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マックスは眉間を撃ち抜かれ、眼孔が開いたまま死んだ。
彼の嘘を告発した部下も息を引き取っていた。
「本当は、獣人に大した恨みなんてなかったんだろう?
でも、皆が、連邦の指導者たちがそう言ってるから、同じく獣人に石を投げることを選んだ。
俺の邪魔する全てが俺の敵だ」
「指揮官」
ユキノの声により、ケルビンは我に返った。
周囲を見渡すと、バーバラが大きく手を振りながら、こちらに向かってきていた。
彼女はロープにつないだ連邦兵たちを引き連れていた。
「たいちょう、こおふく?した敵がいたから、連れてきたよ」
「あ、ああ。よくやった、偉いぞ」
話によると、この連邦兵たちは第七中隊の生き残りで、戦闘開始とほぼ同時に白旗を上げ、くぼみでうずくまっていたらしい。
ケルビンはバーバラにご褒美のキャンディーを渡して、彼女を帰らせると、連邦兵たちに向き直った。
「戦わずして降伏か。
突撃してきた連邦兵も大概だが、君たちはもっとだ。
もしも、獣人連隊が敵前で降伏なんてしたら、監視役であった君たちは迷わず撃っていただろうにね」
「ま、待ってください!
ケルビン指揮官、我々はあなたに交渉しにきたのです!」
「交渉?」
ケルビンは怪訝そうに眼を細めた。
事情を説明したのは、子供が生まれたばかりのケリー伍長だった。
中隊が獣人達にしてやられたというのは噂で広まっており、家族に危険が及びそうになっている。
もし、このまま、連邦に逃げ帰ったとしても、自分らは二度も逃げ帰った敗残兵として死刑。
家族すらもどうなるかわからないという。
「我々には戦死という選択肢しか残されていませんでした。
……ケルビン指揮官、どうか、ご慈悲を!」
「話にならない。
勝てば官軍負ければ賊軍、あまりにも身勝手すぎる。
そもそも、交渉というのは、こちらに理がないと成立しないものだ」
「もちろん、あります。
情報です。
こちらが提供するのは、獣人達を収容している刑務所の情報です」
「何?」
獣人達の刑務所、噂では聞いたことがある。
連邦に敵対的な獣人、任務に失敗した獣人、そんなものを一纏めに収容した施設だ。
ケルビンも調べようとしていたが、前線では情報を探ることもできなかった。
ケリーたちは頭を地面につけ、懇願した。
「正直、我々のような一兵は日々の暮らしに必死で、連邦の正義だとか、義務だとかは知ったことではありません!
もちろん、我々も協力します! 人間の協力があった方が、いろいろとやりやすいでしょう?
ですから、どうか、我らと家族を救っていただけないでしょうか? 」
ケルビンはしばらく考えた後、手を差し出した。
「全ては信じられないが、一考の余地はありそうだ。
資料は持っているか、確実性を確認したい」
「は! こちらになります。
刑務所という施設からでしょうか、立地は連邦の辺境の村となっていまして……」
「うん?」
ケルビンは『辺境の村』というワードと、資料に書いてある地名を読んで、胸騒ぎを感じた。
そして、ページをめくるたびに彼の顔は硬くなり、次第に手が震え始めた
やがて、全てに目を通すと、彼は天を仰いだ。
「くく……ははは、ははははははははははははは!」
「し、指揮官、どうした? 」
ユキノが心配そうに声をかけ、ケリーたちが困惑するも、ケルビンは笑い続けた。
もう、笑うしかなかった。
その刑務所の所在地は故郷の村であり、責任者は彼の両親だった。




