表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/84

22

 翌朝、ケルビンの目が覚めたのは朝の9時だった。

 今日の予定はないが、いつもは彼は指揮官として朝五時に起き、個人的な鍛錬を積んでいる。


「煩悩にまみれた人間らしい生活だな」


 ケルビンはまだ寝息を立てているアンにブランケットをかけてやってから、カーテンを開けて、朝日を浴びる。

 だらしないが、なんとも清々しい朝だ。

 昨日の憂鬱は何処へ、何かが吹っ切れたケルビンは開放的な気分になっていた。


 その昼前、ケルビンは連隊のメンバーを集め、朝礼を開いていた。

 解放した面々の歓迎会でもあったが、その獣人たちの表情は複雑だった。

 素直に喜んでいるのはユキノに懐いた獣人の少女二人で、他の獣人たちは何故人間の従う獣人たちが居るのかと困惑の表情を浮かべていた。


 朝礼が粛々と進み、救出作戦の戦果と詳細が発表されると連隊の面々は湧き立った。

 一人の勝気な少女兵が興奮を抑えられずに、飛びあがった。


「やっぱ指揮官はすげぇ! 次は俺っちも混ぜてくれ!

 その極悪非道な一族を全員ぶっ倒してやるぜ!

 一体、どんな奴らだったんだ!?」


「ああ。そいつは俺の親だったよ」


「は?」


 あっけらかんと言い放ったケルビンに質問をした勝気な少女も、ユキノも、連隊の面々も、救出した面々も驚愕した。


 ◇


 一方、顔に泥を塗られた連邦は、すぐさま全軍をもって、ケルビンらに報復攻撃を……。

 とはいかなかった。

 何故、そうなったか? それを目の当たりにしたのは家族の元へと向かっていたケリーたちだった。


「店を開けろ!」

「もういい、こじ開けろ!」

「やめろ、やめろ! 俺の店があああ!」

「軍や警察は何をしているんだ!?」


 連邦の都市部では、獣人の反乱の知らせを聞いた市民たちがパニックになり、食材の買い占めに走った。

 それを見た商人たちはしめしめと、値上げを行った。

 それに反発した市民たちは激高し、商店から商品を強奪、更には石を投げ込んだり、火をつけたりと大暴れ、しまいには市民たち同士で食料品を奪い合い、更には政府の怠慢だと行政施設への攻撃も行われた。


 ケルビンらの作戦は一夜にして、連邦の都市部を巻き込む大暴動となったのだ。


 その鎮圧の為に軍が動員されているのだ。


 ケリーらは、その光景に言葉を失い……胸の高鳴りを感じた。

 地方の農村出身の彼らは、都市部の富裕層から百姓風情と馬鹿にされてきた。

 何かを変えるための力を持とうと軍に入っても、数年たっても、ただの使い捨ての駒だった。


 だが、ケリーは一夜にして、連邦を一変させて見せた。


 結局、この騒乱が完全に落ち着くまで3週間近い時間と300名の逮捕者、ケリーらの行った襲撃作戦よりも大勢の命が失われた。


 当然、引き金となったケルビンへの憎悪は膨れ上がった。

 しかし、それが思わぬことにつながった。

 人々に膨れ上がった憎悪のせいで、雑誌や新聞等に描かれるケルビンは醜く太った豚のような姿となり、本物のケルビンとは似ても似つかないものとなった。


 ◇



「愛してくれない親を撃ち倒して、何故、憂鬱になるのか?

 俺は考えた。

 それは心の何処かで、認められたいと思っていたからだ」


 ケルビンは自らの生い立ちを語った。

 獣人達は驚きと沈痛な面持ちでそれに聞き入っていた。


「だが、俺は気づいた。

 間違っている。

 存在すらも認めようとしない人間に、尻尾を振るなんて、獣人の指揮官の行為ではない!


 誰かに認められる為に戦っているんじゃない! そうだろう!?」


「そうだ!」


 ユキノが力強くうなづき、一部の獣人から賛同の声や、興奮の遠吠えが上がる。

 彼らと同じように、ケルビンも興奮していた。


「俺を認めてくれ、俺を支えてくれたのは君たちだ!


 それならば、何処にたかだか血の繋がっただけの肉親の死を悔やむ必要が何処にある!?

 いや、無い。

 後悔なんてない!

 あるのは成し遂げた誇りだけだ! 」


 ケルビンが言い切ると、獣人たちは拳を上げ、咆哮をあげた。


 救出された獣人たちは、ケルビンの元に駆け寄ると地面に頭をこすり付け、贖罪した。


「ケルビン様、どうか、愚かな我々の無礼を赦してください!

 見た目だけで判断してしまった。 あなたさまは我々の魂の同志です」


「様は要らない。呼ぶなら指揮官と呼んでくれ」


 連隊の面々も、親に手をかけたケルビンの覚悟を知り大粒の涙を流し、ある者は狂気じみたケルビンの行動力に絶頂すら覚えた。


 ケルビンも同じだった。

 彼が幼少期から求めていた認められたいという欲求、この胸が高鳴る感動は、感情のままに行動しなければ得られないものだっただろう。

 アンはケルビンの横顔を幸せそうに見ていた。

 これが彼女の好きなケルビンの顔だった。


「どうか、俺を信用してくれ。

 俺は既に肉親を粛正した。

 権力者であろうが、国家元首であろうが、それが神でも――俺は殺せる」



 ケルビンの言葉にきっと、嘘偽りはない。


 親殺し――その行いは人間では悪魔と評され、獣人達からは英雄と評された。




 この演説を以って、第三獣人連隊は、ウエストランド第4地区以降への進撃を開始することになる。

 




 




これにて、この章はおしまいです。

本当は前の章で一度打ち切ってしまおうとしていたのですが、運よく個別ランキングに乗り、いろいろな人の目に留まることができました。

応援の程ありがとうございました。


次の章まで3日から1週間ほどお待ちいただくよう、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ