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20

 ケルビンは機関銃のトリガーを引いていたが、弾が出なくなった。

 動作不良かと思ったが、弾倉ベルトは無く、100発全て打ち切ったのだと気づいた。


 部屋中の家具や備品、壁に掛けられていた写真がバラバラになり、チリとなって舞い上がっていた。

 彼の両親もそんな感じで、真っ赤になって、酷い有様だった。


「ははは、はははは。はははは」


 ケルビンは子気味良く笑っていたが、突然、真顔になり、アンの方を振り向いた。


「東の方から音がするな。

 聞き分けてくれ」


「え、えっ……。あ、トラック三台。こっちに向かってきてるわ」


 アンが耳をぴょこぴょことたてながら分析すると、ケルビンは頷いて、廊下の外の警備兵の死体からいくつかの色の煙幕を持ってきた。

 部屋の窓を開け、それら三色ほどの煙幕を一斉に焚いて、煙を外に出した。


「これで暫く、時間は稼げるはず。

 いくつかの書類を取って、こんなところ出ていこう」


 口早に言うケルビンに、完全に理解したわけじゃないアンは戸惑いながら聞いた。


「良いの?」


「ああ。良いんだよ、終わったことだ、全部」


 ◇


「我々の任務はアビシキ村の包囲だ!

 卑劣な襲撃者どもを生きて返すな!」


 獣人の刑務所から逃げ出した警備兵の通報により、隣町の軍の駐屯地から先遣隊が出発した。


「獣人の反乱ってマジなのかよ?」

「獣人の刑務所自体都市伝説かと思ってたぜ」

「おい、あんな化け物とやり合うのか?」


 トラックに揺られながら、懸念を話し合っていた兵たちだが、突然トラックが止まった。


「おい! あれを見ろ!」


「なに!?」


 暗黒城を思わせる刑務所の最上階から、得体の知れない煙が上がっていた。

 いろんな色を混ぜたような気味の悪い煙に、兵士たちは恐怖した。


「気味が悪いぜ! あれ、噂の毒ガスじゃないのか!?」


「おい、吸ったらまずいんじゃないか!?

 ガスマスクなんて装備してないぞ!」


「駄目だ、近づけん! 状況がはっきりするまで待機だ!」


 ◇


 一騒ぎを起こすという役目を終えたケリーたちは、混乱にまぎれ、家族の元へと向かった。

 そして、囚人たちを解放したユキノは先に、トラックの運転席に乗り、ケルビンとアンを待っていた。


「二人とも早く乗れ」


 トラックにケルビンが乗り込むと、解放された人質は口々に驚きを露わにした。


「に、人間!?」

「どうして!?」

「嫌よ!また、人間の下なんて嫌!」


「案ずるな、こやつは他の人間とは違う。

 この救出を指揮したのも、こやつだ」


「嘘だ!あんたは騙されてる!

  人間なんてどいつもこいつも、同じだ!

 卑怯者で、恥知らずで、冷血で……」


「口を閉じねば、切る」


 ユキノの冷たい目を向けられた荷台の獣人たちは、思わず口を紡いだ。

 だが、当の本人であるケルビンはその言葉に自嘲した。


「卑怯者で、恥知らずで、冷血か」


 トラックは、皆が逃げ出した関所を猛スピードで通り過ぎ、彼の故郷を後にした。


 ◇


 連邦の獣人刑務所から獣人が脱走。

 実行犯は獣人、それから人間。

 この信じがたいニュースは、すぐに連邦中に広まった。


 そして、中央の詰問により、今まで西部軍が必死に隠していた失態も明らかになった。


 第三獣人連隊反乱、彼の指導者は人間のケルビン・マイヤー。

 そして、犠牲となったのは彼の両親であるマイヤー夫妻。


 ケルビンの名は、反逆者の狂人と親殺しという二つ名と共に連邦中に知られることとなった。






そろそろ書き溜めがなくなってきたので、更新が一日おきぐらいになるかもしれません。

よろしくお願いします。

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