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「外で何が起きたんだ?

 皆駆り出されてる」


「軍のお偉いさんが抜き打ち監査と張り切ってんだってよ。

 はっ、こんな薄汚いとこの何が見たいんだ?」


 マイヤー夫妻の刑務所長室とは対照的に、刑務所の最下層にある獣人たちの牢屋は冷たい無機質なコンクリートむき出しの空間だった。

 いや、牢屋というより猛獣の檻、獣人たちは劣悪な環境に苦しみ、うめき声をあげていた。


「退屈でどうにかなりそうだ。 

 な、誰かひとり犯してもバレないだろ? 」


 一人の兵が鼻息を荒げながら、少女の猫の獣人たちを指さした。

 彼女たちは手を合わせ、身震いする。


「やめとけって、女は刑務所長の()()()()()だぜ」


「ふぅぅぅぅぅ、興奮した俺はだれにも止められないぜ!

 バレない、バレないって!」


 その男は牢屋のカギを持ち、彼女らの牢屋に近づく。

 鍵を鍵穴に差し込むと、獣人の少女たちはさらに身を寄せ合い、身震いした。

 男はさらに興奮し、背後の同僚に声をかけた。


「お前も一緒に――」


 だが、背後に同僚の顔はなかった。

 あるのは血しぶきを噴水のように吹き上げた、同僚の首のない胴体だけだった。

 その後ろには狐耳を生やし、ガスマスクを装着した少女が、刀を一閃させていた。


「斬捨御免」


 ユキノは男の首の頸動脈に刀を滑らせた。


「う、うぎゃああああああ!?」


「な、なんだ!?」


「おい、獣が逃げ出しているぞ!」


 別の警備の兵が異変に気付き、拳銃を抜こうとする。

 だが、ユキノは電光石火の如く、血を蹴り、50mは離れていた兵の懐に数秒で飛び込む。

 そして、一人の兵を斬る、さらに転回するように別の兵に刀を振り下ろし、さらにバク転してもう一人を斬り捨てる。


「邪魔だ、お前達!」


「や、やめろ!」


 3人の兵が廊下の向こうから、短機関銃を乱射する。

 その射線には味方の兵が含まれていたが、彼らは構わず撃った。

 しかし、その銃弾は味方を撃ち抜いたが、ユキノにはかすりもしなかった。


「……!」


 精神を集中した彼女には、弾が止まっているように見えた。

 彼女は牢屋の間の狭い廊下で、積雪を走る雪狐のように軽やかに弾を避け、一部の弾は刀ではじいた。


 人間にはもちろん、並大抵の獣人では真似できない、孤高の業だった。


 3人の兵はじわじわと後退する。

 一人の兵は動作不良を起こした銃に気を取られた隙に、首を跳ね飛ばされた。

 もう一人は、足が竦んで、尻もちをついたところを、胸を一突きにされた


 残りの一人は、汗水をだらだらと垂らしながら、機関銃を連射していたが、とうとう弾が切れ、同時に廊下の突き当りにぶつかった。


「あ、ああ……」


「終わりか?」


 シューっとガスマスクの下から、ユキノの息が漏れる。

 ガスマスクの獣人、連邦軍人にとって恐怖でしかなかった。


「れ、連邦万歳!」


 男は立ち上がり、壁にある何かの装置のレバーに手を伸ばした。


「……愚か者っ!」


 だが、男がそれに力を加える前に、ユキノは兎のように跳躍して、瞬く間に男に肉薄し、その右腕ごと叩き切った。

 そのレバーには"ガス発生装置”と書かれていて、ユキノは安堵のため息を漏らし、刀を静かに鞘に納める。


 そして、先ほどの怯え切った獣人の少女たちの方に向かい、牢屋の扉を叩き切った。


「もう安心だ、恐れるな」


 だが、少女たちは抱き合いながら身震いしたままで、ユキノは深く傷ついた。

 が、直後、ガスマスクを着けていたことを思い出し、彼女はそれを外した。

 マスクを外すと、そこには黒髪の凛とした美少女が現れた。


 二人の少女は安心したのか、ユキノに飛びついた。


「うわぁぁぁん、騎士のお姉ちゃん!」


「こ、これ。離れないか。

 ……騎士ではない、侍だ」


 両脇から、猫耳の少女たちに舐められながら、ユキノはやや顔を赤らめながら言う。

 そして、ふと、猫耳を持つ同僚のことを思い出し、彼女が戦っているであろう上の階に視線を上げた。


(馬鹿猫、指揮官を頼んだぞ)













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