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ここに乗るのが目標だったので、大変嬉しいです。
扉を開けると、そこには護衛の兵が二人とマイヤー夫妻がいた。
だが、護衛の兵は待ち構えていたのではなく、何かの書類を燃やそうとしているところで、慌てて拳銃を抜こうとしたが、アンの両手拳銃によって二人とも撃ちぬかれた。
「あ、あああ……」
「ぶ、無礼者め……! 素顔を見せろ!」
マイヤー夫妻、いや、ケルビンの父と母は怯えて、取り乱していた。
ケルビンがガスマスクを脱いで素顔を見せると、両親は一瞬きょとんとした後、驚愕と怒りに満ちた表情になった。
「お前、まさか!?」
「神様、なんてこと……」
彼らの後ろに掲げられた写真は、殆ど、両親と姉エレナが移っている写真だったが、ほんの数枚だけ、ケルビンが映っているものもあった。
ケルビンにとっても、冷静でいるのが難しい状況だった。
彼はアンにハンドサインで、撃てるように準備するよう命じつつ、まずは冷静に考えた。
(落ち着け、進んで親殺しの修羅になる必要はない。
酌量の余地と、深い反省の気持ちがあれば、命までは……。
もしかすると、政府の命令で運営してただけで、獣人たちに最低限の人権を認めて接していたかもしれない。
それに、毒ガスも俺の勘違いかもしれない)
ケルビンは、兵たちが燃やそうとしていた書類を見る。
そこにはいかに小さなスペースに獣人を押し込めるか、致死性ガスの仕様要領書、若い女の獣人は傷がつかないようにせよとの命令書、それから、お得意先の情報が載っていた。
ケルビンは怒りと驚愕が混じった目で、両親を見る。
だが、その目を見た父は意味も理解せずに激高した。
「なんだその目は!? 恩を忘れた愚息が!」
「恩を忘れた? ぐそく? 何言っているの、こいつ!
ねぇ、ケルビン、早く倒しちゃおうよ!」
親と子、そんな事情を知らないアンは困惑している。
「待て! ……待ってくれ、もう少しだけ」
(小さな故郷を救うために、汚い手を染めるしかなかったんじゃないか?)
だが、改めて部屋の中を見渡すと、高給そうな家具に、ワインがずらりと並んでいた。
着る機会があるのかわからない豪華な仕立ての服がクローゼットからはみ出ている。
逆に道中のアビシキ村は、ケルビンの少年期とまるで変わらない殺風景が広がっていた。
「恥を知れ! 俗物!
人から評価されないからって、獣共の王になるとは……お前は生を受けるべきではなかった!」
「こいつ……!
ケルビン! 撃っていいでしょ、こんな奴!?」
父から息子へ向けたとは思えない言葉に、自分のことのように激怒したのはアンの方だった。
アンの尻尾の毛は逆立ち、全身で怒りを表している。
だが、彼女は理性で命令があるまで発射は控えた。
「やめてちょうだい! やめてちょうだい! やめてちょうだい!
せめて、私だけは助けてちょうだい!」
母はヒステリックに叫び、しゃがみ込み、ケルビンのことを視界に入れようともしない。
「何を言っている!? この子にして、この母か!? 」
「私だってこんな悪魔の子、産みたくなかったわ!」
「お前の劣等遺伝子のせいだろ!?」
あろうことか、二人は夫婦喧嘩を始めた。
ケルビンは顔を硬直させ、機関銃を構えたまま、ゆっくりと父に近づいた。
「く、来るな!
どうせ、金目当ての蛮行だろう!
欲しければやる!」
父はケルビンの返事も待たず、執務机の引き出しを開け、中から何かを取り出す素振りを見せた。
封筒を取り出すと見せかけて、彼が取り出したのは護身用の拳銃だった。
「死ね!」
父が構えようとするが、その前にケルビンに腕ごと撃ち抜かれる。
「ぐああああああああああ」
「貴方!?」
軍人に銃口を向けられていて、後ろには仲間の獣人もいるのに、何故、こんな幼稚なだまし討ちが通用すると思ったのか。
きっと、裕福になりすぎた結果、自分がすることは何でも上手くいくという妄想に取りつかれたのだろう。
「あんまりだ……愚かすぎる」
ケルビンは思わずつぶやく。
嘲笑する気にもなれず、ただただ唖然としていた。
父が痛みに絶叫する中、母は腰を抜かした状態で、恐怖の目でケルビンを見上げていた。
そして、何かをひらめいたかのように、声を上げた。
「わ、わかったわ!
伴侶、女に飢えたから、獣人に手を出したのね!?
そうでしょ!?
いいわ! この人の商売相手に、奴隷売人がいるわ!
若い人間の美女も……ぎゃああああああああ!?」
「どうしてくれるんだよ」
ケルビンは静かに呟き、母の肩を一発撃った。
「や、やめ、私は母さんよ、ひ、人でなしいいいいいい! 」
「うぉぉぉぉぉ……! ケルビン、父親を殺す気か!?」
「えっ、母さん? 父親?」
アンが事実にたどり着き、大きな瞳を見開いた。
ケルビンはフルオートモードに切り替えた機関銃を両手で構え、トリガーに手を添えた。
「どうしてくれるんだよ、なんで人の努力を無駄にするんだ?
こっちは人の道を踏み外さないようにって、必死で考えたのに。
ふ、ははははは、ははっ、ははは」
ケルビンの真顔が徐々に崩壊していき、乾いた笑いが漏れる。
笑うしかない、傑作だ。
「どれだけ探しても、殺さない理由がないじゃないか」
ケルビンの指はトリガーを引いた。




