。

 互いに良い関係で駐屯するには、何かをする必要がありそうだ)


「指揮官、此処が中心広場みたいだ!

 あの臆病者ども、全員、逃げ出したらしいな!

 はっはっははー!」


 一人の兵が喜びの声を上げた。


「止せ、バラライカ。

 淑女的に振る舞え、市民が怯えてしまう。


 ……それに、奴ら犯罪者上がりが多いと聞いた。

 姑息な真似をしてくる奴が居そうな気がするんだ」


 ちょうどその時だった。

 突然、物陰から一人の人影がケルビンらに向かって、走ってきたのだ。


「敵襲! 防衛態勢!」


 ユキノが即座に指示を出すると、直ぐさま彼女たちはケルビンを強固に囲み、銃を構えた。

 何が何でも、指揮官は死守せよ。

 ケルビンが命じたわけではない、第三獣人連隊の兵たちの胸の奥底にあるもっとも優先すべき使命だった。


「待て、撃つな!」


 だが、ケルビンはそれを慌てて止めた。

 その人影は中年の女性で、此処に住む市民のようだった。

 彼女は必死の形相で、ケルビンらに訴えた。


「お願いです、娘を救ってください!」


「……?」


「おい、止せ! 殺されてしまうぞ!」


「何でもないんです、こいつは取り乱しているだけなんです!」


 そんな女性を止めようと、他の市民たちも出てきて、その場はパニックに陥った。


「突破、退却、どっちでもいいからとにかく此処を離れた方がいい!」


 先程の指揮官の勉強で思うことがあったのか、アンは副指揮官らしい判断を見せた。

 だが、ケルビンは自らを守る彼女らの輪を、自分から抜け出した。


「ケルビン!?」


 ケルビンは女性の元に歩み寄り、跪いて、威圧感を与えない口調で問いた。


「我々に何かできることが?」


 彼女は少し落ち着いたのか、いきさつを説明しだした。



 ◇


 オニール兄弟とその取り巻き達という憂国防衛隊きっての不良兵たちが混乱の最中、彼女の娘を攫った。


『娘を返してほしければ、人間の指揮官一人で教会まで来い。

 獣人を連れてきたら、即射殺する』とのことだった。


 卑劣だが、上手い手だとケルビンは内心舌を巻いた。

 間違いなく、オニール兄弟が最も悪い。

 それでも、行かなかったら、ケルビンの侵攻のせいで娘の命が奪われたということになり、市民たちはケルビンらに完全な悪感情を抱くだろう。

 そうなれば、今後の計画に大きな支障が出る。


「連中の数は?」


「5人だったわ」


「彼らは他に何か言っていましたか?」


「え、ええ……。人間の指揮官は大したことがないだろうって」


「……」


 まだ取り乱している女性の素直な言葉を聞いて、ケルビンは微妙な顔になった。

 年端の行かない少女たちに守られている人間の指揮官なんて貧弱で、情けなく見えるのだろう。


 だが、これでオニールたちの目的が見えてきた。


「おそらく、欲しいのは俺の身柄だろう。

 今頃、俺は連邦の賞金首だからな。


 ……なら、お望み通り、行くとしようか」


「行くの!?」「本気か?」


 アンとユキノが同時に懸念をあらわにする。


「言ったじゃないか。

 実力を正当に評価されないのは嫌いだって」


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